第100話

「そうですか! それでは挑戦はマネージャーさんからですね。よろしくお願いします」

「はい。分かりました。よろしくお願いいたします」


 俺がぺこりと頭を下げると、獅子原さんも同じように頭を下げてから、兜を身に着けた。

 お互いに一定の距離をとってから、構える。

 獅子原さんは剣と盾を。

 俺は拳を構える。


「今回の戦闘ですが、治療班とポーションも大量に用意しております! 二人が全力で攻撃できるように、準備はしていますので……どうぞ、思う存分獅子原をボコボコにしてください! それでははじめ!」


 穴倉さんの宣言に合わせ、俺は床を蹴りつけた。

 ……番組のことを考えると、なるべくいい勝負をしたほうがいいとは思うのだが……俺の普段の速度を見ている生放送の視聴者のことを考えると手を抜けないんだよなぁ。


 下手なことをしてしまうと、やらせを疑われてしまうだろう。

 そっちのほうが、きっと和心クランの評価を下げることになるはずだ。


 だから、俺も澪奈も全力で挑む。

 俺が一気に距離をつめると、獅子原さんから焦りのようなものを感じた。

 ……速度は俺のほうが圧倒的に早い。


 ただ、まだ俺は【雷迅】は使用しない。

 最初の数度の攻撃を、獅子原さんは盾で見事に受けきった。

 ……獅子原さんは反応しきれていないように見える。


 それは兜の間から見える顔からも分かる。

 それでも、俺の攻撃にどうにかついていけたのは、恐らく【盾術】が関係しているのではないだろうか。


 一度俺が距離をとったところで、穴倉さんと澪奈の声が聞こえた。


「おおっ、いい勝負です! 澪奈さん、どうでしょうか?」

「そうですね。とりあえずは、様子を見た、と思います。マネージャーはまだ【雷迅】のスキルを使用していないので……ここからさらに加速しますよ」

「さらに加速! 今でも十分速いのにさらに来ると……っ」


 穴倉さんの表情をちらと見てみると、演技ではなく純粋に驚いているように見えた。

 ……さて、澪奈の言う通りそろそろ本気を出そうか。


 【雷迅】で強化してから、獅子原さんへと走り出す。


「なっ!?」


 驚いたように獅子原さんが盾を上げる。

 だが、俺はその盾に向けて、思い切り張り手を放つ。


「……ぐっ!?」


 速度によって生み出された運動エネルギーを最大限生かすように体を動かした。

 受け止めた獅子原さんだったが、俺の生み出した衝撃に弾き飛ばされる。

 すぐに体勢を戻した獅子原さんだったが、俺はその側面に回り蹴りと拳を放っていく。

 盾を俺に合わせようとするが、防御が来るときには【雷迅】の速度を活かしてその逆側へと回る。

 常に防御が間に合わない位置へ移動し、攻撃を叩きこんでいく。


「かは!?」


 大振りの一撃が、彼の鎧を震わせる。

 鎧があるため、直接肉体を攻撃するのは難しいが、わざと衝撃のみを鎧に伝えればどうなるか。

 衝撃が全身を揺らし、まともに動くことは難しいだろう。

 その怯んだ隙をつき、背後から肘鉄を頭に叩き込む。


 兜ごしではあるが、衝撃を頭に受けるのは大きなダメージになる。

 獅子原さんを地面に叩きつけ、その背中を押さえ込むように俺は寝技へと持ち込む。

 防具は体の関節が動きやすくなるように身につけられているので、このまま関節をへし折ることはできたが、さすがにそこまではしない。


 動きを止めるように拘束して穴倉さんの方を見ると、


「……え?」


 普段は戦闘の実況を行っている穴倉さんはぽかんと固まっていた。

 獅子原さんがどうにか俺から逃れようとするが、力を籠めるとまったく動けなくなる。

 やがて、獅子原さんが床を叩き、声をあげる。


「こ、降参だ!」

「しょ、勝負ありです! って、えええええ!? マジですか!? 速度やば…………ええ!?」


 穴倉さんがうちの視聴者のコメントのように驚いた声をあげるばかりだった。

 一度そこで撮影を中断し、獅子原さんの治療を行うことになった。



―――――――――――

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