第143話 思いついちゃった~♪(内心)
そして、操舵室に行ったからには操舵を変わらねばなるまい。
俺は気合を入れて操舵に臨んだ。結果は自分で言うのもなんだが、大健闘であろう。と言うのも操舵を代わるのは数分のつもりであったのだが、ヴァルのやつは小一時間ほどキューちゃんと遊んでいたようだ。いざとなればヴァルが助けてくれるであろうが、万が一があってはならない。人間本気を出せばなんとかなるものである。
というわけで皆の安全のために俺は頑張った。誰も褒めてはくれないから自分で褒めるしかない。その後、疲労困憊ながらもミーナとフローネさんが作ってくれた夕食を平らげ、少しげんなりした気持ちと体力が回復する。気付けば──。
『どうやらあれが魔帝国の帝都のようだな』
辺りは既に夜の帳が下りており、ヴァルの視線の遥か先に僅かばかりの明かりが見える。どうやらあの明かりが帝都のようだ。
「ヴァルお疲れ様。それじゃ察知されないであろうところまで頼む」
そしてバベルは透明なまま、近くの平原へと着艇する。デッキに出て、辺りを探ってみるが、何の気配も感じられない。帝都からはかなり離れているため、バベルが見つかることはないだろう。
「さて、みんな着いたぞ。下りてくれ」
安全を確保し、そう言うと遂に俺たちは魔帝国領に降り立つ。少しだけ感慨深い。と言うのも一般人はあまり他国へ出入りするという機会が少ない。一部の上級貴族や商人くらいだ。魔法局の中でも他国へよく出入りする者もいたが、それもやはり一部の上級局員だ。
「せんせー、真っ暗ですね……」
「アハハ、真っ暗~!!」
「あ、コラ、エルぅー、暗いところを走り回っちゃダメよ~」
だが、他の者たちはあまり他国ということに気負ってないようだ。ミコは暗がりに少し怖がって俺の服の裾をキュっと握りはじめるし、キューちゃんはなぜかはしゃいで走り回っているし。
「……ここは風の声が静か。まるで死んでしまっているかの──ハッ、どうやらここもじきに腐海に沈む……。いきましょう」
アマネはアマネで風の音に耳を澄ましながらブツブツと独り言を喋り、ハッと何事かを思いつくと、ニタリと笑う。そして腐海に沈むなどいうわけのわからないことを言い出して、悦に浸っていた。つまり通常運転だ。
「……ジェイド先生、大変ね」
「……あぁ、このパーティで果たして原始の魔王の謎を探れるかとても不安だよ」
「……せんせー、ごめんなさい」
「あ、いや。ミコはまともなメンバーの方だ」
現在進行系で俺の服の裾を握っているミコには当然今の会話は聞こえているだろう。慌ててフォローする。が、今言った言葉はお世辞でもなんでもなく本音だ。
「なんだ。ジェイド。では我の娘がまともではないと言いたいのか? おん?」
「……正確にはキューちゃんを止めようと追いかけていったら楽しくなってしまって一緒になって駆け回ってるフローネさんも、だな」
喧嘩腰で話しかけてくるヴァルに呆れながらそう言葉を返す。そう、いつの間にかフローネさんもアハハハと笑いながら暗闇の中を疾走していた。女性と幼女、だがその正体はドラゴンという人とは比較にもならない強靭な種族だ。そんな二人が本気で追いかけっこをする光景は微笑ましさなど優に通り越し、憧れすら覚えてしまう。
「ほぅ、ジェイド……貴様、我の嫁まで愚弄するとはいい度胸だ。星が綺麗な夜だな。死ぬには丁度良い。ここで──」
そしてそんな言葉と共に闘気を開放するヴァル。しかしそれを止めたのは──。
「はいはい。カルナヴァレルさんもあまりはしゃがないで下さい。なんで男の人ってテンションが上がるとすぐ喧嘩しようとするんでしょうか。みんな一旦静かに集まって下さい、ね?」
ミーナだ。パンパンと両手を叩き、場を取り仕切ろうとする。ニコリと笑うその笑顔はこの暗闇の中で見ると恐ろしさが普段の三割増しだ。慌てて戻ってくるキューちゃんとフローネさん。ヴァルも食い下がることなく押し黙る。それはそうだ。ヴァルはヴァルであんなセリフを言っていたが顔は終始ニヤついていた。つまり、ミーナの言葉通り、見知らぬ土地の闇夜に興奮していただけなのだ。
「皆さんが集まって静かになるまでに流れ星が四つ流れました。願い事を四つも逃してしまいましたね。では、ジェイド先生どうぞ」
「え」
ようやく全員が集まったところで、ミーナがこのまま取り仕切ってくれるんだろうなぁーとぼんやり他人事のように考えていたため、不意のパスに困惑の声しか出なかった。
「コホン。ジェイド先生、今から私たちはバレずに帝都に入らなければならないんですから、その手順や注意点などをお願いします」
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