第98話




 迷宮の魔物なので出血はなかったが、大ダメージだ。

 ハンターリザードマンが持っていた剣が地面に落ちる。

 さらなる深手を負ったハンターリザードマンが右手に持った剣を澪奈へと振りぬきながら、


「ギエエエエエエエ!」


 叫んだ。

 その雄たけびに反応するように、近くにあった魔物たちの反応がこちらへと向かってくる。

 数は、三つ。

 先程の叫びは、仲間を呼ぶためのものなんだろう。


 ……このエリアの魔物は仲間、という概念があるんだな。

 これまでの魔物たちよりもずっと賢いなと褒めている場合ではない。


 さすがに三体が相手となると、少し厳しい状況だ。

 俺はすぐにカメラを三脚にセットし、近くに置いた。


「澪奈さん。魔物が近づいてます。迎え撃つ準備をしてください」

「分かった。視聴者の皆さん。さっきの雄たけびでどうやら仲間を呼んでいるみたいなので、ここからはマネージャーにも戦ってもらいます」


 澪奈は冷静にハンターリザードマンの首を跳ね、俺はすぐに近くの瓦礫の陰に隠れ、息をひそめる。


 ハンターリザードマンCの叫びに反応してやってきたのは、ハンターリザードマンA、B、Eの三体だ。


「ガアア!」

「ギャギャ!」

「ガッガッガ!」


 澪奈に気づいた三体は、標的が澪奈しかいないと思ったようで笑い叫んでいる。

 気配を消している俺にはまったく気づかず、三体は澪奈のほうへじりじりと距離を詰めている。


 俺から最も近いハンターリザードマンEへ……距離を詰める。

 レベルは59か。さっきよりも高いが、【雷迅】とともに加速した俺に、ハンターリザードマンEが反応したのは俺が首に腕を回した瞬間だった。


「が――」


 悲鳴は一瞬。その首を回転させて弾き上げる。

 体力が高くとも、不意打ちを、柔らかな部位に食らえばこの通りだ。

 ハンターリザードマンBを倒した俺は、すぐに隣のハンターリザードマンAへ視線をやる。


「ガ!」


 ハンターリザードマンAが持っていた剣を振りぬいてくる。

 二つの剣を振るう姿は舞踊のような美しさがあるが、それらをかわしながら拳を振りぬく。

 【雷迅】で強化された俺の速度は、ハンターリザードマンAをはるかに超えている。


 拳を振りぬき、怯んだハンターリザードマンAへ仕掛けようとしたが、それを妨害するようにハンターリザードマンEが剣を振り上げる。


「……私のこと、忘れてない?」


 澪奈の冷淡な声が響くと、ハンターリザードマンEの胸に剣が生えた。

 澪奈の剣がハンターリザードマンEの口から息が吐きだされ、その体が沈む。

 その間に、俺はハンターリザードマンAへと肘をぶつける。

 そのまま顎へと拳を振りぬき、脳を揺らす。


 よろめきながらも剣を振りぬいてきたが、そんなへなちょこの剣が俺に当たることはない。

 加速して背後をとった俺は、速度で得た運動エネルギーとともに蹴りを放つ。

 頭に蹴りを放ち、そのまま地面へと叩きつけて踏み抜いた。


「……ふぅ。……それじゃあカメラマンに戻ります」

「うん。ありがと」


 俺がぼそりと言葉をかわしてから置いていたカメラに戻り、生放送のコメント欄をスマホにて確認する。


〈……マジで?〉

〈は? え?〉

〈相手、Aランクの魔物だよな……?〉

〈さすがに三体はやべぇって思ってたのに、二人ともあっさり捌きすぎない?〉

〈確か、MeiQubeにAランク迷宮攻略の動画とか上がってたよな?〉

〈……和心クランが、総勢四十名使った奴だろ?〉

〈撮影者一人を守るために十人用意、残りで迷宮攻略した奴だよな?〉

〈攻略じゃないけど……二人で撮影しながらで余裕って……改めてやっぱやべぇよ……〉


 新規はもちろん、既存の視聴者も驚きに包まれている。

 ……視聴者数、十四万人って、今までの最高人数だよな。


「私たちもさすがに三体とか敵のほうが多くなると、カメラをセットして戦闘をするから、多少見づらくなると思いますので、そこだけは申し訳ございません」

〈いや、それは普通のことなんだけど……〉

〈申し訳なくないんだよなぁ……〉


 澪奈の言葉に、視聴者たちは驚きまくっていた。

 俺たちの渋谷エリアの攻略は、その後も特に問題はなかった。

 ただ、俺たちが戦うたびに驚愕するコメント欄は結局最後まで続いていた。


 ……さすがに、生放送中に全体を見て回ることはできなかったがそれでもその日の生放送は問題なく終了した。



―――――――――――

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