第67話 死闘
そして、カルナヴァレルが背中の毛を逆立たせ、殺気を全開にする。シャラシャラと打ち鳴らされる鱗の音を聞くだけで頭が割れそうだ。
「復元設置──
俺は黒杖に記憶しておける三つの魔法の内の一つ、七音節身体強化魔法『
「目覚めろ、氷双剣センディナル」
そして隣ではついにアゼルが抜剣した。そしてその双剣の名を呼ぶ。すると、まるで命が宿り、息吹くかのように双剣から冷気が昇り立つ。同時にアゼルの体を白銀の鎧が包んだ。あの鎧は魔法武具ランクSの
「アゼルッ!! 殺すなよ!?」
「バカも休み休み言え!! 手加減できる相手なものか!! それに──」
『あぁ、心配するな。我はそう簡単には死なん──よ!!』
「──ッッッ!!」
かろうじて防いだ。かろうじて、だ。巨大な質量によって弾き飛ばされていたことを認識できたのは遥か数十メートル吹っ飛び、岩壁に受け止めてもらってなんとか速度をゼロにした後だ。
「せんせー!!」
「ジェイドッ!!」
ミコとミーナが悲痛な叫びを上げる。恐らく彼女たちには何が起きたか見えてはいないだろう。神経速度、思考処理能力が上がっているにも関わらず、俺も攻撃の瞬間は認識できなかったのだから。反射的に直撃を黒杖で防ぎ、そして反射的に体を弛緩させることにより、衝撃を逃がすことができた。それでも──。
「カハッ……。ッペ。あぁ、三日は固形物食べられないコースだな……」
内臓が破裂したかと思うほどの衝撃だ。競りあがってくる胃液を吐き出す。随分と鮮やかな赤色の胃液だ。
『おい、ジェイドとやらまさか、あれだけ威勢よく啖呵を切っておいて、もう終わりか?』
「んなわけあるか……。その尻尾ぜってー斬ってやる」
そう、先ほどの攻撃は尾の一振りであった。カルナヴァレルは余裕綽々の態度で尻尾をゆらゆら波打たせている。
「氷双結界──
同時に吹き飛ばされたアゼルは既に戦闘態勢に戻っており、俺とカルナヴァレルが喋ってる隙を見逃さなかった。神速で近づき、その背に双剣で直接魔法を刻む。刻んだ魔法は『
『ふんっ』
だが、カルナヴァレルは首を背の方へ伸ばし、片方の鼻孔を指で塞くと、もう片方の鼻孔から火を吹く。それだけで鱗と体毛を侵食しはじめた氷は溶けてしまう。
「……参ったな。そう簡単に溶けないよう魔力を相当に篭めたつもりだったんだがな」
『あぁ、褒めてやろう。久々に“冷たい”という感覚を味わったわ』
「チッ、バケモノめ……。ジェイド!! パターンAだ!!」
パターンA──学生時代から何かと討伐任務などを共にしてきたアゼルとの作戦。パターンAは最も単純で最も討伐の成功が高い作戦。すなわち──。
(アゼルが足止めをして、俺が最大火力の魔法を打ち込む)
アゼルは、全力でカルナヴァレルを引きつけようと自身の魔法剣を駆使し、その巨躯を刻んでいく。
『ふむ、これはいいヤスリだ。あぁ、こっちも頼む』
しかし、王国騎士団団長であり、世界でも最上位に位置するアゼルの斬撃もカルナヴァレルの前には児戯に等しかった。
(……ここまで圧倒的か。確かにアゼルの言う通り手加減などできるはずもない、な)
俺は黒い影という異名の通り、音を消し、姿を消し、アゼルとカルナヴァレルから一旦離れる。そして、二人を見下ろせる位置に身を潜めた。
(あの鱗は耐熱性能はピカ一。更に斬撃、打撃に対しても……となれば、まずはこれか)
「ヴェノム──アレイア──クラウテラス──スペリアウド──パーラメント──ヴィオガ。まずはその装甲剥がさせてもらうぞ。六音節魔法──
そして俺はまず厄介な鱗を削るための六音節魔法を行使する。それはこの山を覆う暗雲に腐食属性の魔力を混ぜ、雨として降らすというのものだ。その腐食の雨は広範囲に渡り、カルナヴァレルだけでなく俺とアゼルまで含まれてしまう。
『おい、羽虫皮膚が焼けてるようだが、痛くはないのか?』
「あぁ、当然痛い。だがまぁ全人類を救うために必要な痛みというなら我慢もできよう」
『ふむ、立派なものだ。だが残念な知らせを一つ聞かせよう。我はこの雨が溜まった湖にそうだな、百年以上浸からなければ腐食などせんぞ? いや、あるいは自己再生能力が上回り、少しチクチクする程度の刺激のある湯──程度にしか感じないかも知れないな』
伝説級の武具であるセンディナルの刀身や鎧からも煙が上がるほどの濃度の高い腐食魔法が付与された雨──だが、カルナヴァレルはそれすらも炭酸程度にしか感じないと言う。
「だが、先ほどより僅かでも脆くなるならそれでいい。それにこの雨はこういう使い方もできる」
アゼルの言う通りだ。僅かでも勝てる可能性を上げるために方法を模索する。そして『腐食の流滴』に繋ぐ魔法は範囲燃焼系魔法だ。アゼルはそれを分かっているのだろう。カルナヴァレルの周囲の雨を瞬時に凍らせ、その身を氷付けにしようとする。そして俺はそこに魔力の炎による熱疲労で更に鱗を脆くするつもりであった。だが──。
『我は先ほども言ったが、次元を行き来する竜ぞ? 当然、こうやって移動できる。──さて、見つけたぞ? ジェイド』
「!?」
詠唱をしようと黒杖を向けた瞬間であった。カルナヴァレルは先ほどまでいた地点から一瞬にして消え、そして背後に現れた。線の動きではない。点の動きだ。その凶悪なアギトが牙を剥く。
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