第137話



〈草〉

〈よかったマネージャーの部屋じゃないんだな……〉

〈さすがにマネージャーの部屋はやめろよ? マネージャーは俺たちのものだからな〉


 コメント欄の冗談か本気か分からないコメントに、カトレアが微笑とともに口を開く。


「最初はマネージャーの部屋でもいいかと思ったんですけど、マネージャーが子どもができたら問題だから、って……」

「言ってませんからっ」

〈おいマネージャー殺す〉

〈おいカトレア。マネージャーに何かしたら殺すぞ!〉

〈おまえら草〉


 ……もう訳が分からない。

 コメント欄では俺へのアンチとカトレアへのアンチが半々くらいとなってぶつかりあっていた。

 ……まあ、きっと皆冗談なんだろう。


 そう思うことにした。現実逃避だ。

 カトレアが暴走することは織り込み済みだったので、事前にTwotterで情報を流していたから、冗談も多いとは思う。


 カトレアの家へと入ると、木の匂いがふわりと届いた。

 玄関で靴を脱ぐという習慣はないため、家の中を靴のまま歩いていく。

 ……様々な部屋があった。恐らくはカトレアの両親の研究室と思われる場所だ。

 生放送中であるにも関わらず、少し興味を惹かれた俺は近くにあった本を手に取って読んでみる。


 ……魔道具の研究資料だ。自動変換機のおかげで問題なく読めるが、内容に関しては高度すぎて俺に理解するのは難しい。

 はっきりしていることは、【精霊術】がなければ魔道具の製作はできないということか。


「マネージャー様。次の部屋に行きましょうか?」

「そうですね」


 声をかけられ、俺は本棚に本を戻しながら、カトレアたちの後をついていく。

 部屋はどちらかというと生活感に溢れていて、珍しいものはない。ただまあ、異世界の家を案内するだけでも視聴者からすれば凄まじいコンテンツとなっていたようで、視聴者はなおも増え続けていた。


 そのときだった。

 俺の分身から緊急を伝える連絡が届いた。

 それはカトレアも同じだったようで、ばっと彼女がこちらに体を向けてくる。


「マネージャー様。どうやら魔物と交戦中のようです」

「そうみたいですね。分身たちに、魔物を誘導するように指示を出したところですが……分身たちもかなり傷を負っているのでどうなるか。精霊は大丈夫ですか?」

「精霊はいざとなれば私の下に戻ってこれるので大丈夫です。分身たちは大丈夫でしょうか?」

「分身は魔力で作っているので、そちらも安心してください。……ただまあ、凄い勢いで削られていますが」


〈え!? マジで!?〉

〈分身たちがやられるってやばくないか!?〉

〈分身って、Sランク冒険者に匹敵するくらい強いんだよな? マジで異世界ヤバすぎだろ……〉

〈のんびりした空気だけど……そういえば異世界の魔物ってやばいんだよな?〉

〈マネージャーの分身って……この前の新宿掃討戦で無双してたよな?〉

〈やばすぎだろ……〉


 コメント欄には怯えるようなものが増えていく。

 ……俺も同意見ではあるが。

 俺がすぐに外へと向かうと、ちょうどこちらへ向かって分身たちが走ってきていた。

 その後を追うようにやってきていたのは、ゴブリンだ。

 その見た目は通常のゴブリンよりも勇ましい。放たれている魔力のようなものが、濃いのだ。


 ゴブリン レベ81 筋力:529 体力:348 速度:538 魔法力:131 器用:321 精神:313 運:318

 ステータスポイント:0

 スキル:なし

 装備:なし


 ……いや、ヤバすぎだろ。

 ただのゴブリンでさえ、これか。




―――――――――――

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