第95話 視線を釘付け
「で、ヴァルはどうするんだ?」
「ん? そうだな。教室での様子を見たいからついていくか」
ついてくるらしい。その発言からは、こちらの都合など一切構うつもりはないと言ってるのが分かる。仕方ないので、大男を引き連れて教室へと戻った。
扉の前で立ち止まり、振り返る。
「ここが教室だ。さて、きちんとした形で紹介したいからヴァルとキューちゃんはここで待っててくれ」
コクリ。ドラゴンの親子は同じタイミングで首を振る。なんだかこうしてみるとヴァルも可愛らしく見えてしまうから不思議だ。口が裂けてもそんなことは言えないが。
「じゃあ、ミコは一緒に戻ろうな」
「はい」
ガラララー。
「あー、みんな真面目に自習してたかー? って、おぉー、真面目に自習してるじゃないか!」
「センセイ、今の発言は失言」
「そーだ、そーだ! まるで俺たちが真面目に自習しないやつらみたいじぇねーか!」
教室では皆、真面目に席に座り、ノートを広げ模写をしていた。いや若干一名は窓の外を眺めているだけだが、彼女はノーカウントとしよう。そして驚いてしまったのは確かに失礼かも知れない。アマネとレオの言葉に少しばかり反省する。
「あぁ、そうだな。すまなかった。先生はみんなが真面目に自習してるってことを信じてたぞー?」
俺の安っぽい言葉に批判が噴出する。いちいち反論すると余計燃え上がってしまうため、苦笑いでこれを流す。
「さ、ミコは自分の席に戻って」
「はい!」
そしてミコが席に座り、みんなの批判が少し収まったところで本題に入る。
「さて、みんな嬉しいニュースだ。今日からこのクラスに新しい友達が加わることとなった。入ってくれ。はい、みんな拍手!」
俺は扉の外で待つ二人に声を掛けた。サーシャ以外の生徒は皆、一応俺の言った通り拍手をして出迎えてくれたのだが──。
「…………」
無言で入ってくる二人を見て、その手が止まった。筋肉隆々で明らかにおっさんであるヴァルとその肩にちょこんと抱えられるキューちゃんを見てだ。
クラスメイトの視線はそりゃもうヴァルに釘付けとなっている。レオとアマネはマジかよって苦笑しているし、キースとケルヴィンは口をあんぐりと開け、呆然としている。ヒューリッツはその場でピシリと固まるし、あのサーシャですら視線を窓の外から教壇へと移すくらいだ。
「おう」
「おう!!」
視線が集まってることに気付いたヴァルが片手を上げて、挨拶をする。それを真似するキューちゃん。生徒からの反応はない。どう反応していいか分からないのだろう。俺は少しだけそんな生徒たちを見て、ニヤニヤしてしまう。
「ハハハ。すまない。えぇと、今日からこのクラスに転入してくるのはこっちの可愛らしい女の子の方だ。はい、ヴァルちょっと下ろして」
言われた通り、ヴァルはゆっくりとキューちゃんを下ろす。そして俺は改めてキューちゃんを紹介する。
「名前はキューエルさんだ。とある事情があり、転入することとなった。故郷は遠方の国で、学長からは詮索は無用と言付かっている。さて、キューちゃん挨拶できるかな?」
「あい! エルでちゅ! よろちくおねがいちまーちゅ!」
「あっはっはー、いや、こちらの国の言葉はまだ不慣れでな。多少聞き取りにくいかも知れないが、みんなも一緒に教えてあげてくれ。ちなみに年齢は十三歳だ」
「え? エルこれだよ?」
無茶があると分かっていたが、一応十三歳という
「せ……先生。では、そちらの方は?」
だが、そんな無理な設定にも生徒のツッコミはない。なぜかと不思議に思えば、なんてことはない。生徒たちはいまだにキューちゃんよりヴァルの方に意識が行っていたからだろう。ヒューリッツからの質問でようやくそれに気付く。
「あ、すまない。すまない。えぇとこちらの方はキューちゃんのお父さんでカルナヴァレルさんと言う。一応挨拶を」
俺はダメ元でヴァルに挨拶を求めた。
「フンッ。我の娘に手を出そうとしたヤツは捻りつぶす。我を倒す自信がある者はそうしてみるがよい」
威圧感全開でそう脅すヴァル。レオは最初からその気がないとばかりにそっぽを向いているが、今日初めて会ったばかりのキース、ケルヴィン、ヒューリッツは慌てて顔を左右に振った。十五回くらい。
「……というわけで、まぁ仲良くやってくれ。友達になるくらいでこのお父さんはいきなりブチ切れたりは……、たりは……、まぁ、大丈夫だろう。ハハハ、さて授業に移るぞー。あ、お父さんは後ろで見てて下さい。飽きたらどうぞ帰ってください」
ブチぎれない保証はなかったので、安易なことは言わない。レオを除く男子生徒たちの顔が青ざめる。そんな三人にフォローはせず、さっさと授業を始めてしまう。ヴァルは大人しく後ろに立って見学をするようだ。距離的にもっとも近いのはサーシャ。サーシャはどうやら落ち着かないらしく、チラチラとヴァルの方を盗み見ている。キースたちも時折後ろを振り返って様子を確認しているようだ。
「おーい、授業に集中しろー。大丈夫だ。何もしなければそのお父さんは噛み付いてこないぞー」
俺はそんな軽口を叩く。なぜかキースたち三人からは先生スゴイと尊敬の目で見られた。実に微妙な気持ちだ。
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