第101話



 治療を行うといっても、俺は怪我を与えるようなことはしていない。

 念のためにポーションを飲んで、休憩していた獅子原さんと穴倉さんが話しあっている。

 穴倉さんは真剣な顔のまま、獅子原さんも真剣な顔のまま、少し冷や汗をかいてる。


 ……まあ、和心クランのメンツもあるよなぁ。

 だからこそ、全力を出すかどうかは迷っていたのだが、やはりもう少し手加減するべきだっただろうか?


「マネージャー……私もさっきくらいできる?」

「……たぶんな。ていうか、俺も澪奈も獅子原さんと相性いいからなぁ」


 俺と澪奈が苦手なのは自分よりも速い相手だ。

 基本待ちの姿勢である獅子原さんは、やりやすい。

 防具でいくら身を固めても、関節などの部位は装備が薄くなっているし、弱点も大きいからな。


 澪奈とはなしていると、穴倉さんと獅子原さんが戻ってくる。

 獅子原さんの表情は先ほどよりも真剣なもので、こちらを見てくる。

 穴倉さんがちらと俺たちを見てから、声を上げた。


「……それでは、撮影に戻ろうと思います。次は澪奈さんの戦闘になりますが、準備はできていますか?」

「うん。大丈夫」

「……分かりました。それでは、さっそく撮影に戻りましょうか」


 穴倉さんがそういって、俺たちは再びともに並ぶ。

 そして、穴倉さんが笑顔とともに声をあげる。


「というわけで、マネージャーさんとの戦闘を行ったわけですが……どうでしたか獅子原さん?」

「……いや、正直驚きました。はっきり言うなら、互角くらいには戦えると思っていましたが……まさかあれほど一方的になってしまうとは」

「そうでしたね……。次は、澪奈さんと戦ってもらいますが、心が折れてはいませんか?」

「大丈夫です。和心クランの代表として、今度こそ負けるわけにはいきません」

「気合も十分。すでに治療済みの獅子原さん。体力も戻っているので言い訳はできません。それでは、よろしくお願いします」


 穴倉さんがそう言うと、澪奈と獅子原さんが向かい合うように立つ。

 二人が視線をかわして礼をしたところで、穴倉さんが俺に声をかけてきた。


「マネージャーさん。今日の澪奈さんの調子はどうですか?」

「そうですね。万全ではあるといっていました。獅子原さんとボコボコにしたい、と」

「そうですよね。私も澪奈さんの一ファンですので、番組としては澪奈さんに頑張っていただきたいですが、クランリーダーとしては獅子原さんに負けて欲しくない。そんな複雑な心境とともに、第二戦……始めてください!」


 穴倉さんがそう言った瞬間に、澪奈がハンドガンを向けた。

 そこから放たれた弾丸は、獅子原さんの関節を寸分たがわず狙う。


「くっ!?」


 速度で圧倒的に不利な戦いを強いられている獅子原さんは、回避も防御も間に合わず、よろめく。

 それでも、澪奈の弾丸は数発で相手を仕留めきれるほどまでは強くない。

 ただ、よろめきは大きな隙となる。


 澪奈が降りぬいた模擬剣が獅子原さんへ振りぬかれる。

 すかさず盾を動かして受け止めたが、澪奈が力任せに振りぬくと、獅子原さんが弾かれる。


「ぐお!?」

「え……えええ……」

「今の一撃は、相手を斬るためではなく殴り飛ばすための一撃ですね。バットでボールを叩くみたいな感じです。相手が複数いる場合によく使うのですが、獅子原さんは防具で身を固めているので、それを崩すためでしょう」


 穴倉さんが固まってしまっていたので、俺が変わりに解説を挟んでおいた。

 澪奈が獅子原さんを弾いた先は、結界だ。

 そこに打ち付けられた獅子原さんは、壁に叩きつけられたような衝撃に襲われただろう。

 ……鎧などは急所を守ることはできるが、その分衝撃に弱い。


 すぐに体を起こした獅子原さんが澪奈の剣に盾を合わせて受け止める。

 だが、盾の間から弾丸が襲い掛かる。

 それは、吸い付くように獅子原さんにぶつかっていく。


「ぐっ!」


 よろめきながらも獅子原さんは体勢を戻すように盾を引き上げる。

 だが、澪奈がその瞬間に加速する。

 ……体の動かし方が上手いよな。重力の力をそのまま運動エネルギーに変えるように加速したため、ステータス以上の速度で獅子原さんの側面を取り、剣の腹で殴りつけた。

 

 まともに食らった獅子原さんが地面へと叩きつけられ、起き上がろうとしたその首元に澪奈が剣を突きつけた。

 獅子原さんがちらと穴倉さんの方を見た。


「……しゅ、終了です! またしても、獅子原は何もできませんでした! 油断していたわけではありません! お二人の力が、圧倒すぎました!」


 驚いていたままの穴倉さんがそう叫んだ。





―――――――――――

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