第32話



 色々あったが俺たちのやることは変わらない。

 とりあえずは迷宮攻略からだな。


 それにしても……新しくなった迷宮をちらと見る。

 ……まさか、リニューアルオープンしてしまうとはな。

 ……マジか、という思いはあったが、今の澪奈の活動を考えるのなら悪くはないのかもしれない。


 全国あちこちに迷宮があり、自分の能力に合わせて選べるというのは魅力であるが、その分交通費がかかる。経費としてしまえばいいが、経費といえどもお金がかかるのならそれはそれだ。


 経費はあくまで、税金を免除する手段で、例えば売上十万、交通費十万なんてことになったら、いくら税金を支払わなくて済むとはいっても……となる。


 だから、あとはこの迷宮の難易度が今の俺たちに合っているかどうか。

 気になる点はそこだけで、それを今日調べる予定だ。


 社長からの電話対応も無事終わり、俺は立ち上げたパソコンで澪奈のホームページを確認していた。


 今、澪奈のホームページを作成中だった。特に何かするわけではなく、澪奈の紹介とMeiQuberやTwotterのアカウントのURLを貼る程度だったが、昨日の収益化でどうしても記載しておかなければならないことが増えた。

 切り抜きについて、のページを作り、そこに必要事項を打ち込んでいく。


「澪奈。切り抜きに関しての収益はとりあえず切り抜き者が100%受け取れるっていうのでいいか?」

「私はそれでもいいけど、多少はもらわなくても大丈夫?」

「宣伝者が増えるまではこれでいいと思ってる。まだまだあんまり切り抜いてくれる人もいないしな」

「宣伝費用、ってこと?」

「まあ、そんな感じだ」


 切り抜き動画とは、文字通り配信などを切り抜いてあげるというものだ。

 有志の人がそれぞれ様々な目的で切り抜きをしてくれ、配信で特に面白かった部分をピックアップしてくれるため、ファン増加に繋がりやすい。


 配信は見なくても、切り抜きだけを見る人もいるが、それでも認知度が上がるのはいいことだ。


 切り抜き動画に関しての収益に関しては、切り抜き者と元の配信者の二人に分配することが可能だ。


 俺たちのところに入った収益から割合を計算して切り抜き者に配るものと、切り抜き者が全額受け取るもの。

 前者のほうが俺たちにも利益はあるが、切り抜き者からすると利益が多少減ることになるので、どちらもメリットデメリットはある。

 澪奈のファンは今も増えてはいるが、それでもまだまだ増加の途中だ。


 切り抜きをしてくれる人が増えてくれればという打算的な考えからも、切り抜きの収益はこちらから取らない、としたほうが色々と都合はいい。

 いわば、広告費のようなものだ。


 ただし、少し大きめの文字で『今後は比率が変わるかもしれない』とはもちろん記載しておく。


 いつかルール変わるかもねーくらい、が社会人としては一番楽なのだ。

 最初は甘くして、あとで締め上げる。

 多くの人に、心当たりがあるだろう。

 最初は無料だった年会費が気づけばとるようになっているとか、だんだん値段があがっていくとか。


 ポイント還元の多かった電子マネーアプリやクレジットカード払いなど……俺も経験あるからな!

 ホームページにそう乗せ、投稿者の説明欄にも、その旨は載せておく。

 まあ、後からお金を取るようになると、その瞬間に批判を食らう可能性もあるため、難しくはあるんだけどな……。


 一応完成したホームページを澪奈にも確認してもらってから、公開しておく。澪奈のTwotterアカウントとMeiQubeアカウントにもリンクを貼り付けてもらう。

 これで、ひとまずここでの作業は終わりだ。

 次にやることは、この新しくなった迷宮の調査だ。


 配信を行う場合に安全かどうか……。

 先に俺が入って調べておいたほうがいいだろう。


「澪奈。ちょっと迷宮の下見に行こうと思っているんだけど、行ってきていいか?」


 澪奈はまだスマホを操作していたので聞いてみると、彼女はスマホの画面を閉じた。


「私も行っておきたい。配信する前に安全か確認したいし」

「それじゃあ行こうか」


 迷宮がどんな風に変化したのか、景色的なものはすでに見ている。

 だけど、まだ魔物は確認していないからな。


「難易度はDランクだよな? 大丈夫かな」

「Gランク迷宮のボスモンスターがFかEランクくらいって聞いていたから、ちょっと大変かもしれない」

「だよな。もしまったく歯が立たないってなったら、別の迷宮でレベル上げしないとだよなぁ」

「うん。でも、そのときはそのときまた考えよう」


 澪奈の言う通りだな。

 今はひとまず、新しい迷宮に対する期待感が強い。

 ……俺は澪奈のフォローをしつつ、自分も冒険者として一流を目指したいと思っているからな。


 着替えなどの準備を済ませるため、俺は一度トイレへと向かう。

 昨日の澪奈の転びそうになったことを考えた結果、澪奈がそういう時間になったら俺はトイレに隠れたほうがいいのではと思ったからだ。

 そういうわけでトイレに避難した俺は、昨日の予想外の迷宮騒ぎで確認できていなかった二つのことを確認する。

 まずは、装備だ。ゴブリンリーダーがドロップした装備品を確認してみる。


 ゴブリンリーダーの指輪 ランク7

 効果:【筋力+6】【速度+6】

 スキル:【鼓舞】


 ……おお! なかなかの装備品だ。

 澪奈が倒して入手したものだが、澪奈に戦ってもらう場面などでは俺が身に着けたほうがよさそうだな。

 そもそも、アクセサリー系の装備をつけても澪奈のステータスが大きく上昇することはないし、これはしばらく貸してもらおう。

 スキル【鼓舞】はゴブリンリーダーがゴブリンに使用していた強化スキルだよな。

 これを使えば、澪奈のステータスを一時的に強化できるはずなので、多少相手が格上でもどうにかなるかもしれない。


 これに関してはあとで検証してみるとして、次にショップだ。

 ショップのスキルブックを確認してみると、【鼓舞】のスキルが増えている。

 これは一応確認済みだったが、改めてだ。

 やはり、スキル持ちの魔物を倒すことで、スキルが増えていくという認識で良さそうだ。


 あとは、ショップか。

 ショップの品ぞろえが更新されていて、装備品が四百万まで増えていた。

 ランクが1上がると、装備の性能が+3されていくようだ。


 装備に関しては装備制限がある以上、より高額の品を身に着けたほうが強くはなれるが……四百万円の品を買えるようになるのはいつになることやら。

 ……ショップの更新に関しては、迷宮を攻略したからだろうか? それとも、俺のレベルが上がったからか?

 考えても分からないことだな。


「マネージャー、着替え終わった」


 トイレがノックされ、澪奈の声が聞こえたのでトイレから出る。

 澪奈は動きやすそうなジャージに身を包んでいる。彼女の洗濯物と俺の洗濯物はドラム式洗濯機に入れて、まとめて洗濯する。

 乾燥機付きなので、迷宮の下見を終える頃には終わっていることだろう。


 準備を終えた俺たちは、改めて迷宮へと入る。


 中に入ると、明るい空が見えた。

 気温は……寒くもなく暑くもない。

 体を動かすことを考えれば、半そで半ズボンくらいでいいかもしれないな。


 ひとまずはこの迷宮の調査からだな。


―――――――――

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