第112話
迷宮内を一気に移動していく。
外にいる澪奈への負担も考え、なるべく発見した魔物を倒しながら進んでいった俺は、新宿エリアの先の開けた空間に到着したのだが――。
「……どうなってるんだ?」
思わず、声に出してしまう。
開けた空間の中央には、女性が横になっていたからだ。
……遠くで見たときは子どもかと思ったのだが、近くまで来てみると意外と体つきがよいのが分かる。
どこか特徴的な服装の女性は……耳の先が尖っている。
コスプレでないのなら、この子は……エルフのようにも見える。
顔たちもどこか日本人離れしている。美しい金色の長い髪を揺らしている彼女は、意識がないのか眠っているのか分からないが目を閉じている。
……外国人、と言われればそうなのかもしれないが、そもそもどうしてここにいるんだ?
この迷宮に入るには、俺の部屋にある入口から入ってくるしかない。
……俺が部屋にいないときに侵入されたのか?
……あるいは、別の入口があるのか?
いや、考えてもまったく分からない。
「……」
俯いたままの彼女に、俺は駆け寄りその脈拍を調べるために首元に手を当てる。
……脈はある。
仰向けになるように体を動かし、その胸元を確認する。
胸も上下している。ということは呼吸も問題ない。
鼻と口元を隠すように手を当てると、鼻呼吸をしっかりとしている。
「君、大丈夫か?」
声をかけてみるが、反応はない。意識だけはないようだが、生きているのは確かだ。
とりあえず、このまま彼女をここに放置するわけにもいかない。
俺が彼女を抱きかかえようとしたときだった。
【――迷宮内の探索率が100%になりました。これより、ミッションが開始されます】
……最悪のタイミングで、その声は響いた。
【ミッションが追加されます。ボスモンスター、キングリザードマンの討伐を行ってください】
その声が聞こえた瞬間、俺は空を見上げた。
以前と同じならば、そこから魔物が出現するはずだ。
その読みは、正解だった。
黒い渦が出現したのに合わせ、空からキングリザードマンと思われる魔物が現れた。
キングリザードマン レベル70 筋力:519 体力:518 速度:518 魔法力:310 器用:320 精神:419 運:370
ステータスポイント:0
スキル:【剣術】【二刀流】【軍勢】
装備:【リザードソード】【リザードソード】【リザードアーマー】【リザードアーム】
……迷宮の暴走状態だからなのか。
あるいは、元からこれだけの力を持っているのか。
現れたキングリザードマンは、俺の想像を絶するほどのステータスだ。
こちらに気付いたキングリザードマンはすっと両手に持った剣を構える。
最初から、全力だ。
【雷迅】を発動と同時に、俺は即座に地面を蹴りつけて跳躍する。
先ほどまで俺がいた場所をキングリザードマンが斬っていた。
……一瞬でも、反応が遅れていれば、俺は真っ二つになっていただろう。
後方へと飛びながら、俺は【石投げ】で生み出した魔力を口から思い切り吐き出した。
俺のステータスにもなれば、それも立派な攻撃となる。キングリザードマンが剣で弾きおとした一瞬に、俺は【雷迅】による速度を活かして逃げようとした。
しかし、俺の先をキングリザードマンがふさいでいた。
……いや、違う。
「影、か?」
キングリザードマンの分身のような存在が俺の前をふさいでいた。
そのステータスは……おおよそキングリザードマンの半分。
斬りかかってきたそいつの攻撃をかわすと、さらにもう一体出現する。
……こいつら、まさか。
キングリザードマンが所持していた【軍勢】のスキル。
あれによって生み出された、キングリザードマンの分身ではないだろうか?
さしずめ、自分のステータスの半分の分身体を生み出すというスキルだろうか?
一体を蹴りつけるとその体がすっと煙のように消えていく。
ただ、その間に背後からキングリザードマンが迫ってくる。
……ステータスは勝っている。だが、俺は女性を抱えたままで、本来よりも動きが鈍っていた。
その時だった。
俺たちの間をふさぐように氷の壁が出現する。視線を向けると、澪奈がそちらにいた。
……恐らく、ミッションが開始したと判断し、中へと入ってきてくれたのだろう。
彼女はカメラを設置していながら、ハンドガンで分身たちを仕留めていく。
……それは、いい。だが――キングリザードマンの注目が澪奈へ集中する。
まずい。
キングリザードマンのステータスは、澪奈よりも高い。
俺の脳内は、即座にある判断を下す。
「澪奈さん! こちらの女性をお願いします!」
抱えていた女性を放り投げる。
―――――――――――
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