第74話 姉妹
それから思い思いに食事を楽しみ、ひと段落したところ──。
「さて、ジェイド? キューエル君のことだが……」
「ここで大丈夫なのか?」
「あぁ、この部屋は機密対策用の部屋だからな。店員も呼ばない限りは近づかないようになっている」
エメリアがキューちゃんの今後についての話を切り出す。
「ならいいか。じゃあまず、キューちゃんはミコの家に住むってことでいいよな?」
俺はまず最初にキューちゃんの居場所を作りたかった。無理なら別に俺の部屋にくればいい。エメリアには申し訳ないが、研究所に預けるつもりはない。
「あぁ、ミコさえ良ければ、それが良いと思う。何より契約者だからなあまり遠い距離や長い時間離れるのは良くないだろう。ミコ? 家にキューエル君を連れて帰って大丈夫か?」
ミコは食事の手を止め、口の中に入ってる分だけモグモグと咀嚼したあと、ゴクンと飲み込み、慌てて答える。その仕草が小動物みたいで微笑ましい。
「んぐ。もちろん、大丈夫です! お父さんとお母さんには召喚した友達を連れていくと前々から話してましたから」
「キュー!」
「うん、キューちゃんは小さいからミコと同じ部屋に住めるね。わっ、なに」
「キュー!! キュー!!」
どうやら居場所については問題なさそうだ。だが、何が気に食わないのか、キューちゃんはパタパタとはためかしている翼でミコの頭をぺしぺし叩く。
「ミコ? キューちゃんは何に怒ってるんだ?」
「えと、ボクは小さくなんかないって」
「……ップ。いや、カルナヴァレルと比べたら豆粒みたいだろ」
「キュー!!」
「痛い、痛い、ごめん、ごめん」
怒ってる理由があまりにも可愛かったため、ついつい俺もからかってしまう。当然、翼攻撃を食らう羽目になった。心なしか、ミコのときより強い。
「はぁ、まったく少しは真面目に話し合えないのか。それでミコ。キミの家で引き取るのは良い。では、外ではどうだ? 当然、私は召喚術が成功し、次元の狭間から新種の生物を呼び寄せたと流布するつもりはない。が、あまりに目立つだろう」
確かにそれはその通りだ。先ほどみたいに顔だけ鞄から出して運べば珍しいペット程度で済むかも知れないが、パタパタと飛んでいれば余計な関心が向けられ、人々の噂になり、いずれどこぞの機関が動くやも知れないし、ゴロツキに誘拐される可能性だってある。
「うーむ。確かになぁ。ミコが傍にいるって言っても、悪いオジさん数人に囲まれたら一巻の終わりだろう……」
俺たちはしばし、良い方法がないか考える。家に閉じ込めているのが一番安全だが、それは違うということだけは共通の認識だ。では、ミコと自由に外の世界を楽しむためにはどうすべきか。
「んー、あっ。キューちゃんも人の姿になるとかはどうだ? ていうかキューちゃんは人の姿になれるか?」
そこで俺はポンッと手を叩き、閃いたことを提案してみる。
「キュ~……」
キューちゃんは困ったような表情と声だ。
「ミコ、なんて?」
「やったことがないから分からないって言ってます」
「んー。なるほど。まぁひとまずできるか試してみよう。キューちゃん、さぁ気合でやってみるんだ!」
みんなはやや引いた目で俺を見つめてくる。根性論になるのは仕方ないだろう。ドラゴンが人になるための魔法やら特技やらを知るわけながないのだから。
「キュ、キュー!!」
だが俺の言ったことにキューちゃんは応えてくれた。両手をグッと握りしめ、気合を入れて叫ぶ。そして次の瞬間である──。
ぴかー。
辺りをまばゆい光が包む。光が晴れた先には──。
「ブッ」
素っ裸の幼女がいた。髪こそ親譲りの白だが、そのおかっぱ頭といい、目鼻立ちといい、どことなくミコに似ているどころか、まるで姉妹だ。これも契約魔法の影響なのだろうか。
「きゅ?」
そして、キューちゃんは自分の体をキョロキョロと見下ろし──。
「きゅー!!」
飛び跳ねて喜びはじめた。どうやら人化できたことが嬉しいようだ。
「でも、なぜにすっぽんぽんなんだ──いでっ」
「あんまりジロジロ見ないの。はい、男性陣は目を閉じる」
しげしげと観察していたら、ミーナに頭をはたかれた。まぁ確かに幼女とは言え、少し不躾な視線だったかも知れない。俺は言われた通り、目を閉じる。
「ちょっと、ゴワゴワしてるけど、ごめんね?」
「きゅ?」
「はい、できた。みんな目を開けてもいいよ」
目を閉じてるあいだにキューちゃんはミーナのコートを着せられていた。肩幅は全然合ってないし、丈も長く、上着というよりワンピースだ。
「ぶかぶかコート。キューべぇやるね」
なぜかそれに親指を立てて喜んだのはアマネだ。
「ふむ。見た目ではドラゴンだとまったく分からないな。これなら外を歩いても大丈夫だろう。キューエル君、すまないな。人の姿で窮屈だとは思うが、我慢してくれ」
「きゅ? きゅー!」
エメリアの言葉に不思議そうな顔をする。どうやら人の姿が新鮮で楽しいらしい。まぁ五歳という年頃は全てが真新しさに溢れて、刺激的で楽しいのだろう。
「ふふ、キューちゃん。人の姿の時は一緒に言葉の勉強しようね? ミコが教えてあげる」
「きゅー!」
そしてミコはまるで本当のお姉さんのようにキューちゃんの頭を撫でながらそんなことを言う。
すると──。
「きゅ?」
突如光りが溢れ、パサリとコートが落ちる。そこからもぞもぞと顔を出したキューちゃんだが、ドラゴンの姿に戻ってしまっていた。
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