第133話 ドラゴンドラ

「さて……。どうしたものか」


 しかし、廃材置き場でいざ廃材を目にすると、自分の考えが甘かったことに気がつく。一体、どうすればこの廃材からきちんとした乗り物が作れると言うのか。


「……困ったときのヴァルえもんか。おーい、ヴァルさんやーい」


(なんだ)


「いや、ちょっと困っている。竜の知識を借りたい。来てくれないか?」


(……貴様、我をシリーかなにかと勘違いしていないか?)


「シリー? なんだそれは?」


(……とある別次元の星には、いついかなるときも呼びかけに応じ、困ったことを解決してくれる便利屋みたいな存在がいる。それがシリーだ。まぁ我も実際に会ったことはないがな。フンッ、まぁいい、ちょっと待ってろ)


 いついかなるときも呼びかけに応じ、困ったことを解決してくれる便利屋。うん、確かに俺はヴァルを好き勝手なタイミングで呼びつけ、あれやこれや頼んでいるな。これは何かお返しをしなくてはなるまい。


「来たぞ」


「あぁ、ヴァルありがとう。いつも済まないな。ヴァルの言ってたシリー然り、アマネの言ってたドラえもん然り、確かに俺はヴァルにすぐ頼ってしまっているな。すまない」


「……そう思うならメガネを掛けて、黄色いポロシャツと半ズボンを履くことだな」


「?」


 ヴァルは不敵に笑いながら何やらおかしなことを言う。どうゆうことだろうか。


「なんでもない。それで今度はなんなんだジェイド君、またイジめられたのか?」


「ジェイド君って。いやおかげさまでイジメられることはなくなったよ。いや、明日から魔帝国に行くのは覚えているよな?」


「ん? あぁ、覚えているぞ」


「はい」


 覚えていると言ったヴァルに対し、俺は両手を広げて廃材置き場ということをアピールする。


「…………おい、我に運ばせると言った箱を我に作らせる気か?」


「…………言い方が悪いな、ヴァル。作るのはもちろん俺だ。だが、取っ掛かりとして何か良い案がないか、と。ほら脈々と受け継いできた様々な知識や経験があるわけだろ? アドバイスだ。そう、アドバイスが欲しいんだ」


 ジト目で睨みつけてくるヴァルに俺は必死で弁明した。だがその目つきは変わらない。


「ほー。ものは言い方だな。小賢しい。まぁ、だが我もどうせなら壊れず、持ち運びやすい方がいいのは事実だ。仕方ない、少しばかり手伝ってやろう」


「ありがとう、ヴァルえもん。さすが頼りになるな」


「その呼び方はやめろ。はぁ……。まったく我にこんだけふざけた態度を取る人間など何百年振りだ」


「ハッハッハ、いや、本当に感謝してるぞ? というわけで早速始めよう」


 疲れた顔でやれやれと首を振るヴァルに実に気安い言葉を掛け、乗り物作りに取り組む。


「ふむ、ではまずはデザインだな。ちょっと待ってろ」


 そしていざ乗り物作りを始めようとするとちょっとだけヴァルはウキウキしているように見える。だが、指摘はしない。したら拗ねるだろうし。というわけで黙って待つ。すると、ヴァルは何もない空中に穴を開け、そこに手を突っ込み、ガソゴソと何か探しものを始めた。


「あぁーと、えぇーと、ん? これか」


 そして取り出したのは一冊の本だ。


「ん? それは? 随分と色鮮やかな本だな」


「あぁ、これはカタログだ。竜の世界では我たちが運ぶ荷車のことをドラゴンドラと呼ぶ」


「……ドラゴン、ドラ……。そうか……、いや、なんでもない続けてくれ」


「いちいちウルサイ奴だな。我が決めたわけではないのだから文句を言うな。それでまぁ、当然運ぶドラゴンドラによって竜の格も決まってくるわけだ。ボロいドラゴンドラを運ぶのは三流。一流には一流のドラゴンドラがある」


 そう言いながら、ヴァルはパラパラとカタログをめくり始めた。俺も一緒に見てみると確かに小さいものから大きいもの。ただの箱みたいなものからそれ自体がまるで飛空艇のようなものまで様々だ。


「確かに色々あるな。で、ヴァルは何流なんだ?」


「当然、超一流だ」


 聞くまでもないが、一応聞いておいた。結果として聞かなければよかったと後悔してしまった。


「俺、そのドラゴンドラ作り初めてなんだが? こんなの絶対に無理だぞ?」


 カタログの『超一流には超一流のドラゴンドラを』のページに載ってるドラゴンドラを指さしてぼやく。明らかに素人が一日で作れる代物ではない。まして、廃材置き場だ。そこらに転がっている鉄クズや長さや太さがバラバラの木材ではその道の職人だって匙を投げるであろう。


「…………はぁ、仕方ない。ちょっと待ってろ」


「?」


 ヴァルもそれを見て察したようで、またもや次元の穴に手を突っ込み、ガソゴソと何かを取り出す。出てきたのは不思議な形をした、強いて言えば箱型の道具だ。魔道具であろうか。そしてヴァルはその上の部分を持ち上げ、耳の部分に当てると、本体部分のダイアルみたいなものをジーコジーコと回し始めた。


「それはなんだ?」


「ブラック次元電話だ──あ、もしもし?」


 ブラック次元電話? それはなんであろうか? しかしそれを聞こうにもどうやら誰かと会話を始めてしまったようで、続きは手で制止される。そしてヴァルはその次元電話に向かって喋り続けた。


「我は第十七次元、アマルナ銀河の惑星エルネテスにいる次元竜のカルナヴァレルというのだが……。うむ、うむ。あぁ、以前発行してた週刊超一流ドラゴンドラを作ろうのバックナンバーを全て送って欲しい。うむ、うむ。大丈夫だ。頼む。我の五次元ポケットの座標は──」


 俺はなんとなくそれを聞きながら会話が終わるのを待つ。週刊超一流ドラゴンドラを作ろう……。どうやら制作キットみたいなものが送られてくるらしい。そしてヴァルは耳に当てていた次元電話を本体に戻すと、次元の穴へとポイッと投げ入れる。


「で、誰と話してたんだ?」


「ん? デアゴスティー○だ」

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