第150話 fall
一方、話題の渦中にいるネアを引き連れてくれているフローネさんたちはと言うと──。
◇
「ネア君って何歳なの?」
艇内を歩きながら私はネア君に質問をしてみた。なにも華奢で色白スベスベなお肌をしたネア君が可愛くて、興味津々だから質問したわけではない。ジェイくんがネア君のこと怪しんでいるから、その正体を少しでも探るための調査なのだ。うんうん。
「ボク? 十三だよー」
ネア君はあっけらかんと答えた。嘘をついているか見極めるため、ジッとその目を見つめる。うん、よく分かんない。
「偶然。私たちも十三」
「わー、一緒だねー」
「エルはこれ!」
その横ではアマネちゃんやミコちゃん、それにエルまで自己紹介を始めた。ジェイくんの話を聞く限り確かに怪しいけど、私の中では今のところ悪い子には見えない……かな。
「へー、エルちゃんは五歳なんだ。しっかりしてるね」
「ふふ、自慢の娘ですから! エルはしっかりものですから!」
「ママー、くるしいー」
訂正、悪い子じゃない。うちのエルのことをよく分かっている。イイ目をしてるわ。私はエルをぎゅっと抱きしめながら心の中でうんうんと頷き、ネア君の評価を上げる。でもアマネちゃんは違ったみたい。
「ネアは何してるの?」
普段からあまり感情の起伏が激しい子じゃないけど、慣れてくるとその違いは分かる。これは警戒。アマネちゃんはとても良い子そうに見えるネア君を信用せず、徹底して怪しんでいる。偉い。
「何って? あぁ、確かみんなは学生だよね。ボクは働いてるよー。ギルダーって知ってる? まぁ正式なギルダーは十五歳からだから見習いだけどね。だからこうやって生活費を稼ぐために直接依頼をもらってるんだよー」
スラスラと素性を喋るネア君。あらかじめ用意していたようにも思いつきで言ったようにも見えない。確かにそれならジェイくんに直接依頼を貰った辻褄としては合っている。けど、こんなことを言うのもなんだが、この歳で働いてるわりには服装は小綺麗で家は裕福そうだ。だとしたらどんな事情で働いて──。
「わっ、大人だ! ネア君偉いね」
「ネア、えらーい!」
「あはは、ありがとう。でも、偉いなんてことないよー。一人暮らしだからお金を稼がないと生きていけないだけだってば」
なるほど、一人暮らしか。親はどうしたの? なんて流石に聞けないし……。でも、ホント謙遜も上手だし、イヤミもない。この年齢で働くっていうのは相当頭が良く、社会性に長けていないと難しいだろうから、ネア君はとても優秀ってことは間違いないわね。
「その歳で一人暮らし? 家族はいないの?」
流石に聞けないと思った質問をアマネちゃんは平然と、まるで犯人に対する取り調べのように容赦なく聞いた。聞きづらいことを代わりに聞いてくれるのはありがたいため、注意せず静観する。でもデリケートな質問を聞くときに微妙に嗜虐心を表情に出してしまうのは直した方がいいと思うわ。
「アハハ……。うん、同情しないで聞いてほしいんだけど、捨てられたんだよねー。でも、拾われた孤児院はすごく良い所だったし、こうして今も元気に生きていられるから何も問題はないよ」
「ネア、捨てられたの? かわいそー。よしよし」
「まぁ、エルったら優しいっ」
うちの娘は同情するなと言って笑い飛ばすネア君の発言をまるっと無視して、同情しながら頭を撫でだした。うん、これには流石にネア君もどうしていいか分からないみたいね。エルの無垢な優しさの勝利よ。
「ふーん。ほら、ミコも何か聞いてみたいことないの?」
「え、私? え、えー。う~ん、好きな食べ物とか?」
「却下。つまらない。もっと面白い質問をどうぞ」
「えー。じゃあカノジョさんはいますか?」
「ぐっじょぶ」
自分と同じ境遇であることをふーんの一言で流して、恋人がいるかの質問に嬉しそうに親指を立てるあたり、アマネちゃんは本当にいい性格だ。そんな無茶振りに大して困る様子もなく応じたミコちゃんだけど、なんだかんだで悪ノリが好きなのはみんな知っているので、驚くことではない。
「いないよー。恋愛なんてしている暇がないからねー」
「あら、ネア君それは違うわ! 恋愛はするしないじゃないわ。気付いたら落ちてるものなの……」
「「「おぉ~……」」」
考え事をしながら会話を聞いていたら、つい反射的にドヤ顔で場末の酒場のママみたいなことを言ってしまった。女の子たちからは拍手が送られるのが余計に恥ずかしい。
「アハハ……だったらボクはまだ落ちたことがないから、よく分からないかなー」
ほら、ネア君も今日何度目かの苦笑だ。
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