第14話

 月曜日。

 昨日は澪奈と平日にあげるための動画を撮影していた。

 迷宮内での戦闘や、さらに深い階層への挑戦などについてだ。


 そこで気づいたのが、澪奈は俺と違ってステータスポイントが何かを条件に上昇しているのだ。

 ……もしかしたら、日々の鍛錬などで獲得しているのかもしれない。

 あと、たまにステータスポイントが減って、ステータスに勝手に割り振られているときもある。

 例えば、【氷魔法】を使ったときに魔法力が+1されたりだ。


 俺以外の人たちは日常の鍛錬でステータスポイントを獲得し、それを使用頻度の高いステータスに分配するのかもしれない。

 ただ、澪奈以外を観察しているわけではないので、まだまだ分からないことは多い。


 一日戦ってみても、魔法力に+1されただけで、なんなら戦闘によってステータスポイントは+3ほどされていたので、今は別に割り振ることはしていなかった。

 まだ、どのように分配するか迷っていたしな。


 戦闘に関する編集は昨日のうちにしてあるので、今日の俺は完全にフリーとなっていた。

 ……ロケハンでもするか。

 澪奈とともに迷宮攻略をしたのは七階層までだ。わりと、澪奈が苦戦するようになってきたので、そこで中断している。


 七階層まで行った時に感じたが、マッピングされてないと無駄な撮影時間が増えてしまうのだ。

 だから、撮影のために、先に十階層くらいまでは調べておいてもいいかもしれない。

 俺は迷宮の一階層から七階層を目指して進んでいく。


 アイテムで移動したいところだが……お金ないしな。

 道中のゴブリンを討伐しながら、片手でスマホを操作する。

 迷宮内でも、インターネットが繋がる。だから、この時間に澪奈チャンネルについて調べていく。


 まずは日曜日にあげた動画だ。

 事務所の脱退と新しいチャンネルの創設、今後の活動について公開した動画は……5000再生を越えていた。

 ……もともと、『ライダーズ』のチャンネルが3万人ほどであり、そのときのファンたちが澪奈の動画を見に来てくれたようだ。


 まだ投稿して一日目なので、今後さらに伸びていくだろう。最終的に10000再生を越えてくれるかもしれない。

 

 そして、チャンネル名は『澪奈&マネージャーの迷宮攻略ちゃんねる』となっていた。

 結局ごり押しするように澪奈がこのチャンネル名にしてしまったのだ。

 ひとまず、『初めまして』の動画のコメント欄を見ても、批判されるようなコメントはない。


 応援の好意的なコメントばかりで、ひとまずはこのチャンネル名でもいいか。

 登録者は、すでに3000人か。

 他のSNSなどから誘導していたとはいえ、『ライダーズ』のときよりは減ってしまったが、それでもこれだけ澪奈のファンたちがいるということだろう。


「って……あれ?」 


 澪奈のチャンネルを見ていた

 ……『初めまして2』、という俺の知らない動画が上がっていることに気づいた。

 動画を上げた時刻からついさっきのようだ。


 ……いや、まあ今の俺と澪奈の間にマネージャー関係はないので、どんなものを上げても構いはしないのだが言ってくれればいいのにとは思ってしまった。


 ただ、今のこのチャンネルは澪奈のものだ。

 澪奈が自由に動画を上げても構いはしないが、問題がないかだけは確認する必要がある。


 動画が始まり、すぐにそこが澪奈の自室だと分かった。

 私服に着替えた彼女が手元にクマのぬいぐるみを持っていて、その手を振るようにして始まっていた。


『皆さん、こんにちは? あっでもおはよう、こんばんはも言っておきます。私、澪奈は色々な事情があって事務所を辞めて、このチャンネルで心機一転活動していくことを決めました』


 笑顔を浮かべる澪奈。

 作り笑いではなく、心からの笑顔だというのは一目で分かる。


『今回、このようなチャンネル名にしたのには理由があって、私が辞めるにあたって、私をスカウトしてくれたマネージャーさんも一緒に辞めて、今も私のお手伝いをしてくれることになりました』


 あくまで際どい部分に関しては、控えてくれている。

 ……実際は俺が辞めるのに合わせ、澪奈がついてきてくれたというのが正しいんだけど、俺を立ててくれているんだろう。

 その辺りの匙加減が澪奈はうまい。


『マネージャーさん、今完全に無職童貞になってしまい……生活どうするのっていうことで、私に入った収益の一部をマネージャーに支払う話をしたら、別にいらないからと断られたので、チャンネル名はこのようにしました』


 おい、童貞はいらないだろ童貞は。


『こうすることで、あくまで二人で運営しているチャンネルなので収益なども折半できますよーとマネージャーにいえる。天才的な発想だと私は思い、チャンネル名はこれにしました』

『そういうわけで、これからよろしくお願いします』


 ……澪奈がぺこりと頭を下げた後、持っていたクマのぬいぐるみで手を振っていた。

 この動画もすでに1000再生を越えていて、コメント欄も好意的なものが多い。

 俺のことを気遣ってくれる声もあり……俺は澪奈や澪奈のファンの優しさを噛みしめていた。


 ただ、無職童貞について茶化すコメントもいくつかあるので、そいつらのアカウント名だけは覚えておくことにした。


 ……とにかく。

 応援してくれる人たちがいる。

 今の澪奈を見たい人たちなのだから、彼らを配させないよう俺も冒険者として強くならないとな。

 コメント欄を見てみても、澪奈を心配する声が多いしな。


―――――――――

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