第49話 ツンデレオ

「というわけで課外授業になるわけだ。点呼を取る。アマネ!」


「ん」


「ミコ!」


「はーい!」


「レオ!」


「見れば分かるじゃねーかよ」


 生徒三人の点呼を終える。アマネは相変わらずの何を考えているか分からない態度、ミコは元気一杯。レオは初日のアゼルの件の時と比べればいくらか態度は軟化してきて今に至る。


 あれから数日経ち、遂に今日は王立魔法研究所来訪の日である。現在時刻は朝六時。もっとも早く出る馬車に合わせた集合時間だ。遅刻する者が出るのではないかと不安になったが、意外にもと言っては失礼だが誰も遅刻はしなかった。


「ミーナ先生!」


「……はい」


 そして最後の点呼、ミーナの名前を呼び全員が揃ったことを確認する。


「では、出発だ! 乗り込めー!!」


 俺は意気揚々に声を上げ、馬車の扉を開けて、生徒たちを中へと促す。


「おー!!」


「……」


「おっさんそのテンションでずっと行くつもりなのか?」


 ミコはノリノリで駆け上がって中へ入り、アマネは無言。そしてレオからは手痛い言葉を投げられる。初の課外授業に少しだけテンションが上がっているが、そう長くは続かないだろう。そして──。


「ジェイド先生? 遊びじゃないんですからマジメにお願いしますね?」


 当然、ミーナにもお叱りの言葉を頂くのであった。


 こうして俺たちは馬車に揺られ、王都を目指すことになる。しかし、その道中は決して楽な道のりではなかった。


(誰か喋ってくれないかなぁ……)


 そう、無言。無言である。馬車の中には俺たち五人しかいない。俺の隣にミーナ。そして対面に生徒三人である。


 他の客が乗っていれば喋るのもはばかられるが、今はそうではないのだ。喋っていいのに、誰も喋らない。これはなんとも気まずい。だが、誰も喋り始める様子はない。仕方ないので俺は先陣を切ることにした。


「あー……いい天気だな。絶好の課外授業日和だ」


「せんせー? まだ外薄暗いよ? それに少し雲があるような……」


「……そうだったな。あ、ミコ朝食は食べたか!?」


「うん」


「……そうか、うん、それはいいことだ」


「うん」


 話しが終わってしまった。なんだ会話って? どうするんだ? いや、こういう時こそ頼れる教育係の出番じゃないのか? 俺はチラリと隣に座る先輩教師に目配せをする。


「? なんですか?」


 幼馴染は普段の三倍増しで他人行儀であった。生徒の前では教師としてのミーナを作っているのだろう。


「ミーナ先生は朝食は食べましたかね?」


「……えぇ、まぁ」


 なので俺も対抗して謎の自分を作り上げてみる。うん、気色悪い。だがそんな俺の喋り方にいち早く反応したのはミコであり──。


「ププッ。えー、せんせー、なんですかその喋り方。フロイド先生みたいで気持ち悪―い」


 非常に心外なコメントをされる。流石にフロイド先生と一緒と言うのは勘弁して欲しいものである。だが、これは思わぬところにクリーンヒットした。そう──。


「ブフッ」


 アマネが袖で口を隠しながら吹き出したのである。どうやら謎のツボに嵌ったようだ。顔を赤くして必死に袖を噛んでいる。なので俺は調子に乗ってフロイド先生攻撃を続けようと思い口を開くのだが──。


「ジェイド先生? それ以上は怒りますからね?」


「……はい、すみませんでした」


 当然幼馴染に阻まれるのであった。


「……だっせー。てかなんでミーナ先生がいるんだよ。隣のクラスの先生じゃん」


「……いや、説明したろ。新任の俺が何か出先で困るかも知れないからサポートとして俺の教育係であるミーナ先生も同行するって」


「ふん、情けないおっさんにはピッタリだな」


 俺はそこで真面目に説明をするが、レオからはやはり連れない言葉。魔法を教えているときは素直になってきたが、それ以外はまだ棘があるようだ。


「ジェイド先生ごめんなさい。きつく言い過ぎました」


 そこでなぜかミーナが謝ってくる。別にいつものことだし、それに調子に乗った俺がいけないのだ。そこまで丁寧に謝られる必要は感じない。


「ん? あぁ、いや別に大丈夫だが」


 俺はそう言うが、ミーナが目で何かを伝えてこようとする。


(ん? レオ? レオがなんなんだ?)


 どうやらレオを気にしている様子だ。だが何を言いたいのかはよく分からない。


「レオは折角魔法の教師としてセンセイを見直し始めてるのに、センセイが年下の女性であるミーナ先生に怒られている姿を見て、モヤモヤしている。それを察したミーナ先生が謝った。今ココ。分かりました?」


 分からないと困っていたところで助け舟──と呼んでいいか微妙な言葉はまさかのアマネの口から飛び出した。その内容に俺は驚く。隣を見ればミーナも驚いているようだ。そして──。


「ちげーし!!」


「ん、じゃあ違う」


「……チッ」


 レオは耳まで真っ赤にして否定の言葉を発する。これは誰がどう見ても図星であり、つまりそれは遠からずこれが真実であるということだ。


「もう、レオ君もアマネちゃんも仲良くしようよ?」


「お、おう。そうだな。先生もそれがいいと思うぞ?」


 そして車内はその言葉を最後にまた無言になり、それ以降、もう一度先陣を切る勇気は湧いてこなかったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る