第30話 個性豊かな生徒たち
「はーい、ケルヴィンです。趣味はガラクタいじり。将来の夢は
茶髪の優しそうな少年だ。これまた魔工技師という珍しい将来の夢を語り始めた。魔工技師──すなわち魔道具の製造職人である。今の暮らしはこの魔道具で成り立っているためとても大事な仕事である。ただし、この年代くらいの子たちからはあまり人気がない。それこそ華や派手さがないからだ。
「必要のない仕事などはないが、魔工技師は特に社会にとって重要だ。是非将来素晴らしい魔道具の数々を作って欲しい。座ってくれ。えぇと次はサーシャか。サーシャ」
「…………」
窓際最後列に彼女は座っていた。長く綺麗な黒髪の少女は俺が教室に入ってきてから一度もこちらを向いていない。外をただぼんやり眺めているようだった。
(うん、分かりやすい非行少女スタイルだな)
恐らく反抗期と呼ばれるものだろう。だが、社会に出た時その場その場の空気や機微を読めなければ出世は愚か、まともに仕事を振ってもらうことすら難しくなる。
「サーシャ? 聞こえているかー? おーい、サーシャ?」
九分九厘無視だが、万が一聴力に少し難がある可能性もある。いや、自分で考えておいてそれはないと分かっているが……。俺は教壇から降り、サーシャの席の近くまで声をかけに行ったのだ。
「ウザイ、ほっといて」
「えー……。一応俺教師なんだが……。ウザイとか言っちゃう?」
初めて目を合わせた彼女は、そのとても綺麗な顔を歪ませて、ありったけの悪意をこめて短く言葉を吐いた。なので俺は立場を利用する。一応とか言っちゃうあたり、まだ自分自身教師としての自覚が足りないのだろう。そしてそんな時、教壇の近くから声が飛んでくる。
「サーシャ。先生が困っているだろう。きちんと自己紹介くらいしたらどうだ」
振り返ってその声の主を視界に収める。このクラスの生徒ヒューリッツだ。彼は銀髪であった。とても綺麗な髪の色であるが、銀髪は魔力的素養が最も低い髪色。魔法師を目指す学院では滅多に見ることはない。
「あー、ヒューリッツありがとう。まぁ初対面で緊張しているかも知れないし、明日から徐々にお互いを知っていけば──」
「ウザ」
「……いいだろぅ」
「サーシャ! その反抗的な態度は改めたまえ! 君一人の問題ではなく、教室全体の空気が悪くなる!」
ついつい語尾が小さくなる。どうやら気を遣ったはずがむしろ嫌悪感は増したみたいだ。俺は少しだけ凹む。そしてなぜかその一言にヒューリッツが怒り出し、立ち上がって強めに言葉を発した。
「うわー、出た委員長」
「いいぞー。もっと言ってやれ委員長!」
他の男子生徒がそれを面白がって囃し立てる。まずい、このままでは収拾がつかなくなる。
「いや、待てヒューリッツ。そこまでだ、ありがとう。うんうん、そうだな。ヒューリッツの言うことはもっともだが、まぁ穏便にいこうじゃないか。よーし、そのままヒューリッツの自己紹介に移ろう。そうしよう」
俺は教壇に戻りながら両手を叩き、仕切り直しを求める。一旦リセットだ。リセットさせて下さい。
「……そうですね、これ以上はかえって迷惑になってしまいますね。……僕はヒューリッツです。王都からきました。趣味は魔法の研究。特に自然魔法操作に興味があります。将来の夢は魔法を教える教師になりたいと思っています。よろしくお願いします」
(うん、ヒューリッツはとても真面目で一番まともそうなのだが、なぜだろうこの混沌とした教室ではむしろ異質に見えてしまう)
委員長と呼ばれていたが、まさに委員長タイプの人間であろう。ただ少し真面目すぎる印象を受けた。大人になり、汚い世界を見たときが心配だ。世の中は正しいことや正論だけでは動いていないのだから。
「あぁ、自然魔法操作か。中々渋いところに目をつけたな。俺も自然魔法操作は一通りできる。それに教師を目指すのも立派な志だ。これから一緒にがんばっていこうな。座ってくれ」
そう自然魔法操作は攻撃魔法に多用されるため、俺も得意なのだ。だが、きっとヒューリッツは派手な攻撃魔法を使いたいから研究しているわけではないだろう。
「さて、じゃあ次はミコだな」
「はいはーい! 待ってました! ミコです! 出身はクレンソ村です! えぇとアーカ山にある村なんですけど知ってますでしょうか? それで、えとえと趣味は動物たちと遊ぶことです! 使いたい魔法は召喚魔法! 将来の夢は召喚魔法師です!!」
やや長めの髪を一つにくくった背の低い少女──ミコはとても元気であった。髪の色は薄い紫──つまり魔力的素養は十分だ。
(紫が二人、黒が一人──そして銀が一人か。なんだか本当にビックリ箱みたいなクラスだな。そしてその中の一人、ミコ。召喚魔法……俺どうやって指導したらいいんだよ……)
召喚魔法──未だ机上でしか語られていない魔法。別の世界と空間を繋げてそこから生命体を引っ張り出し、使役する。どんな工程の魔法を使えば可能となるのか考えるだけでも嫌になる。
(まぁ、ただ知り合いがもっぱらコレの研究をしているから、ちょっと聞いてみるか)
学生時代の友人が魔法研究職として召喚魔法も研究対象にしていたからもしかしたら成功しているかも知れない。彼女は本物の天才なのだから。
「よーし、ミコ。元気があっていいぞ? 召喚魔法な? 未知のものに挑戦するのはとても大事なことだ。ミコが世界で初めての召喚魔法師になれるように俺は応援するぞ? よし、じゃあ座ってくれ」
ミコは頑張ります、とやはり元気な声で返事をしてから座る。そして最後は──。
「……お前か。レオ」
「なんだよ、おっさん。俺のときだけ態度ちげーじゃん!」
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