第70話
日曜日。
久しぶりのスーツに袖を通した俺の隣には、澪奈がいた。
今日は、雑誌の撮影だ。
優秀な【鍛冶術】を持つクリエイターによって製作された商品を身に着け、撮影を行っていくそうだ。
冒険者の装備品などについて紹介する雑誌であり、おしゃれ×戦闘力を重視したものについての紹介を行っている。
住所にあったスタジオへと到着した俺たちが、入口から中へと入っていく。
時間的にはちょうどいいだろう。あまり早く来てもスタッフたちも準備を行っているので、むしろ邪魔になる。
中へと入ると、ちょうど人がこちらにやってきて目があった。
「あっ、お疲れ様です。ディレクターの手計です。本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、声をかけていただきありがとうございます」
「澪奈です。本日はよろしくお願いいたします」
俺たちもぺこりと頭を下げ、それから澪奈は奥へと案内される。
ヘアメイクや衣装合わせなどを行う必要があるからだ。
俺も本日の撮影にかかわる人たちに挨拶を行っていると、ディレクターに手招きされる。
「どうされましたか?」
「いやぁ、お二人のMeiQubeチャンネルはいつも見ていてね。今日はお二人に会えるのを楽しみにしていたんですよ」
「それは……わざわざありがとうございます」
「それにしても、自宅内に迷宮があるってすごいですね。あっ、でもあまり喜ぶべきではないですかね?」
「いやぁ……まあ、最初は自分も愕然としてましたけど、今はむしろラッキーくらいの感じですかね」
そんな雑談をしていき、他のスタッフの人とも話をしていく。
……なんか、俺と澪奈のMeiQubeチャンネルとして有名になっているようで、俺のこともたびたび話題にあがる。
完全に、俺と澪奈がチャンネルのメインキャストみたいな扱いだ。
悪い気はしないが、過剰に褒められるのは気恥ずかしいものがある。
そうこうしていると、ヘアメイクを終えた澪奈がやってくる。普段とそれほど髪型が変わるわけではないのだが、いつもよりも綺麗に見える。
化粧などももともとあまりメイクをしない澪奈だったが、今はリップなどをしっかり塗っているようで全体的に艶がある。
服装は体全体を隠すようなコートのようなものだ。剣とハンドガンをつけている状態であり、俺はその装備品のステータスを確認する。
ハードコート ランク5
効果:【筋力+6】【速度+6】
スキル:【斬撃耐性アップ】
アーファーソード ランク5
効果:【筋力+6】【速度+3】
バレットガン ランク5
効果:【速度+6】【器用+3】
……わりといい性能の装備品だ。
値段にもよるが、ショップで販売されているランクよりも性能が高い。
今日の装備品はどれも同じ鍛冶師が製作しているようで、値段次第では澪奈の装備品を作ってほしいと思った。
ただまあ、腕の立つ鍛冶師となると……予約も一杯だからなぁ。
撮影が開始され、澪奈が様々なポーズをとって撮影を行っていく。
どのポーズが一番いいか……。事前にいくつか候補はあったが、実際の演者によってポーズは変わることもある。
カメラマンとディレクターたちが撮影した画像を確認しながら進んでいく。
ここまでくれば残りのスタッフたちは見守るくらいが役目である。
澪奈も撮影に関しては未経験ってわけではないので、指示に合わせてすぐに動けている。
そうして、二時間ほどが経過し、撮影は終了した。
「いやぁ、今日はありがとうございました! いい撮影が行えましたよ!」
「こちらこそうちの澪奈を使っていただいてありがとうございます」
「今度は澪奈さんとマネージャーさんのお二人での撮影も行いたいと思いますから、そのときはまた声をかけますね」
「はは……ありがとうございます」
え? 俺まで? と喉に出かかった言葉はぐっと抑えた。
澪奈の仕事が増えるのはいいことだからな……そこに俺が混ざってしまうのは少し気になるところだが。
この後また別のモデルさんが来るそうなので、俺たちも早めに退散だ。
「マネージャー、どこかでお昼でも食べて帰る?」
「そうだなぁ。行きたいところあるか?」
「この近くに評判のいいお店があるみたい。そこ行こう」
澪奈の表情がぱっと明るくなり、俺は澪奈とともに歩いていく。
……撮影のときは大人っぽい表情を浮かべていたのだが、今は年相応の顔になっている。
澪奈とともに向かったお店は、まだ昼時より少し早かったこともあり、待ち時間も少なく中へと入れそうだ。
続々と案内されていき、俺たちの番になったところで店員が俺の顔を見て、目を見開いた。
「あっ、もしかしてマネージャーさんですか!?」
その声に周囲の客も反応する。
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