第33話



 結構広いな。


 どこにどんな魔物がいるのか……魔物のレベルはどうなのか? ボスモンスターは? それに、自然に生えているもので採取可能な道具はあるのか?

 それらが非常に気になるところだ。


「自然が多くていい感じだけど……蚊とかいないかな?」

「そうだなぁ……」


 蚊に刺されは酷いときは跡が残ってしまう。

 澪奈の肌に残ってしまうと、わりと致命的だ。

 周囲を見た感じ、そういった生物はいなそうだし、今後も現れないことを祈るしかない。

 草原を歩いていくと、向かいに一匹の人型の魔物を発見する。


 あれは――ワーウルフだ。

 まだ向こうはこちらに気づいていないが、獲物でも探しているのかすたすたとこちらに背中を向けたまま歩いている。


「……やっぱり、少し迷宮と違うよな。初めから出現してるなんて」

「迷宮は、私たちの動きに合わせて魔物が出現するから……確かに少し違う」


 澪奈の言葉に頷く。

 迷宮の魔物が自然発生することはない。


 普通の迷宮では、魔物が発生する地点が決まっており、一定の範囲に踏み込んだ時点で魔物が発生する仕組みになっているのではと予想されている。

 製作者にインタビューできるわけではないため、予想の域を出ないのだが、俺も似たような感じだと思っている。


 しかし、この迷宮はそれらの常識とは違うようで、魔物が自然に発生する。放っておけば、無限に出てくるのだろうか?

 だとすれば、迷宮から魔物があふれ出す暴走状態に似ている。

 迷宮暴走とも呼ばれるこれは、単純に迷宮から魔物があふれ出してくるのだが、突発的に発生するため、地震や噴火のような災害と同列に語られることが多い。


 ……魔物の数に上限が決まっていてほしいものだ。

 俺はじっとワーウルフを観察し、そのステータスを確認する。


 ワーウルフC レベル26 筋力:71 体力:62 速度:81 魔法力:51 器用:65 精神:64 運:65

 ステータスポイント:0

 スキル:【格闘術】

 装備:なし


「ちょっと、ステータスをメモするな」


 澪奈に共有するために、ワーウルフの情報をメモ帳に書いた。

 それを見せると、澪奈が眉間を寄せた。


「野生の魔物でこれはかなり強い。やっぱり、Dランクくらいはある?」

「そうだな。……それに、【格闘術】も持ってるんだよな」


 スキルはとても優秀だ。

 拳装備はなかったが、どれかしらの装備品に影響がある可能性があるので、俺からすれば喉から手が出るほど欲しい。

 ただ、入手できるかはこのワーウルフを倒せるかどうかにかかっている。


「マネージャー。とりあえず、あのワーウルフと戦ってみたいけど……まだステータスポイントって残ってる?」

「残ってるな。戦闘前に、とりあえず準備するか」

「うん」


 改めて、今の俺たちのステータスを割り振ってから確認する。


 茅野圭介 レベル22 筋力:55 体力:22 速度:68 魔法力:22 器用:22 精神:22 運:22

 ステータスポイント:0

 職業:【商人】

 装備:【ゴブリンリーダーの指輪 筋力+6 速度+6 スキル:鼓舞】【速度のネックレス 速度+18】【筋力のネックレス 筋力+18】【速度のネックレス 速度+9】


 装備合計:筋力+24 速度+33

 ステータスポイント割り振り:筋力+9 速度+13


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル22 筋力:76 体力:14 速度:113 魔法力:20 器用:43 精神:11 運:11

 ステータスポイント:0

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク3】【銃術:ランク3】

 装備:【ロングソード 筋力+9 速度+9】【ハンドガン 速度+9 器用+9】【ロングソード 筋力+3 速度+3】【ハンドガン 器用+3】


 装備合計:筋力+12 速度+21 器用+12


 これが今の俺たちのステータスだ。


 さらに、俺はスキル【鼓舞】を使用してみる。

 【鼓舞】の発動に関しては、対象を選択して意識すればいいようだ。

 ゴブリンリーダーが使用するときは叫んでいたが、あれは恐らく気分を上げるためのものだろう。


 対象は、自分以外のようで俺を強化するには澪奈に装備を渡すしかない。

 これで自身も強化できればよかったのだが、そううまくはいかない。

 【鼓舞】を使用すると、体の中から何かが抜けていく感覚があった。これは恐らくMP的なものだろう。


 【鼓舞】を使用したあとの澪奈のステータスは、ずいぶんと上がった。


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル22 筋力:83 体力:15 速度:124 魔法力:22 器用:47 精神:12 運:12

 ステータスポイント:0

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク3】【銃術:ランク3】

 装備:【ロングソード 筋力+9 速度+9】【ハンドガン 速度+9 器用+9】【ロングソード 筋力+3 速度+3】【ハンドガン 器用+3】


 装備合計:筋力+12 速度+21 器用+12


「【鼓舞】……どう?」

「強化は全ステータスを10%強化かな? 小数点以下は切り捨て、って感じみたいだ」

「……なるほど」


 ただ、問題があるとすれば今の俺たちのステータスでもワーウルフCとはまだ少しステータスの開きがある。

 俺のショップにあるゴールドは、現在23万4000ゴールド。

 ……これで一応装備品を購入できるとはいえ、雀の涙ほどの強化だ。


 俺が最初に購入したロングソードなら、20万ゴールドで筋力と速度を強化できるので、澪奈のハンドガンと入れ替えるのはありかもしれないが……そこまでする必要があるかどうかはわからない。


 俺と澪奈。二人がかりならワーウルフを十分倒せるだろうしな。

 【鼓舞】の効果時間は五分ほどのようだ。

 あまり長くはないが、一度の戦闘くらいなら問題ない。


「挑んでみるか?」

「うん、やってみたい」


 ワーウルフを追跡するように歩いていたが、まだ他の魔物は見つけられていない。

 あまり魔物が出ないタイプの迷宮という可能性もあるし、あのワーウルフが実はレアモンスターという可能性もある。

 ここでスキルを逃すのはもったいないので、俺としても倒しておきたかった。







―――――――――

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