第138話
カトレアについて知ってから、俺が真っ先に行ったのは澪奈の強化だ。
そのために、ひたすら迷宮へと潜り、装備品を整えていった。
澪奈の装備を二つ、今の俺が購入できる中でもっとも高額な一千万円のものにしたのも、それが理由だ。
そのおかげで、今の澪奈のステータスは非常に高い。
ゴブリン相手に苦戦する可能性が高いことは分かっていたが、それでも
「カトレアは後衛を頼む。俺と澪奈で前衛はやるから」
「分かりました」
当初の予定通りに、話を進める。
カトレアも強いのは確かだが、速度のステータスにやや不安を感じる。
そのため、現状は彼女に後衛を任せるつもりだ。
俺が分身を五体ほど用意し、カトレアの周囲に配置する。
カメラマン含めて六体の分身がいる。これなら、万が一があっても大丈夫だろう。
俺と澪奈が前に出ると、ゴブリンがこちらへと突っ込んでくる。
……俺の通常時のステータスではゴブリンの速度にはとても敵わないが、あくまでそれは通常時だ。
まずは分身の【鼓舞】を受け、全ステータスを10%強化する。さらに、そこから【雷迅】で強化だ。
ただし、どちらのステータスもあくまで素のステータスで計算される。
俺の速度は480なので、【雷迅】で144、【鼓舞】で48強化される。
合わせれば、澪奈のステータスともそう変わらない。
発動と同時に、ゴブリンへと突っ込み、拳で殴り飛ばす。……この戦いでの問題は敵が多いこと。だから、相手を突き飛ばすようにして時間を稼ぐ。
俺が一瞬で距離を詰めたことで、ゴブリンが驚いているようだ。……別に瞬間移動したわけではない。
動きを最小化し、相手の呼吸の隙を盗んで踏み込んだだけだ。
その驚きの間にもう一体を蹴り飛ばす。そこでゴブリンたちが雄たけびをあげ、棍棒を叩きつけてくる。
だが、その体を澪奈の銃弾が射抜いていく。今度は澪奈に気を取られたゴブリンを一体殴り飛ばす。
俺はゴブリンの棍棒をかわし、その背後へと回り、思い切り首を捻りあげた。
不自然な角度で傾き、そのゴブリンの体は消滅し、素材だけが残った。
……野生の魔物でも迷宮の魔物と同じように消えるのか。
俺が視線を澪奈へと向けると、ちょうどゴブリンの首に剣を突き刺したところだった。
「ウインドトルネード!」
後方で、カトレアの声が響いた。彼女の声に合わせると同時、倒れて起き上がろうとしていたゴブリンの足元から風が吹き荒れた。
……彼女の精霊術だ。カトレアの攻撃から逃れたゴブリンもいたが、二体が巻き込まれて全身を切り刻まれる。
絶命はしていない。巻き込まれた二体はよろよろと体を起こしていたが、澪奈が動き出す。そちらは彼女に任せ、俺はカトレアへと迫るゴブリンを止めに向かう。
駆け出すとこちらに気づいたゴブリンが煩わしそうに棍棒を振りぬいてくる。
速い……が、見切れるほどだ。
振りぬかれた一撃をかわしながら、蹴りを放つ。
しかし、それをゴブリンはかわした。……こいつも、中々いい動きをするな。
ただ、ほぼ勘のようなものだったようだ。俺の蹴りを見たゴブリンの表情が強張っている。
踏み込んで一撃を放つ。速度から得た運動エネルギーのすべてをその右拳へと移動させ、ゴブリンの腹を殴りつける。
「ガッ!?」
胃液のすべてを吐き出すようにむせたゴブリンは、しかし血を出さない。 今の一撃は内臓を破壊するための拳だったが、血は出さないのか。
ゴブリンの体がよろよろとよろめき、やがて倒れた。
……迷宮の魔物と扱いは同じか。
澪奈が残党を仕留めたところで、軽く息を吐く。
……相手はほぼ互角だったが、うまくいったな。
安堵の息を吐きながら配信の様子を確認していく。
勢いが凄すぎて、目視ではもはや確認が不可能なレベルだ。
戦闘を開始した辺りからコメントを振り返り、確認していく。
〈ただのゴブリンじゃん〉
〈なんだ異世界っていってもゴブリンか?〉
〈……いや、おまえらカメラ越しでも分かるだろ!? この禍々しいオーラやばすぎだろ!〉
〈いや、分からんって……っては!?〉
〈マネージャー……今瞬間移動したように早くなかったか?〉
〈いや、もうマネージャーの速度目で追えないくらい速いぞ……〉
〈おい! マネージャーの一発耐えられてる……〉
〈加減したんじゃないか?〉
〈いや、ゴブリンの動きも速すぎだろ!? 棍棒の振りがやばい!〉
〈あんなの当たったら一発で死ぬわ!〉
〈って、澪奈ちゃんはやっ!?〉
〈澪奈ちゃんまでどんな速度で攻撃するんだ……?〉
〈おお……ゴブリンたちがやられた……カトレアちゃんの魔法威力やばくねぇか?〉
〈威力はもちろんだけど、範囲もやばいな……あんな高火力広範囲の魔法であんな速く打てるなんて……〉
〈ていうか、ゴブリン普通に耐えてる……? 一体回避間に合ってるし……なんだよこれ……〉
〈ゴブリンが一体こっち来てんじゃん! カトレアちゃんのピンチだぞ!?〉
〈ナイスマネージャー! ……というか、二人の攻防速すぎて見えん……〉
〈……化け物すぎる〉
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