第142話 手段検討会改め反省会
「ジェイド……。それはマズイよ? 子供を教える立場になったんだから大人の自覚を持たなきゃ」
真面目に説教をしてくるのであった。
「分かってるよ。流石に冗談だ」
「冗談じゃなかったでしょ」
「う……」
俺的にはかなり上手いこと誤魔化せたつもりだったが、ミーナは確信を持った言い方で否定してくる。そのあまりの迷いなき一撃は俺の言葉を詰まらせるには十分であった。となれば──。
「さて、どうやって帝都へ入ろうか」
「あ、誤魔化した」
はい。その通りです。
「……まぁいいけど。確か、帝都の城に現れた原始の魔王の墓守騒ぎで入場審査が厳しいんだよね?」
「そうなんだよ。で、俺は王都の貴族たちから出国の禁止令と他国への入国禁止令が出ているらしい。よくやるよ」
らしいと言うのは俺はそれを中央の貴族たちから直接聞いておらず、ベント伯から聞かされた情報だからだ。ベント伯が言うことであれば確かであろう。俺は肩をすくめながら困ったものだとミーナにそう零す。
「でも、魔帝国の人はジェイドがジェイドだって分かるのかな?」
「ベント伯は何度か魔帝国に行ったことがあると言っていたが、通常の入国審査であればバレる可能性は低いだろうと言っていたな。ただ、厳重な審査であれば、入国禁止リストに載っている名前と顔を細かく参照するだろうから難しい、と」
「そっか……」
「それにアマネの眼帯と包帯の下を見られたらそれこそ入国拒否どころか、下手したらそのまま連行される可能性すらある」
金眼と呪痕。どちらも原始の魔王に深く関係するもの。そこからアマネが墓守だと疑われ、捕われる可能性は十分にある。というよりほぼ確実だ。
「じゃあやっぱり普通に入国は難しそうだね……」
「だな」
普通の入国以外での入国方法を考えるほかあるまい。
「う~ん、例えばカルナヴァレルさんに透明にしてもらったまま、魔帝国内部に下りちゃうとか?」
「それも実際に帝都を見てみないことにはどうしようもないな。流石に音や風までは消さないだろうから近くに人がいればバレてしまうだろうし。そんな都合よく誰もいない広い場所が帝都内にあるかと言えばかなり非現実できだろうからなぁ」
俺はチラリと上空を飛んでいるヴァルの方を見る。その視線に気付いたのがヴァルが俺に視線を返してくる。その目はその通りだと言っているようであった。どうやら風や音、いわゆる気配までは消せないようだ。
「ジェイドは思いついてるの?」
「ん? そりゃ一つや二つはな。ミーナだって俺の前職は知ってるだろ?」
「え、ほんと? ジェイドの前職って宮廷──あっ」
ミーナはそこでピンと来たようだ。そう、俺の前職は宮廷魔法師、より正確に言えば、宮廷警護課の魔法師となる。となれば──。
「あぁ、賊の侵入が日常茶飯事だったからな。イタチごっこだよ。こちらは侵入させまいと、あちらはどうにかバレずに侵入してやろうとな。その中である程度潜入のノウハウは学んださ」
「じゃあジェイド……」
「おう」
ミーナがうるうるとした目で見上げてくる。続く言葉は魔帝国への潜入ミッションは任したよという感じだろう。たまには幼馴染に頼れるというところを見せることができたと俺は少しだけ得意げになり、胸を張る。
「魔法科の先生になってなかったら、盗賊になってたかもなんだね……」
「あぁ、任せろ──って、なんでだよ!」
だが、幼馴染から返ってきた言葉は予想とはまったく違うものであった。
『ガハハハハ、コソ泥ジェイドか。それはいいな』
先ほどから聞き耳を立てているヴァルはヴァルでイイおもちゃを見つけたとばかりにからかってくる。
「あ、ジェイド。ごめん、つい。すごく得意げに話すから、その……」
「いや、ないからな? 入っちゃいけないところに入ったことは──」
俺はミーナのことをジト目で睨みながらそこまで言いかけてふと考える。そんなことをしたことはないよな、と。だが一つだけ思い出してしまったのだ。つい先日、王都でミーナの浴室に突入してしまったときのことだ。だがこれは自分の意思、つまり覗くつもりで潜入したわけではないのだから、ノーカウントでいいだろう。
「入ったことは?」
「……ない、と思います」
だがミーナにそう聞き返されると、なんとなく罪悪感がむくむくと鎌首をもたげてきたため、言葉尻がつい弱々しくなってしまう。そう言えばミーナのおしりはほどよい大きさで丸くてかわいらしかっ──。
「ハッ!?」
気付けば至近距離でミーナがこちらを見つめていた。
「んー? ジェイド? 何考えてたのかな? 難しい顔しながら口元だけニヤけてるってよほど特殊な場所にでも入ったことがあるのかな? 例えば、お風──」
「さて、ヴァル! 交代の時間だ!! そろそろ疲れただろう? 少し休んでキューちゃんとフローネさんとくつろいでくれ! じゃあミーナ、俺は操舵室へ行ってくる! 操舵にはかなり魔力が必要で一瞬でも集中力が切れたら危ない。というわけで誰も操舵室へは近づけないでくれ、もちろん、ミーナ自身もだぞ? じゃ」
俺は言いたいことだけ言って、ミーナから逃げた。
「……もう、ジェイドってば。カルナヴァレルさんどう思います?」
『フン、別に事故だったのだから堂々としていればいいものを狼狽えよって。まぁそれがジェイドらしいと言えばらしいのだろうな』
後ろからそんな声が聞こえてきたが、この状況で堂々としていられるだけの度胸がないのは自分が一番知ってるため、何も言い返さずに一路操舵室へと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます