第109話

 迷宮が暴走状態となれば、魔物が中からあふれだしてくる。

 ……すぐに迷宮管理課に連絡を取らなければならない。

 そう思って通話をするのが……話し中だ。


「なんでこんなときに……」


 一刻も早く、伝えなければならない。

 Aランク迷宮の暴走状態となれば、まさに世界的な危機となるはずだ。

 何度か迷宮管理課への連絡を試みるのだが……通話中のままだ。

 そんなときだった。俺のスマホの画面に神崎澪奈の名前が映った。

 ……澪奈から? 一体どうしたのだろうか?

 疑問はあったが、彼女の助力も必要な状況だ。俺はすぐにスマホを耳に当てる。


『ダーリン。今大丈夫?』

「大丈夫だ。どうしたんだ?」


 こちらの要求したいこともあったが、まずは澪奈の用件を確認したい。

 わざわざ、夜遅くに連絡してきて、まさか声が聴きたかったからとかいう理由だけではないだろうから。


『ニュース見てる?』

「いや……見てないけど、何かあったのか?」

『今、世界中であちこちの迷宮が暴走状態になってるみたい……』

「なんだって?」


 澪奈の言葉に返事をしながらパソコンを起動してニュースを確認していく。

 ……そうしながらも迷宮のほうを気にする必要があるのだが、大変だ。

 澪奈のいう通り、確かにあちこちで迷宮が暴走しているようだった。

 そして、都内で一ヵ所。新宿駅近くにあるAランク迷宮が暴走状態にあるようで、住民の避難が行われているそうだ。

 最前線に立っているのが、和心クランだ。すでに多くの人材を動かしているが、Aランク迷宮ということもあってかなり危機的な状況だ。

 ……よく見れば、メールがいくつも届いている。


 メールの内容は、今すぐに救助に向かってほしい、という一般人たちのお願いメールだった。

 ……その中には、和心クランのリーダーである穴倉さんから支援依頼も届いている。


『マネージャー。すぐに救援に行ったほうがいいかも……私のツイートにもそんな声がたくさんある』


 ……俺たちがSランク冒険者と判明したからこそ、そういう声も増えているのだろう。

 今後はそういった話も増えていき、万が一救助に参加しないなんてことがあれば非難されることもあるかもしれないな。

 ただ、今回に限っていえば、少し事情は変わってくる。


「……澪奈。今うちの迷宮も暴走状態になっているんだ」

『え?』

「……もちろん、都内が危険なのは分かっているけど、それよりもこの家を放置していくほうが、まずい」


 そりゃあ、都内の応援に参加したいが……それどころではないのも事実だ。

 俺の言葉に澪奈が慌てた様子で訊ねてくる。


「うん。私も合流するから、先にマネージャー。生放送で説明しておいて」

「分かった」


 俺は、すぐに生放送用の設定をして、生放送を開始する。

 視聴者は、さすがに深夜、それもいきなりだったために人数は少ない。

 コメント欄を見ていると、


〈マネージャーさん? 澪奈さん? 今都内が危険な状態ですけどどうしたんですか!?〉

〈お願いします、まだ家族が連絡ついていなくて……救助に向かってください……〉

〈なんでこのタイミングで生放送なんだ? さすがにタイミングがあるだろ?〉

〈マネージャーさん! 都内がやばいです! すぐに助けに向かってください!〉

〈生放送している場合じゃないですよ!〉

「すみません。マネージャーです。いくつもメールや澪奈さんのTwotterに連絡が来たので、このほうが説明が早いと思い、緊急生放送を行いました」


 俺はそう答えてから、すぐにカメラを迷宮の入口へと向ける。

 それで、コメント欄も察したようだ。コメントが一気に伸びていく。


〈ファッ!? マネージャーの家の迷宮も暴走してるのか!?〉

〈やばくね!? 暴走状態の迷宮って確か魔物も強くなるよな……?〉

〈Aランク迷宮だから、下手したらA+からSランク迷宮くらいになるかもってことだよな……?〉

〈Sランク迷宮なんて、かつて一度も攻略できたことないよな? 確か、どっかの国に一つだけあったような……〉

〈迷宮の暴走って……ボスモンスターを討伐しないと収まらないよな? え? やばくね!?〉


 この状況を理解したコメント欄が凄い勢いになる。

 ……生放送を開始してすぐに一万人が見に来ていて、俺の置かれている状況について理解してくれた。

 その時だった。黒い渦からウォーリアリザードマンが姿を見せる。


 ウォーリアリザードマンD レベル58 筋力:231 体力:235 速度:251 魔法力:163 器用:163 精神:165 運:134

 ステータスポイント:0

 スキル:【水魔法】

 装備:【ロングソード】【リザードアーマー】


 ……ステータスが、跳ね上がっているな。

 いや、高個体という可能性もなくはないが、黒い渦周辺の魔物だとしてもこれはまずい。

 俺は即座にカメラから離れ、現れたウォーリアリザードマンとの距離を殺す。

 こちらに気付いたウォーリアリザードマンが何か行動を起こす前に、手刀によって首を跳ね飛ばした。


―――――――――――

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