第124話 新人教師と新人魔法使いたち
レオは昨日起こった出来事を説明した後、最後にもう一度頭を下げて、そう頼み込んできた。
「はぁ……。話は分かった。と言っても俺はサッカーという競技を知ったのは昨日が初めてだ。やったことはおろか、見たことすらない。それにヒューリッツの言う通り、お前らはまずサッカーより進級だろ?」
話は理解できたが、受けるかどうかは別だ。正直、特進クラスの子たちはもう気にしちゃいないだろう。むしろ、これでサッカーにかまけて魔法を習得できず退学になったらそれこそ特進クラスの子たちに笑われてしまう。
「じゃあ俺とキースとケルヴィン、委員長の四人が課題魔法を覚えたら監督をやってくれ!」
「ん?」
そこで俺がどうやってサッカーではなく、魔法について真剣に取り組んでもらえるか上手い方法がないか考えていると、レオからそんな言葉が出てきた。
(男子四人が課題魔法を習得したら……?)
理由がどうであれ魔法に対するモチベーション、姿勢が改善されるのは願ってもないことだ。習得できてしまえば進級は問題ないということで、サッカーをやるのもいいだろう。逆に達成できずともサッカーには出場しないのだから、そのあとも魔法の訓練に集中できる──。
「よし、そこまで言うならいいだろう。だが、一つだけ条件がある。仮に四人とも課題魔法を習得できず、サッカーに出場できないとなっても腐るなよ?」
俺は目を閉じ鷹揚に一つ頷いた後、保険を掛けておく。
「あぁ、もちろん! よっし、早速魔法の訓練しようぜ!」
「バカモノ。朝のホームルームがまだだ。ちなみにサッカーは七人必要なんだろ? そっちは大丈夫なのか?」
「え? あ、あぁ……もちろん」
レオの目が一瞬泳いだ。つまり嘘。どうやらまだミコやアマネ、キューちゃん、サーシャの協力は取り付けていないようだ。こいつ昨日勢いでポカをやらかしたのに、また今日も同じ過ちを……。まったく反省しないやつだ。
「はぁ……。まったく、だが男なら一度吐いたツバを飲み込むなよ? 魔法の習得には全力を尽くすこと。参加メンバーはレオ、お前が交渉すること。ほれ、分かったら朝のホームルーム始めるぞー。委員長号令」
「ぐっ……」
レオ以外は全員席についており、俺とレオの会話に耳を傾けていた。
(まぁ恐らくミコとキューちゃん、アマネあたりは協力してくれるだろう。サーシャは……うん、可能性はゼロでは……ないよな)
「起立ッ!! 礼ッ!! おはようございます。着席ッ!!」
そんなことを考えながらもう慣れてしまったヒューリッツの号令で挨拶をし──。
「ほら、レオお前席戻れなー?」
どうしようか考えあぐねている様子のレオの相手はせず、席へ戻るよう促すのであった。そしてこの日から魔法科努力クラス男子のデスマーチが始まったのである。
「ほれ、起きろ。特進クラスのやつらに負けたくないんだろ?」
「おろろろろ」
「げろろろろ」
「としゃとしゃとしゃ」
「だばだばだばだば」
四人は声を上げる代わりに胃の中身をぶちまけていた。血でも汗でも涙でもない。青春のキラメキとでも言うべき胃液だ。各々意識を朦朧とさせながらもちゃんと自分でキラキラ袋を握りしめ、粗相することはない。訓練の賜物だ。
「いいか、ソレはお前たちが肉体を、魔力器官を限界まで酷使している努力の結晶だ。青春のキラメキだ」
四人はゼイハァゼイハァと息を荒くし、俺を睨んでくる。
「いいぞ。その目だ。ただサッカーで勝っただけでは特進クラスのやつらを見返すことはできない。やつらはこう言うだろう。お遊びのサッカーで勝ったところで本分である魔法を疎かにしているなんて滑稽だと。お前らはサッカーで勝ち、そして魔法でも勝つんだ」
普段のキースやケルヴィンであればバカバカしいと逃げ出すだろう。だが、今は違う。レオは負けず嫌いだし、ヒューリッツは元から魔法に対し意欲的だった。四人は文句を言わず、必死に魔法を習得しようとしていたのだ。
「夢にときめけ、明日にきらめけ、ばーい、かわとーこーいち」
「ん? アマネなんだそれは?」
自身は呪痕により魔法が使えないため、訓練を見学し、積極的に男子四人のサポートをしてくれていたアマネが突如変なことを言い出す。
「アッチで似たような話があった。落ちこぼれの生徒たちが新しく来た教師に感化されて更生してスポーツに打ち込むってやつ。熱血的で人情深く、自らの信じる道を愚直に進むカッコイイ先生」
「ほぅ。アマネがそこまで褒めるということは、さぞ人徳の高い教師だったのだろう。なるほど、そしてそのカワトウコウイチなる偉人が残した言葉がそれなんだな」
「え、あ、うん。偉人っていうか──」
「よーし、お前ら! かの偉人カワトウコウイチ氏の言葉を借りようじゃないか。夢にときめけ、明日にきらめけ! ほれ」
俺は少し青臭い言葉を高らかに叫ぶ。四人とも微妙な表情だ。いや、分かる。若干恥ずかしい。だが、俺が言ったんじゃない。かの偉人が言った言葉なのだ、恥ずかしがることはない。
「……漫画なんだけどね」
「ん? アマネなんか言ったか?」
「んーん、頑張ってきらめいて」
「? おう。よしっ。お前らミコに追いつけ追い越せだ!」
そして俺は這いつくばる男子四人の隣で訓練しているミコとキューちゃんに視線を向ける──。
「ミコー、見てー。だいろくいかいまほー。さもんへるずモゴモゴモゴ……」
「待て待て待て! キューちゃんダメだ! その謎の異世界魔法は禁止だ!」
怪しげな気配を感じて注意を向けていて正解だ。俺は慌ててキューちゃんの口を手で塞ぐ。キューちゃんは目を離すと様々な世界の魔法を唱えようとするのだ。それも明らかに凶悪な攻撃魔法を。竜の血の記憶恐るべし、である。
「えー、かっちょよさそうだよー?」
「フフ、キューちゃん。せんせーから禁止されてるからだーめ。こっちの魔法をがんばろうね」
そしてミコはキューちゃんの対応にも慣れているようで、小さく笑いながらたしなめた後、魔法を唱えるべく一つ深呼吸をした。
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