第73話 終わりよければ
「……教えろよ」
「ん?」
「……だからっ、嘘ついて悪いと思ってるならちゃんと俺に魔法を教えろよって言ったんだよ!」
レオは気まずそうに下を向いて、耳まで真っ赤にしながらつんけんとそんなことを言う。俺はつい嬉しくなり──。
「ハハ、ハハハッ、あぁ、もちろんだ。立派な魔法剣師になれるよう教えてやるさ」
笑顔でそう返す。そしてひとしきり笑ったあと──。
くー。
「ん?」
「……アハハハ、ミコお腹が空いちゃったみたいです」
ミコのお腹のムシが鳴る。きゅー。
「キュー……」
そして同じようにお腹を押さえて、キューちゃんがへなへなとうな垂れる。気付けば辺りは夕焼けに染まっていた。なんだか昼食を食べたのが遥か昔のようにも感じるし、あっという間だった気もする。不思議な感覚だ。そして俺も随分消耗したから腹が減っている。
「そうだな。帰ってメシにするかっ! うっし、エメリア帰ろうぜ」
「フフ、そうだな。よし、全員飛空艇まで駆け足っ!」
珍しくエメリアが悪ふざけをし駆け出す。
「よーし、レオ競争だ」
「はぁ? 子供じゃあるまいし、俺そんなことしねぇし」
「よーい、ドンッ!」
「あっ、待て。おい、おっさんやるとは言って──待てっ!!」
「アハハハハ、そんなことじゃ立派な魔法剣師になれないぞー」
だからではないが、俺もバカみたいにはしゃいでみる。つい先ほどまで命のやり取りをしていたことを忘れるかのように。
「ミコもいきます! キューちゃん、よーいドンだよ!」
「キュー!!」
「わっ、キューちゃん速いっ、待って!」
そしてミコとキューちゃんも駆けてくる。
「アマネちゃんは?」
「……ミーナ先生は?」
最後尾ではアマネとミーナが顔を見合わせて──どうやら駆けてくるようだ。俺はそんな二人を微笑ましく思いながら、前を向き──。
「いっちばーん」
全力で走ってやった。大人げなく最初に到着してやった。手を抜いて生徒に花を持たせるなど言語道断。常に全力で向き合うべきだろう。そんなことをニヤニヤと考えながら飛空艇のタラップを上がっていくと──。
「遅かったな」
「……アゼルいつの間に」
なぜかアゼルが先に着いていたのであった。
「おい、おっさん! ずるいぞ! って、アゼル様!? ぷぷっ、おっさん負けてやんのー!」
そして立ち止まる俺の背中に文句を言っていたレオは、中にアゼルがいることに気付き、俺をバカにしてくる。だが、俺はあくまで二番だ。レオは三番なのだからバカにされるのはおかしい。
「キュー!」
「キューちゃん、速いよぅ……。もうミコだめ……」
「ほら、ミコ情けないぞ。そんなことではキューエル君を守れないぞ? 基礎体力からだなぁ──」
そして続々と飛空艇に乗り込んでくる面々。なんとも賑やかだ。
「で、最下位は……」
最後に上がってきた二人を見る。アマネ、ミーナの順だ。ということは──。
「……ミーナ先生」
ということだろう。だが、ミーナは──。
「え!? アマネちゃんでしょ!? タラップまでは私の方が早く着いたけど、先を譲って──あっ」
大人げなく、最下位じゃないことを主張する。そして気付いたのだろう。ニヤニヤするアマネと、同じような表情で見守る周囲の視線に。
「ご馳走様です。ミーナ先生可愛いですね」
「だろ? ミーナはからかうと可愛いんだ。だが、怒ったときは怖いから気をつけろ?」
アマネはイタズラが成功したことを喜ぶ。俺はついつい調子に乗って、それを煽ってしまう。当然、そのあとミーナのご機嫌を取るのが大変だったのは言うまでもないだろう。
こうして俺たちは死ぬほど大変な思いをしたが、終わりよければ全て良しとばかりに笑いながら王都へ帰る。それからは──。
「私の奢りだ。好きに食べてくれ」
エメリアの行きつけの店だという高級料亭の一室を貸し切り、打ち上げとなる。
「よーし、先生は遠慮なく食べるとしよう。肉料理だ。メニューにある肉料理を一通り持ってきてくれ」
「ジェイド先生? バカな頼み方はしないで下さい。それと栄養が偏りますからきちんと野菜を食べて下さい」
俺の頼み方にケチをつける幼馴染。久しぶりのガチ戦闘だったから肉食な感じになってしまうんだ。分かってほしい。いや、分かってもらえないだろうけども。
「……恋人というより奥さんですね」
「わっ、素敵っ」
「アマネちゃん? ミコちゃん? 聞こえてますよ?」
そして、そんな俺たちをからかう二人に対し、ミーナはくるりと笑顔を向ける。アマネとミコはひどく怯えている。ついでにキューちゃんまでも。
「ククク、ジェイド。良かったな、いい嫁がいて」
「おい、エメリア。お前までやめろよ。ミーナすぐ怒るんだから」
「だがジェイド。僕だって心配していたんだぞ? まったく女っ気がなかったからな。変な意地を張らずにだな──」
「エメリア様ぁ? アゼル様ぁ? 店員さんが困ってますから先に注文しませんか?」
店員の顔は蒼くなっていた。恐らくだが、それはミーナの出す怒気にビビっているのだろう。
「んー、俺はコレとコレとコレ」
そしてレオは外野のことなど一切気にせず、メニューとにらめっこだ。マイペースでよろしい。
なんとか全員分の注文を頼み、飲み物がきたところで──。
「では、新しい仲間に──」
──乾杯っ!
杯を打ち合わせる。
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