第149話




 生放送の日は決まってこの部屋で三人で夕食を食べる。

 俺が借りている狭い部屋に三人が集まると窮屈な感じはするのだが、とりあえず気にしないでおこう。


「ケースケ様。どうぞこちらの目玉焼きを食べてみてください」


 カトレアが自分の目玉焼きを一口サイズに切り、こちらへ向けてくる。

 最近では澪奈とカトレアが一緒に料理をしていることが多い。というのも、カトレアが一人暮らしを機に料理を始めたからだ。


「いや俺の分は自分の皿にあるから、大丈夫だ」

「はい、あーん」


 カトレアはまるでこちらの話は聞かず、にこにこと温和な笑顔とともに箸を近づけてくる。

 このままでは頬に突き刺さりそうだったので、俺は仕方なく口を開ける。

 そこにそっと差し込まれ、口の中に目玉焼きが入る。目玉焼きには醤油をかけたのだが、醤油と油がほどよく混ざって焼き上げられている。


「うまいな。かなり腕を上げたな」

「ふふ、ありがとうございます。それでは、私の一口が減ってしまったので、ケースケ様。一口くださいな」

「……」


 カトレアが餌を待つ雛鳥のように口を開ける。

 なんて強引なやり方だろうか。

 俺が上げる道理はないのだが、仕方なく一口サイズに切って彼女に渡すと嬉しそうに食べた。


「我ながらおいしくできていますね」

「マネージャー。はい、次は私の番だから」


 すかさず割り込んできたのは、これまで黙って見届けていた澪奈だ。

 彼女がすっとおかずの肉じゃがを同じようにこちらに向けてきている。


「いや、俺の分はあるから……」

「はい、どうぞ」


 澪奈の目はマジだ。このまま口を閉ざして無視を決め込みたかったが、そうすれば確実に頬をジャガイモが襲い掛かる。

 生放送のときに、頬にジャガイモ跡を残したくはなかったので、俺は口を開けていただくことにした。

 肉のうまみがジャガイモに染みわたっている。ジャガイモの食感と混ざり合っていて、ごはんが進む味付けだ。


「……うん、うまいな」

「ありがとう。私のジャガイモが減ってしまった。というわけで、あーん」


 澪奈が口を開けて同じように待つ。

 ……いや、これ何度やるんだ。

 浮かんだ言葉は飲み込み、諦めの気持ちとともに澪奈の口に運んだ。


「はい。これでもう終わりだからな。それじゃあ、さっさと食べて生放送するぞ」


 さらにカトレアが第二弾の準備していたので、公平にここで終わらせるために打ち切った。

 それからは多少の雑談を交えながら食事を勧め、生放送の時間となる。

 準備を行い、澪奈とカトレアを映すように分身にカメラを任せると、澪奈とカトレアに引きずられるように引っ張られる。


 ……だから俺はあまり映りたくはないんだけど。

 そう思っていたが、もうすぐに生放送は始まる。澪奈とカトレアからできるかぎり距離をとっておく。

 あまりにも二人と距離が近いと、視聴者に指摘されるからな……。


「皆さん、お久しぶりです」

「お久しぶりです」


 進行は澪奈とカトレアに任せ、俺はコメント欄を確認していく。


〈マネージャーさん! ステータスの動画見ました!〉

〈今度私のステータスを見て欲しいです!〉

〈強くなるためのアドバイスお願いします!〉


 今回は動画を公開してから初めての生放送だ。

 やはり、動画に対してのコメントが数多く寄せられている。


 一応、あの動画についたコメントに関してはできるかぎり返信し、個別に見ることは基本しないと伝えているんだけどな。

 動画のネタとか、何か必要なことがあればしてもいいのだが、個人個人を見るとなるとそれにかなりの労力を割くことになるからな……。


「マネージャーからだけど、今は個別にまでは見る余裕はないみたい。一応、動画とかでみんなに共通する強くなるための方法に関しては発信していくから、それで我慢してね」

「私が見られればお手伝いしたいのですが、私も見られないんですよね……」

「あの能力って本当にマネージャー固有のものみたい。私も見られないから、不思議」

「そうですねぇ」


 二人は、俺の能力について上手く誤魔化してくれている。

 まあ、俺としてもそれ以上の情報は何かあるわけではない。

 しいてあげるなら、まだ分かっていない職業の項目くらいか。



―――――――――――

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