第151話 びーえる
「はいはーい! エルも聞きたいー!」
どうやら次はエルから質問があるみたい。母親としてはどんな質問をするのか非常に気になる。
「どうぞ?」
「ありがとー! ねぇねぇ、ネアは強い?」
「もぅ、エル……」
私は額を押さえて、頭を振る。変なところばっかりヴァルに似て……。いや、うん、ヴァルは全部変だから似たところが全部変になるのか。変なことを聞くのは止しなさいと注意しようとしたけど、ネアくんは答えてくれるみたいで、私に大丈夫ですよ、と笑みを向けてくれる。いい子ね。
「うーん、そうだなー。強いっていう言葉は色んな捉え方ができるからねー。エルちゃんが聞いてるであろう強いって意味だと、まぁまぁってとこじゃないかな?」
けど、ネアくんは冗談か本気か分かりづらい返答をし、不敵に笑った。これはやられた。
「ふーん。ネアはまぁまぁ強いんだねー。エルもまぁまぁ強いよー?」
ほら。こーんな軽い挑発にエルは素直に乗っかるんだからね? そしてネアくんに向けて、拳を構えたのだ。当然、もう見ていられない。
「コラ、エル! はしたないからやめなさい。いい? 初めて会った人に強いかどうか尋ねて、殴り合って仲良くなろうなんて考えるのはろくでもない人よ? 女の子ならもう少しお淑やかにしなさい。いいわね?」
「……はーい」
私が叱るとエルはへなへなと拳を下ろして項垂れる。怒られた時の顔までヴァルそっくり。今頃、もしかしたらろくでもない人はくしゃみをしているかも知れないわね。
「アハハ、ボクの方こそからかってごめんねー。さて、案内ありがとうございました。そろそろいいんじゃないかな?」
ネアくんは時計をチラリと見た。それは向こうの相談もそろそろ終わっている頃でしょ、という意味だ。確かに案内を始めてから一時間。そろそろ頃合いかも知れない。でも、あっという間に感じのは、ついネアくんとみんなの会話を楽しんじゃっていたのだろう。反省。
「ママー、どうしたのー?」
「ん? なんでもないわよ? そうね、じゃあジェイくんたちのところに戻りましょうかっ」
私は気を取り直し、みんなを引き連れてラウンジへと戻る。ノックをしてから扉を開けると、そこには──。
◇
「へっくちぃー!! あぁ……」
「ヴァル、クシャミ止まらないけど大丈夫か? 風邪……とか引くのか? あ、みんなおかえりー」
相談が終わったと思ったらクシャミを連発しはじめたヴァルにティッシュを渡しながら扉の方へ片手を上げる。フローネさんたちが戻ってきたのだ。
「ただいま。あら、ヴァルったら風邪? ……なんて引くわけないんだから、誰かが噂でもしてたんでしょ。さて、喉が渇いたから飲み物でも用意しようかしら」
「あ、フローネさん、私が用意するんで座ってて下さい。みんなは何が飲みたい?」
フローネさんは夫が鼻をズビズビしているというのに、まったく興味がない風に流す。夫婦というものはお互い空気のようになると聞いてはいたが。そして、そんなフローネさんに代わって、ミーナが飲み物を準備するようだ。生徒たちは思い思いの飲み物を頼んでいる。
「ジェイド先生は?」
「任せる」
「……そういうのが一番困るんだけどね?」
「こういう時、ズバッと決められない男はモテない」
「わっ、アマネちゃん言い過ぎだってば」
「せんせはモテないー」
「……君たちうるさいよ?」
ミーナにイヤミを言われ、生徒たちからは散々にからかわれる。残念ながら俺の味方はいないようだ。
「そう? ボクはお兄さん素敵だと思うけどなー」
「……え」
と、思ったら思わぬところに味方がいた。ネアだ。こういう場面で褒められることには慣れていないため、折角の援護にもどう反応していいか分からない。
「え、センセー、気持ち悪い。なんで頬を赤らめて俯くの? ショタBLが始まるとでも言うの? なんなの?」
「わっ、アマネちゃんBLって……」
「フフ、そう。ミコも好きなBL」
「わわわっ、シーッだよ!」
「えー、びーえるってなにー? エルにも教えてー!」
「エルにはまだ少し早いわね。まずは一通りNLの名作をなぞってから、こっちにいらっしゃい」
生徒たちがまたもや騒ぎ出す。優雅に微笑みながらキューちゃんを窘めているあたり、フローネさんもビーエルが何を指すか知っているようだ。
「……ヴァル、ネア、ビーエルって何か知ってるか?」
「……知らん」
「さぁ?」
ヴァルもネアも苦笑を浮かべながら否定する。まぁ、だがアマネのテンションが高くなる案件と言えば、聞かなければ良かった、が圧倒的に多いことで有名だ。そっと話を流して忘れよう。
「何の話をしてるの?」
丁度良いところにミーナが帰ってきた。もうビーエルの話はおしまいだ。
「なんでもない。飲み物ありがとう。さっ、みんな飲み物を飲みながらでいいから話を聞いてくれ。今後のことを相談したい」
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