第4話
黒い渦。
これは迷宮と呼ばれ、中は異空間へと繋がっており、魔物が出現する。
……こういった場合、真っ先に確認するべきは、この迷宮の脅威度だ。
意外と冷静に処理できるのは、ブラック事務所で働いていた経験からである。
「……良かった。魔物が外に出てくるタイプの迷宮じゃないな」
黒い渦から稲光のようなものが出ている場合は、迷宮から魔物が出現してくる暴走状態であるのだが、これは大丈夫だ。
あとは、迷宮の難易度か。
といっても、これは専用の器具がないと調査できないんだよな。
興味本位で黒い渦へと近づいた瞬間だった。
【――ク】
不思議な声がしたと思ったら、俺の体は迷宮へと飲み込まれてしまった。
中は洞窟のようになっていたが、不思議と明るい。洞窟の天井に埋め込まれた魔石が輝いているおかげだ。
って、そんな悠長に考えている場合ではない!
迷宮ということは魔物が出現するわけで、俺は急いで背後の黒い渦から外に出ようとしたのだが、
【――しました。あなたには恩恵としてステータスの確認と能力が付与されます】
「え? え? どういうこと?」
不思議な声に疑問を返していると、俺の眼前に画面が表示された。
茅野圭介(かやのけいすけ) レベル1 筋力:1 体力:1 速度:1 魔法力:1 器用:1 精神:1 運:1
ステータスポイント:1
職業:【商人】
装備:【なし】【なし】【なし】【なし】
こ、これは一体。
……まるでゲームのステータス画面みたいなものが浮かびあがっていた。
ステータスに職業って……こんなボーナス聞いたことないぞ?
俺も澪奈たちのマネージャーをしていたから冒険者についての知識はあったが、冒険者の力はスキルだ。
例えば、【火魔法】のようなものだ。
……こんな職業とか、ステータスなんてのは聞いたことない。
「いや、それよりも……マジで迷宮か。それも自宅に……自宅に迷宮?」
マネージャーとして、色々とネタが思いついたが、ひとまず迷宮調査課に連絡しないとな。
迷宮調査課は市区町村で管理している迷宮の調査を行ってくれる部署だ。
民間に委託されていることもあるが、二十四時間対応だ。
連絡して迷宮が発生した旨を伝えると、十分ほどで部屋のチャイムが鳴った。
「すみません。迷宮調査課のものになります」
「……すみません。わざわざこんなところまで」
「いえいえ。これが仕事なので」
にこりと微笑んだ迷宮調査課の男性の顔色はいい。
二十四時間対応と聞いていたから、もっと疲れた顔をしているのではないかと思ったが、そうではないようだ。
きっと、日勤夜勤でちゃんと分かれているんだろうな。
事務所でも忙しいときなどは二十四時間勤務をしていたことがあった。
もちろん、日勤夜勤どちらも俺が対応していた。15分くらいの仮眠をたまにとるだけで、案外人間って動けるものなんだよな。
「それにしても……部屋に出てしまうなんて大変ですね」
迷宮調査課の男性が苦笑しながら調査をしていく。
「そうなんですよ……あんまり大きくない部屋なのにさらに圧迫されてしまって」
「……それは、残念ですね。っと、こちらの迷宮はどうやらGランク迷宮ですが……かなり奥が深いですね」
男性が持ってきた迷宮調査機を俺も見せてもらう。
これは、迷宮が放つ魔力を感じ取り、その迷宮の難易度を把握してくれるものなのだ。
最近のは高性能で、魔力の質からおおよその迷宮の規模までも把握してくれるのだが、そこに表示されていたのはGランク、二十階層という文字だった。
「……これ、市に攻略依頼を出した場合どのくらい時間かかりますかね?」
迷宮攻略の依頼は国と民間への依頼の二つに分けられる。
国――今回でいえば地元の市区町村になるが、その場合は補助金で対応してもらえるので、俺の負担はなくなるが、攻略優先度は低くなる。
それに、対応してくれる冒険者の予定が人気料理店のように何か月先まで埋まっています、なんてこともざらにある。
俺のそんな不安を示すように、男性の表情が険しくなる。
「……そうですね。迷宮も暴走していませんし、優先度はかなり低いので、恐らく一年くらい先になってしまいますね」
「い、一年……。民間に依頼を出した場合、どうですかね?」
「Gランク迷宮っていうのがネックですね……報酬を弾めば、たぶん引き受けてくれるとは思いますが、二百万はかかってしまうと思いますよ」
「……そう、ですか。とりあえず、市のほうに依頼を出してもらってもいいですか?」
に、二百万。
プライベートなんてなかったようなものなので、貯金はある。
だが、迷宮攻略のために支払いたくはなかった。
「分かりました。それでは、こちらの書類に記入お願いします」
男性から渡された書類に必要事項を記入してから返却した。
「承りました。それでは、お気をつけください。また、万が一魔物が出現する迷宮に進化してしまった場合は、すぐに報告してくださいね」
……最初は大丈夫でも、迷宮は生き物のように成長する。
突然魔物が出てくる可能性があるので、自宅に迷宮があるというのは中々に危険な状態ではある。
「……はい。よろしくお願いいたします」
俺は男性を見送った俺は、早速ステータス画面を確認し、それから部屋にあった金属バットを握りしめる。
俺は元々無能力者だった。
別にそれ自体は珍しいわけではないが……先ほど、迷宮のおかげか分からないが……ステータスを手に入れ板。
――もしも戦えるようになっていれば、澪奈のカメラマンとして、同行できるようになる。
まして、部屋に迷宮が出現した、なんて……MeiQube的に注目される可能性が高い。
「……澪奈のためにも、いっちょやるか!」
これからの活動のことも考え、俺は一人迷宮へと潜り、様子見をすることにした。
先ほどのステータスについても調べてみたかったし。
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