第152話 真剣な表情
俺が真剣な表情でそう言うと、皆はサッと表情を変え、静かにこちらに視線を返してくれる。
「ありがとう。では、今からの行動予定だが、まずネアの家に全員で向かう。詳しいことは後で説明するが、ネアの家は帝都の外にある。そこで墓守を救いに行くための作戦を考えよう。ちなみに現在、墓守は帝都の中央にそびえる城に囚えられているそうだ。な、ネア?」
「うん、城の地下牢に幽閉されているみたいだよー」
ネアがあっけらかんとそう答える。皆の目は半信半疑だ。言葉にして責められることはなかったが、辺りを見渡し、そんな空気を察したネアは苦笑し──。
「信用ないなー。はい、これ」
ガサゴソとカバンの中から何かを取り出す。くしゃくしゃになった一枚の紙だ。俺はそれに目を通し、要約して皆に伝える。
「……原始の魔王の墓守をかたる賊を捕え、城牢にて監禁。尋問後、公の場にて処刑する……だそうだ。魔帝国の国印が押されているな。こんなの持っていたのか?」
「お兄さんたちが疑うと思ってねー。さっき家に寄った時、持ってきたんだけど──」
これはこれで怪しい。わざわざ国が大々的に墓守の居場所をアピールしているような印象さえ受ける。仲間がいるかどうかは分からないが、まるで何かをおびき出すような。いや、考えすぎか。
「慎重なお兄さんたちには無意味かな? 流石に国印以上に信頼できるものなんて持ってないよ? でもさ、これで城にいなかったらいなかったで城の兵士に聞けばいいじゃん?」
確かにネアの言うことは一理ある。まったくコネクションのない外部の人間が情報の精査をしようなど無理だ。情報があるところを当たっていくしかない。今はそれがネアであり、この帝都からの知らせというわけだ。だったらそれを追うしかない。
「……そうだな。情報を精査している時間はなさそうだ。城の状況が少しでも分かれば、いいんだがな」
「あるよ? ボクの家に帝都の地図と城の見取り図。拝見料は帝国銀貨一枚ね?」
「は? そんなものなんで──」
帝都の地図はまだしも城の見取り図? たとえ簡単なものでも一個人が所有してていいものではない。なぜ、それをネアが持っているのか。間抜けな声を出してしまった後、なぜ問いただそうとしたが、ネアと交わしたお互いの事情は詮索しないという約束を思い出し、踏みとどまる。
「……いや、なんでもない。あるならそれに越したことはない。それがなんであれ、な。さて、行動予定の続きだが、作戦を立てたら帝都に全員で潜入する。それにはネアの家にある人体転移魔法陣を使う」
この言葉にミコは僅かに目を見開き、何かを言いたげだ。人体転移魔法という言葉に疑問を持っているのだろう。そんな様子を見て、ネアは得意げにニコニコと笑っている。
「……ちなみに先生は既に人体転移を経験したよ。今のところ身体に不調はない。それで帝都に辿り着き次第、全員で城を目指すわけだ」
不安そうなミコに俺はそう補足する。しかし、一度成功したからと言って二度目が成功するかは分からない。だが、そこは次元魔法を得意とするヴァルたちがいる。魔法陣が安全かどうかの確認と、いざというときのフォローは頼んである。
「そして墓守を救出した後は、その墓守と話をしてみて決める、と」
最後にもっとも大事な目標であるアマネの呪痕の解除だ。こればかりは墓守から情報を引き出すほかない。果たしてこの地で没したとされる原始の魔王の墓は本当に存在し、その墓に呪痕を解く鍵はあるのか。しかし、諦めてしまえばアマネの命が危ないのだ。俺は後ろ向きな考えを締め出し、予定の説明を終える。
「……以上が今後の予定だ。何か質問がある人は?」
「……ん」
質問があると手を上げたのはアマネだ。その顔は真剣そのものである。ということは──。
「アマネ。その質問は真面目に今後の帝都での予定に関わることだな? そうであれば質問しなさい。そうでなければ手を下ろしなさい」
「……ん」
アマネは残念そうな顔をしながら素直に手を下ろした。
「ハァ……。よし、質問はないな。万が一見つかって捕らえられれば、墓守の仲間という扱いになり、処刑対象になるだろう。その場を逃げられたとしても顔が割れてしまえば、全世界に指名手配だ。世界最強と名高い魔帝国とは喧嘩をしたくない。みんな、慎重に頼むぞ」
あまり脅かすようなことは言いたくなかったが、今回は事が事だ。一歩間違えれば魔帝国とこのパーティで戦争となる。それはできれば、というか絶対に避けたい。その思いが伝わったのか、生徒たちもコクリと力強く頷く。
「よし。では、今から移動する。帝都を守っている兵士たちの中には感知系魔法を得意とする者もいるだろう。気配や音などを遮断する結界を張りながら向かうが、この人数ともなると完璧に遮断するのは難しいだろう。道中私語は厳禁だ。素早く静かにネアの家へと向かう。……あと、難しいと思うが緊張しないでくれ」
「え!?」
半分予想していたが、やはりミコが声を上げた。真面目なミコのことだ。じっと息をこらえ、足音を殺し、慎重に慎重に歩いてくれるつもりだったのだろう。
「うんうん。ミコはいい子だもんな」
「センセイ、その発言はどうかと思う。私もいい子」
「エルもいい子だもーん!!」
つい、ポロっと出てしまった言葉にアマネとキューちゃんが反応する。確かにこれは生徒同士を比べて贔屓していると捉えられてもおかしくない言葉だ。というか実際比べて贔屓している。いや、だってミコはいい子だ。
そして、そんなことを考えているとミコがなんで緊張するなと言ったのか教えてくれという目でずっと見つめてきていることに気付く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます