第99話
日曜日。
俺たちは和心クランのテレビ番組撮影のために、再びクラン本部を訪れていた。
ヘアメイクなどの準備を整えた俺たちは、早速撮影スタジオへと移動する。
撮影スタジオは……やはり凄い。
和心クランも自分たちのMeiQubeチャンネルを持っており、その登録者数は1000万人を超えている。
俺たちとは比べ物にならない長い歴史があるとはいえ、その数字は凄いものだ。
MeiQubeチャンネルの撮影もここで行われているそうで、なんだか見たことのあるセットが置かれた部屋も見せてもらった。
……まあ、見学はここまでだ。
俺たちは早速撮影を行うセットが置かれている場所へと移動する。
俺たちが到着したところで、すぐに撮影は開始される。
テレビで見たことのある穴倉さんの始まりの挨拶から本日のゲストの話までが行われていく。
それを俺たちはゲストが登場する扉の裏で待機しながら聞いていた。
「それじゃあ、次の穴倉さんのセリフに合わせて、入場してください」
「分かりました」
スタッフさんの声に頷き、俺たちは穴倉さんの声を聞いていた。
しばらくして、その時がやってきた。
「それでは、ゲストのお二人さん、どうぞ!」
その声に合わせ、俺たちは前へと歩き出す。
あくまで、澪奈がメインで俺は後ろをついていくような形だ。
俺たちが穴倉さんの前まで行ってからカメラのほうに体を向けると、穴倉さんが慣れた様子で話をしていく。
「というわけで、本日はこちらの二名ですね。冒険者について詳しい人は知らない人はいないでしょう。最強美少女高校生冒険者澪奈さんとそのマネージャーさんになります」
「初めましてマネージャーです」
と、澪奈がボケるように自己紹介をして頭を下げる。
「いやいや、それだと美少女高校生がマネージャーさんになっちゃうじゃないですか。あれ、そうでしたっけマネージャーさん?」
「いやいや、違いますよ。こちらが美少女高校生の澪奈で、私がマネージャーですから」
ぺこりと澪奈が頭を下げ、穴倉さんが笑顔とともに手を振る。
……穴倉さんからは、自由にやってくれていいと言っていたが、澪奈は度胸がある。
俺はこういう場面では……事件を起こさないようにという意識が高くなるので、前に出るようなことは何もできん。
軽く俺たちの紹介をしたところで、用意された席に座り、俺たちは話をしていく。
そこからは談笑だ。
穴倉さんが俺たちに質問をして、それに答えていくという形だ。
視聴者からの質問もあるのだが、今回は澪奈が高校生冒険者ということで、高校生から強くなる方法についての質問が多かった。
俺に対してのあまり質問はなかったので、俺としては気楽だ。
しばらくして、スタジオでの撮影が一区切りついた。
この後は、獅子原さんとの訓練が行われるため、俺たちは道場があるフロアへと移動する。
「今日は二人と戦えるってことで獅子原が楽しみにしていたんだけど……どうなるだろうね」
通路に出たところで、穴倉さんが穏やかな調子で問いかけてきた。
……楽しみ、か。
以前の打ち合わせから俺たちもかなり成長しているからな……どうなることやら。
「僕としては、もちろん獅子原を応援しているけど、キミたちの攻撃力もかなりのものがあるみたいだからねぇ。いい勝負、期待しているよ」
「……はい、わかりました」
いい勝負、になればいいのだが。
獅子原さんが待つ道場につくと、すぐに撮影の準備が始められる。
さらに、道場全体を覆うように結界が張られる。
さすが、和心クランだ。
俺たちの戦闘によって道場に傷ができないよう、結界魔法を使用できる人間を複数用意している。
彼らのステータスを眺めていると、道場で待機していた獅子原さんがこちらにやってくる。
フルアーマーの装備に身を固めた彼は、にやりと笑みを浮かべる。
……この前よりも、本気で身を守りに来ているな。
というか、これまでのどの放送よりも彼の守りは固いように見える。
ステータスを見てみると、そこまで大きくは変わっていないが、前よりも全体的に高い。
恐らく、装備を変えたからだろう。
……ただ、俺が想像していたよりも変化は少ない。
特に、戦闘でもっとも重要と思われる速度に関しては俺たちのほうがはるかに高いんだよなぁ。
「二人とも、今日はよろしく頼みますね」
獅子原さんが笑みを浮かべる。
撮影の準備も終わり、俺たち四人は並ぶように立つ。
準備が終わったところで、撮影が開始され、穴倉さんが声を上げた。
「それでは皆さん。毎度恒例のうちの獅子原とゲストの対決になります。今回は、Sランク冒険者の獅子原にも劣らないと思われる実力者二名の挑戦になりますが、どうですか?」
穴倉さんが獅子原さんに声をかけると、にこりと笑みを浮かべた。
「ええ、自慢じゃないですがオレはこれまで一度も敗れたことがありませんからね。今回も、守りきってやりますよ!」
獅子原さんの純粋な笑顔とともに作られたガッツポーズ。
それを受けた穴倉さんが、こちらに視線を向けてきた。
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