第124話


「ええ。女性が目を覚まし、そして敵意を持って攻撃してきた場合、対応できるのは恐らく、日本では――いえ、世界中を見ても茅野さんくらいしかいないと我々は考えています」

「……」


 ……世界の冒険者を知らないから何とも言えないので、黙るしかない。

 ただまあ、どちらにせよ日本ですぐに対応できるのは俺くらいしかいないからな。


「ですので、彼女を茅野さんに管理してもらいたい、ということです」

「……そうですか」


 別に、面倒を見る分には構わない。

 むしろ、俺としては好都合な部分もある。

 彼女の管理を任してくれるというのなら、逆に言えば何か政府からの命令があっても断れるような交渉をすればいい。


 ……先に、エルフの女性の権利を放棄したのはそっちなのだからな。


「面倒を見るのは構いません。ただ、こちらもタダで、とはいいません」

「もちろんです。報酬に関してはきちんと支払いましょう」

「報酬、というよりも権利について交渉したいです」

「権利、ですか?」

「はい。エルフの女性が、仮に異世界人だとして……この日本で普通に生活したい場合、国籍諸々用意し、一般人として振る舞えるようにする、と」


 ぴくりと秋雨会長の目じりが上がった。

 少し難しい表情になったのは、恐らく日本政府の思惑と一致していないからだろう。

 俺にまずは任せ、日本に友好的ならば利用したい。そんな感じに考えていたのだろう。

 だが、俺の提案を受け入れれば、エルフの女性を都合よく使うことはできなくなる。


「……なるほど」

「例えば、彼女が普通の生活を望むのなら、何も干渉はしないと。そこまですべて任せてくれるというのであれば、私が責任をもって面倒を見ます」

「……分かりました。それらすべて、上に伝えておきましょう」

「お願いします。その条件が飲めないようなら、自分は日本を出ていく可能性もある、と伝えておいてください」

「……! わかりました」


 秋雨会長にプレッシャーをかけるようにそういった。本当に出ていくつもりはないが、いいようにこき使われるというのならこちらも話は別だ。


 あのエルフの女性が本物の異世界人だとしたら、それこそ様々なしがらみがついて回るだろう。

 ……もしも、元の世界に戻る手段がなくこの日本で生活していくことになったとしたら?


 どうやっても彼女は注目されるだろうし、それこそメディア等にも引っ張りだこになるだろう。

 そんな風に注目されるのは、俺は苦痛だ。エルフの女性は気にしないかもしれないが、彼女が自分で選べる立場にいられるようにしてあげたい。


「それと、茅野さんからからも話があると」

「ええ。近くにあるAランク迷宮を自由に出入りしたいと思っていまして」


 俺と澪奈の家からわりと近い位置にAランク迷宮がある。

 その迷宮は、現在結界によって封じ込められている。Aランク迷宮ともなると、そもそも攻略自体が難しいとされているため、そのような処置をされている。


 結界を無理やり破壊することはできると思うが、さすがにそれは大問題だろう。


「なるほど。そういうことですか。報酬金については出せませんが、中に入ることは許可できますよ」

「万が一、攻略してしまってもよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ」


 ……ま、協会側からすれば本来高額の報酬金を支払ってでも攻略してほしい迷宮に自分から入りたいという馬鹿がいるのだから断る理由はないだろう。

 俺としては、高額の報酬金を逃してしまうが……迷宮に入れない時間ができるのが問題だ。


 今の俺には、自動で稼いでくれる仲間がいるからな。

 報酬に関しても、仲間たちが倒しまくればいくらでも稼げるので、問題はないと思っている。

 話はこれで終わりだ。俺は席を立ちあがり、一礼をする。


「それでは、エルフの女性の件とAランク迷宮の件、よろしくお願いします。Aランク迷宮に関しては今すぐに行きたいのですが、構いませんか?」

「ええ、もちろんです」

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 秋雨会長も……中間管理職として大変だろうな、とは思う。

 下の者である俺からは脅すように言われ、上の者である日本政府からも出来る限り利用するように頼まれてることだろう。


 秋雨会長に敵対意識はないんだけど……まあ、仕方ないよな。

 俺はギルドを出た足で、そのままAランク迷宮へと向かう

 すでに話は伝わっていて、結界を張っていた女性に中へと入れてもらう。


 ……とりあえず、【軍勢】を使用し、百人ほどの分身を作った。

 命令は、各階層にてレベル上げを行え、だ。

 迷宮攻略はまだする予定はない。ここ以外での狩場を失うことになるからな。

 分身たちが問題なく戦えているのを確認した俺は、Aランク迷宮から自宅へと戻った。




―――――――――――

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