第110話


 さすがに、ステータスも跳ね上がっているので本気を出せばこの程度造作もない。

 カメラの前に戻りコメント欄をスマホで確認していると、


〈ば、化け物すぎるぅぅぅ!〉

〈マネージャー最強! 暴走Aランク迷宮の攻略楽しみにしてます!〉

〈……Sランク冒険者なら、Aランク迷宮も何とかなるのか……?〉

〈Sランク冒険者としても、さすがに一人じゃ……いや、澪奈ちゃんもいればどうにかなるのか?〉

「とにかく、こういうわけで都内への応援にはいけそうにないんです。申し訳ありません……」


 メールや澪奈のTwotterで文字だけを返すよりは、このほうが皆も納得するだろう。


〈りょです〉

〈さすがにこの状況はな……むしろマネージャーが家から離れた瞬間、マネージャーの地元がやばい〉

〈これからどうするんですか?〉

「そういうこと、なんです。澪奈さんに合流してもらい、攻略に向かおうと思っています」

〈一人で!?〉

〈さすがに一人はまずいですよ! 危険すぎます!〉

「いえ、一人ではないですね。俺がボスモンスターを発見すれば、また迷宮の外に出られなくなる可能性が出てきます。もしかしたら、それによって内部の魔物も外に出なくなる可能性があります」

〈あっ!? なるほど!〉

〈天才か? 確かにそれなら、暴走を抑え込めるかも〉

〈ボスモンスターの討伐は必要なんですよね? さすがに二人では厳しくないですか……?〉

〈暴走状態ですし……〉


 前回はミッションに驚かされたが、今回はそのミッションを利用したいと思っている。

 ……うまくいけば、の話だが。

 コメント欄が言うように、俺の考えている動きは危険が多いんだよな。

 それでも、今俺たち二人でできる最善の手だ。


 まあ、ボスモンスターのステータスを見て、難しそうなら澪奈に伝え、それこそ穴倉さんたちに手を貸してもらうのも一つの手だ。

 ……俺が自分の能力を彼らに伝え、装備を整えればおそらく今の俺たちと同じくらいの力にはなるはずだからな。

 それは本当に最後の手段だ。


 俺がそんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。

 視線を向けると、澪奈が部屋に入ってきている。少し息を乱しており、急いできてくれたのが分かる。


「マネージャー、お待たせ。澪奈参上」


 ……生放送が行われているのを見てか、少しふざけた調子の澪奈。

 俺は苦笑とともに、澪奈を見る。


「澪奈さんも合流しました。それじゃあ、入口の警備をお願いしてもいいですか? 自分がボスモンスターを見つけてきますから」


 ウォーリアリザードマンがいつ外に出てくるか分からないため、ここに最低でも一人残す必要があるんだよな。

 それらを考えなくて済むのなら、二人で行きたいところなんだけど。


「分かった。マネージャー。テレビ通話を繋いだまま、探索お願いできる? こっちはそれで、状況の確認をする」

「そうですね。分かりました」


 俺は仕事用のスマホを取り出し、澪奈と通話を行う。

 カメラを起動すれば、多少画質は悪いがそれでもお互いの状況が分かる。


〈マネージャーさん、気を付けてください……!〉

〈都内のほうは、なんとかまだなっているみたいです! 今はマネージャーのほうが危険ですから、気を付けてください!〉

「もちろんです。それでは行ってきます」


 俺はスマホを胸ポケットにしまってから、迷宮の中へと入った。



 いきなりの、お出迎えだ。

 魔物たちはどうやら暴走状態のときは出口――黒い渦を目指す習性でもあるのか、ざっと見ても十体ほどの魔物がこちらへと向かってきた。

 何より、厄介なのは……迷宮が暴走状態になったからか迷宮内の境界がないようなのだ。

 何が言いたいのかというと、ハンターリザードマンもあちこちに現れているのだ。


 すべての魔物のレベルを見てみると……おおよそレベルはプラス5くらいになっている。

 これが、暴走状態なんだろう。ステータスにして20から30くらい上がっているので、そりゃあ低ランク迷宮だとしても暴走すれば恐れられるわけだ。

 ……この魔物たちを無視して進むわけにはいかないよな。

 俺は拳を鳴らしてから、【雷迅】を発動する。


 今の俺の素のステータス速度は、394。

 対して、魔物たちは300にも届かないほどだ。

 ――全力を出した俺が、こいつらに負けるわけがない。

 地面を蹴りつけ、近くにいたウォーリアリザードマンへ肘鉄を放つ。顔面が陥没し、吹き飛ぶと別のウォーリアリザードマンが怒りながら切りかかってくる。

 剣をかわし、そのまま回し蹴りを放ち首をへし折る。

 こちらに【水魔法】を放ってこようとしたウォーリアリザードマンの背後を取り、拳で地面にたたきつけ、頭を踏み潰す。

 ハンターリザードマンが飛びかかってきたが、その剣の腹を拳で弾き、隙だらけとなった顔面に膝を叩きこむ。


 【雷迅】がある限り、彼らが俺の領域に到達することはない。仮に、複数で攻撃を仕掛けてきたとしてもだ。

 俺が魔物たちを一掃したところで、黒い渦のほうに澪奈がいるのを見た。

 ……あいつ、カメラだけを迷宮内に見せている。

 どうやら、俺が戦っている姿を撮影していたようだ。手が振られると澪奈はそのまま部屋へと消えていった。

 さて、俺もボスモンスターを探しに行くとしようか。




―――――――――――

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