第102話


 撮影は……無事終了した。

 そのまま数名のスタッフたちとともに、俺たちは夕食を食べに来ていた。

 いわゆる打ち上げだ。


 注文していた飲み物が運ばれてきたところで、穴倉さんが立ち上がる。


「それでは皆さん。今日は一日ありがとうございました。この時間だけはすべて忘れて食事と飲み物を楽しみましょう……! それでは、乾杯!」


 穴倉さんが声を上げ、ビールを持ち上げた。

 俺はあまりアルコールが得意ではなかったので、ジュース。

 もちろん澪奈もジュースだ。

 そもそもここが居酒屋ではないので、穴倉さんも澪奈の年齢を気遣ってくれたのだろう。


 穴倉さんの宣言に合わせ、俺たちは飲み物を口に運ぶ。

 ごくごくと勢いよく飲むのは、獅子原さんだ。

 一気に飲み干してしまい、すぐにお代わりを要求するあたり、凄まじい。

 穴倉さんがビールとともに俺たちの席へと近づいてきて、それから笑顔を浮かべる。


「いやぁ、それにしても……本当にお二人は強いね」

「ありがとうございます」

「改めて聞くけど、やっぱりうちのクラン入らない?」

「誘いは嬉しいですけど、申し訳ありません」

「はぁ……入ってくれたらうちの戦力が一気に上がるんだけどなぁ。確認だけど、他のクランとかに入る予定もないんだよね?」

「そうですね」

「それならよかったよ。他の所に入られたらさすがにうちがナンバーワンから落ちちゃいそうだからねぇ」


 にこにことを穴倉さんが上機嫌に笑っている。

 ……穴倉さん的には、和心クランに入らなくても別にいいという感じか。


「そうだったそうだった。これ、MeiQubeにあげてもらう用の予告動画が入ったUSBね。スケジュールはメールで送っておいたから大丈夫だよね?」

「はい、ありがとうございます」


 事前の話し合いで、そういうことに決まっていた。

 番組に出る予定の告知と、その際に今渡された予告動画を流すことになっている。

 こちらとしても、視聴者の興味を惹きつけられる内容だと思うので、悪い話ではないだろう。

 ビールをぐびぐび飲んでいた穴倉さんは、それからこちらを窺うように見てきた。


「それで……もう一つ、頼みがあるんだけど……」

「なんでしょうか?」

「……できれば、できればいいんだよ? できれば……どこかで、能力の再検査を受けてくれないかな?」

「能力の再検査ですか?」

「ああ。今回、これで放送する予定ではあるんだけど……さすがに、獅子原が手も足も出てないのは……ちょっとその、まずいというか……できればぁ、Sランクのお二人に負けた! とかならまだ体裁は保てるかと思ってね」

「すまねぇリーダー! オレが弱かったばっかりに!」


 ……酒の影響か、近くで飲んでいた獅子原さんが涙ながらに声を荒らげ、穴倉さんの腰に抱き着いている。

 煩わしそうな表情で穴倉さんがそれを片手で押しのけようとしたが、さすがに獅子原さんのステータスに何もできない様子だ。


 それを見ていた澪奈も、何か思いついたような表情とともに俺のほうに抱き着いて来ようとしたので、額を掴んで押さえた。

 ……とりあえず、今のこちらの事情を伝えようか。


「私たちもいずれは再検査を受けるつもりだったんですけど、Sランクの評価が受けられるかが分からなかったので」

「それ……本気で言っているのかい?」

「自分たちは……攻撃に特化した成長しているんだと思って……はっきりいって打たれ弱いんですよ。たぶんですけど、魔法メインの穴倉さんよりも」

「……な、なるほど」

「検査では、総合的な能力が判定されるでしょう? 例えば、自分たちの評価が攻撃力100、防御力10とかとして、獅子原さんが攻撃力60、防御力90みたいな評価だとしたら……?」

「確かに……その場合、キミたちはもしかしたらAランク相当の評価になってしまう可能性はありえるね」

「ですので、できればSランクと判定されるときに検査はしようと思っていたんです。ただ、再検査自体の許可は冒険者協会にもとっているので、たぶんですが放送日までにはやると思いますよ。放送日って一ヵ月後くらいでしたよね?」

「そうだね。……それなら、よろしく頼むよ」


 すっと頭を下げてきた穴倉さんに、頷いて返す。

 穴倉さんはそれからふーっと大きく息を吐き、伸びをする。


「いや、これで一つの懸念事項がなくなって助かったよ。二人は今Aランク迷宮を攻略中だったよね」

「そうですね」

「生放送、すべてを見られているわけではないけどたまに見ていてね。それはもう驚かされるよ。僕なんて正直、Aランク迷宮でも限界だからね」

「……そう、なんですね」


 穴倉さんのステータスだと、確かに一度魔物に近づかれたら何もできないだろう。

 ……速度が遥か負けている状況の焦りは、俺もキングワーウルフで経験しているからな。


「そうなんだよ。だから、君たちのように当たり前のように攻略している冒険者を見ると安堵している部分もあるんだよ。いざ、自分たちがダメでもまだまだ後ろに控えている冒険者がいるんだってね。まあ、それは他のクランにも言えることだけどね。例えば、日本最高の侍少女とかね」

「サムライクランの桜さんでしたっけ?」

「そうそう。昔、一度だけともに迷宮攻略を行ったことがあるんだけど、あの人は本物の化け物だよ。本人が表舞台に出ることを好まないけど、たぶんキミたちと同じくやろうとすればソロで迷宮攻略生配信できるんじゃないかな?」

「そんなになんですね……ぜひ、一度お会いしてみたいですね」


 桜さんのステータスってどのくらいなんだろうな?

 そんなちょっとした疑問からの言葉だったのだが、澪奈から鋭い目を向けられた。

 なぜ睨まれた?





―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は【☆☆☆】や【ブクマ】をしていただけると嬉しいです!


ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る