第125話
【軍勢】に有効範囲はないようだ。
問題があるとすれば、召喚できるのが自分の周囲のみな点だが、一度動き出せばあとはどれだけ離れても問題ない。
あとは、勝手に経験値を生み出してくれるので、これはとてもいい。
Aランク迷宮の階層は四十階層ほどまであるようだ。
すでに三十九階層にまで分身たちが配置されていて、各階層で魔物を狩ってくれている。
敵のステータスはオール200ほどだ。俺の分身たちなら、楽勝とまではいかなくても負けることはなかった。
ひとまず、金を貯めて、装備品を一式揃えたいところだ。
そんなことを考えながら、部屋にて仕事をしてもらった分身とともに俺はメールを確認していく。
すべて、分身にメールを作成してもらっていたのだ。
国内外からのクランの誘い、企業案件などなど。
……ちょっと、今は色々立て込んでいるので基本は断っている。特にクランの誘いに関してはすべて断りのメールを入れておいた。
企業関係の仕事は澪奈がやりたいものがあれば引き受けていくため、澪奈に共有して確認してもらっているところだ。
……やはり多いのは武器関連の提供か。
といっても、あまり弱い装備品を提供してもらっても、それを使わないといけないというジレンマが増えるからな。
Aランク、Sランクの魔物に通用するものなら構わないが、その品質のものを用意してもらうのは中々難しいだろう。
結局、今くらいが一番なんだよな。
そうして対応している間にも俺のインベントリにはどんどん素材が増えていく。
……ひとまずは、新しい装備品を購入するかな。
現在、装備品は1000万ゴールドまでのものが増えているからな。この装備品たちを装備できれば、俺のステータスも跳ね上がる。
1000万ゴールドの装備品はステータスの合計値が120も上がる。これを四つそろえるだけで、Sランク冒険者級の力を獲得できる。
四千万でそこまでの能力になるのだから、ぶっ壊れだよな【商人】って。
ひとまず、カトレアが目覚めるまでに俺のステータスをカトレアと戦えるくらいまで上げておく必要がある。
……あとは、カトレアが敵か味方か。
また、どんな性格をしているのか。それ次第で今後の動きが変わるな。
カトレアがいつ目覚めるか分からない以上、レベルアップに時間をかけてもいられないんだよな。
そんなことを考えていると、澪奈から連絡が入った。
『マネージャー。Aランク迷宮の入場許可が出たって言ってたけど、私が家に帰る前に入っても大丈夫?』
「ああ、大丈夫だ。俺と澪奈は入場できるようになってるからな」
『それなら、ちょっと行ってくる』
「了解だ」
念のため、分身たちにも指示を出しておく。澪奈の狩りを手伝うように、と。
澪奈が一人で入ることに関しては不安もあるが、分身たちもいるから大丈夫だろう。
いざとなれば、分身たちを使ってインベントリから援護くらいはできるしな。
……インベントリか。
澪奈の援護について考えていた俺は、そのことが少し浮かんできた。
そういえば、インベントリの中ってどうなってるんだろう?
例えば、俺がインベントリに入って中にそれから分身のインベントリから外に出ることとかって可能なのだろうか?
ちょっと気になったので試してみる。
俺はすぐにインベントリへと入ってみる。まずここが重要だ。俺自身が中へと入ることができるのかどうか。
その結果は……入れた。インベントリの中は……宇宙のような空間となっている。
……俺が入れている大量の物はない。もしかしたら、部屋が分かれているのかもしれないな。
それから俺はインベントリの操作を行う。まずは、自分で外に出ることができるのかどうか。
……できた。
知らなかったな。まあ、そう使うこともないとは思うが、これなら……分身を通してインベントリで移動することもできるかもしれないな。
もう一度中へと入り、澪奈に近い分身に指示を出し、俺をインベントリから出してもらう。
すると……澪奈が目の前にいた。分身の俺に腕を絡ませている。その姿はまるで男女のデート風景のようにも見える。
「……ふふふ、マネージャーがいっぱい。食べ放題」
「澪奈?」
「……? あれ? 分身ってここまで再現度あったっけ?」
「本物だ」
ペタペタと触ってくる澪奈に答えると、彼女はポンと手を叩いた。
それから俺の腕に同じように腕を絡ませてくる。
「あっ、本物だ」
「どんな確認方法だ?」
「いつもしていることをしたら分かると思って」
「捏造しないでくれ。ていうか、俺がここにいることに驚かないのか?」
「ちょっと、驚いた。どうやって来たの?」
「インベントリを使って移動したんだ。ほら、分身がインベントリにアイテムをしまえるから、俺の体をインベントリにしまえたらできないかと思ってな」
「……なるほど。それなら、もしかして……もうダンジョンワープ玉いらない?」
「ていうか、分身を配置しておけば、任意の場所に移動できるな」
「つまり、私の部屋と行き来することもできる?」
「一応、可能だな」
「それは、いい。実質同棲」
どう実質なのだろう?
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