第3話
MeiQuber。
今では、魔物と戦っている場面を配信している人たちの総称のようになっているので、MeiQuberを自称すること自体はわりと難しくない。
俺だって、スマホで撮影しながら迷宮に潜れば、その時点でMeiQuberだ。
知名度や能力はともかくとして。
人によっては、一定の登録者数などがないと認めない人もいるがそれはあくまで個人の意見だ。
俺と澪奈は最寄り駅に乗り、それぞれの家へと向かっていた。
俺も澪奈も下りる駅は同じだ。
……こんな早く帰るなんて、初めてだな。
時刻はまだ十七時だ。普段は終電で帰っていたので、まだ陽が落ちていないことが新鮮だった。
……これだけでも、辞めた価値があるかもしれないとか思ってしまった。
俺と澪奈は隣り合わせで座っていたのだが、彼女が顔を覗き込んできた。
「マネージャー……これからの活動どうする? って呼び方もマネージャーじゃないほうがいい?」
「……どうしようか? 一応今の俺って……ただの無職だし……」
「うーん。じゃあ無職さん?」
「それはやめてくれ」
「冗談……妥協点として、ダーリンとかのほうがいい?」
「何をどう妥協したのか教えてもらっていいか?」
「あなた、かダーリンで迷った結果だけど、どっちがいいダーリン?」
「マネージャーでいいから……」
「分かった、ダーリン」
「人の話聞こうな?」
澪奈は本気なのか冗談なのか分からないが、俺に対してそういった発言をよくしては一人笑っている。普段、彼女はあまり表情が変わらないが今はとても楽しそうである。
まあ、俺としても澪奈が『ライダーズ』の最初のメンバーでもあったことから、一番気兼ねなく話せる仲ではある。
ため息を吐きながら、俺は話を続ける。
「とりあえず、呼び方はマネージャーにしてくれ……あと、今後の活動についてなんだけど……」
「とりあえずチャンネルは作っておいた」
「はやっ! やる気満々だな」
「マネージャーのやる気に負けたくないし」
……澪奈のその言葉は、恐らく事務所に対してだろう。
俺も……似たような気持ちではある。
「ただなぁ……迷宮攻略をするにしてもさすがに澪奈ソロだと危険だしなぁ」
「……マネージャー。そんなに私のことを心配してくれて……嬉しい。……愛?」
「いや、視聴者もドキドキしたまま見ることになるからな。皆不安だろ」
「……むー。私のことはどうでもいいんだ」
「そんなことはないから。澪奈も大事だから、今後については慎重に考えていこう」
「……う、うん」
澪奈は頬を赤らめ、小さく頷いている。
MeiQuberとして配信するのなら、やはり迷宮攻略動画が一番だ。
ただ、俺はスキルなどを持たない一般人だ。
澪奈一人に迷宮攻略をさせるわけにはいかない。……やるとしても低ランク迷宮の攻略だが、それだと配信サイトMeiQubeではごくごくありふれたものであり、注目を集めるものではないだろう。
事務所と連携していれば、提携している冒険者たちを護衛にできるが、今の俺たちは個人になるから依頼を出して雇うしかない……。
……そうなると、金がかかる。
俺も事務所でブラックな労働時間でお金を使う暇がなかったから、かなり貯金はたまっているほうだが……俺にも生活があるし……。
まずい、いきなり問題山積みだ……。
電車が自宅近くの駅に到着するまで考えたが、中々いい案が思い浮かばない。
「とりあえず、今後について思いついたらまたあとで連絡するから……それでいいか?」
一応知り合いの冒険者がいるので、話をつければ迷宮攻略をともにしてくれる可能性はある。
事務所で活動していた時代の人たちが、一体どれほど協力してくれるか……話をしてみないことには分からないな。
「うん。それじゃあ、話し合いたいし明日辺り、マネージャーの家に行ってもいい?」
「ああ、別にいいけど」
答えると澪奈が嬉しそうに微笑んだ。
「ちゃんと勝負下着用意していくから」
「何するつもりだ?」
「私の口から言わせるつもり? えっち」
「何もないからな?」
澪奈の発言は際どいものが多い。
俺が苦笑していると、澪奈がひらひらと手を振る。
「うん、また明日。学校が終わったあとに行く」
「了解だ。それまでに、今後の活動についても話せるようにしておくよ」
澪奈の冗談に苦笑しながら、俺は自宅へと向かう。
とりあえず、あちこち連絡とらないとなぁ……と考えながら部屋を開けると、
「……はああああ!?」
俺のボロアパートの俺の部屋に、ずどんと居座るように出現していた黒い渦。
――これは、迷宮の入口だ。
―――――――――――
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