第11話


 迷宮内での撮影に関して明るさなどは少しきになるが、特段大きな問題はなさそうだ。

 お試しでの撮影を無事終えたところで、俺たちは部屋へと移動する。

 チャンネルに投稿する初めの動画として、事務所脱退、ソロでの活動、今後の活動についてを語るための動画を撮影するためだ。

 部屋に戻ったところでスマホのカメラを澪奈へと向ける。

 

「準備はできたから、いつでも初めていいぞ」

「分かった」


 澪奈は一つ深呼吸をしてから、表情を引き締める。

 彼女の集中を感じ取った俺は、その様子をじっと眺める。

 そして、彼女の唇がゆっくりと震えた。


「皆様、初めまして。私は元『ライダーズ』の澪奈です」


 丁寧に頭を下げた澪奈が、それから事務所を脱退したことなどを話していく。

 ……背景が俺の部屋であり、少しみすぼらしく感じるがそこはどうしようもない。


 俺たちが事務所を辞めることになったきっかけなどの際どい部分に関してはうまく濁しながら、今後の活動についてを語っていく。


 花梨と麻美とは意識の違いからあまり仲良くなかった澪奈だったが、今回の撮影では二人を気遣うようなことを話していた。

 思うところはあれど、事務所を批判したところで意味はないしな。

 俺もそこは同じ気持ちだ。


 澪奈は最後に、「お互い頑張っていこう」というような意味合いの言葉を残し、それから澪奈の今後についての話へと変わっていく。

 ここからが、一番重要だ。俺は少し場所を移し、澪奈とともに玄関へと来ていた。


「――私もこれから冒険者として活動をしていきますが、時間のあるときに迷宮攻略をやっていこうと思ってます。マネージャーに聞いてみたところ、なんとマネージャーの部屋に迷宮が発生したらしいので、今はマネージャーの部屋に来ている、というわけ」


 てくてくと澪奈が玄関から上がっていく様子を俺が背後から映している。

 撮影用に、散らかっていたものは片づけてあるので、部屋はインベントリのおかげもあって綺麗だ。

 それでも不特定多数の人に見られる可能性があるため、恥ずかしいものはある。

 澪奈を追うようにスマホを動かしていると、ばっと澪奈が片手を向ける。

 その方角へスマホを向けると、そちらには黒い渦があった。


「それがこちらの迷宮です」


 それから澪奈が一呼吸を置いた。

 まるで、ここでカットでも挟んでくれとばかりの沈黙の後、


「私とマネージャーの愛の巣に現れたこの迷宮……速やかに攻略しないといけません」

「カットだからな」


 やる気に満ち溢れていた澪奈にぼそりと返し、そのあとまた編集点を作ってから澪奈が口を開く。


「迷宮調査課に依頼して確認してみたところ、迷宮はGランク相当だったみたい。市への攻略依頼は詰まってるみたいでしばらくはダメみたいなので、私が攻略してあげることにしました。それじゃあ、さっそく……迷宮へゴー!」


 澪奈がそういってぴょんと跳んだ。

 ……うん、この後に迷宮の一階層に移動ね。


「マネージャー、どう?」

「とりあえず、ここまでは大丈夫だ。ゴブリンとの戦闘シーンに行こうか」

「うん。あと、撮影してて思ったけど、物件の内見みたいな感じで迷宮解説するのってどう?」

「ほのぼのな雰囲気と戦闘のギャップとかでありかもな。ちょっと色々撮影してみようか」


 澪奈は台本を作らずともある程度まとまった話ができるから、撮影が楽なんだよな。

 たまにふざけたジョークを飛ばすが、カット場面で入れるだけだからな。澪奈の息抜きだと思えば、そのくらいは別にいい。


 花梨と麻実は台本をきちんと用意して、カンペを見せながらだったのでとても大変だったからな。

 ……いやいや。あまり比較するのは良くない。

 この動画は、明日にでもあげればいいだろう。


 色々と意見をかわしながら、澪奈とともに迷宮の撮影を行っていく。

 ここからは、どこが動画として使えるかわからないので、カメラは回しっぱなしだ。


「ここが迷宮の一階層です。ちょっと暗いけど、カメラ大丈夫ですか? マネージャーが丸を作っているので大丈夫みたい。というわけで、本日のオフ会一人目、ゴブリン」


 現れたゴブリンに澪奈が手を向ける。

 俺は二人が映るように下がると、澪奈がさっと魔銃と剣を構えた。

 そして、ゴブリンの突撃に合わせて澪奈も駆け出す。

 振りぬかれたゴブリンの棍棒をかわし、澪奈は剣を振るう。


 ゴブリンの足を浅く斬りつけ、ゴブリンの動きが鈍る。

 距離をとった澪奈が魔銃を連射する。

 ……慣れた射撃で、寸分の狂いもなくゴブリンに命中する。


 ……これが、スキルの力なのか。

 剣と銃を合わせた戦闘は、澪奈にとってかなり様になっている。

 ゴブリンはなすすべもなく崩れ落ち、澪奈がカメラへと近づいてくる。


「ということで、ゴブリンさん、ありがとうございます。私、最近違う武器を使ってみたんですけど、どうにもこのほうが調子がいいみたいだから、これからはこのスタイルで戦闘していく予定です」


 剣と銃の戦闘は、問題なさそうだな。

 澪奈を後ろから撮影しながら、迷宮を進んでいく。

 途中、撮影係の俺を狙ってきたゴブリンがいたが、蹴り飛ばして仕留める。


「マネージャー、凄い強い」

「俺が強いっていうよりか、装備品で補っている感じだな」

「そういえば……ショップでの購入ってお金とか必要ないの?」

「必要だぞ。1円=1ゴールドだ」

「……この魔銃はいくらだった?」

「五万円だったな……まあ、気にするなって」

「いや。気にする。マネージャー、お金あるの?」


 デリケートな部分を聞いてくるな……。


「ま、まだ一応貯金は残ってるからな」

「……そっか。でも、マネージャーこれからの給料どうする?」

「……それなんだよなぁ。アルバイトでもするかなぁ」


 迷宮で稼ぐ、というのも手段の一つではあるかもしれない。

 ショップには飲食物もあるので、いくらでも生活はできると思う。

 ただ、そもそもGランク迷宮だと稼げる金額も微々たるものになりそうだからな……。

 朝から晩まで潜り、ようやくアルバイト3時間くらいの時給くらいになる可能性もある。


「一応、私の収益に関しては自由に使って大丈夫だから」


 MeiQuberが活動する動画サイトはMeiQubeという名前だ。

 ここでは、チャンネル登録してわりとすぐに広告などの申請が通るので、恐らくすぐに収入自体は発生するだろう。


「いやいや、何言ってんだ? 一応独立したんだから、これからの収入は全部澪奈のものだぞ?」


 ……まあ、ある程度稼げるようになった俺も澪奈に正式に雇ってもらうとかはありかもしれないが、別に今すぐたかるような真似をしなくてもな。


「夫婦の財産は共有だから、気にしないで」

「夫婦はそうだな。俺たちの関係は?」

「夫婦」

「マネージャーとMeiQuberだ」

「似たようなものじゃない?」

「全然違うぞ。……とりあえず、まだお金に余裕がある間は俺も冒険者として稼ぐつもりだ。強くなっておけば、澪奈の身に何かあったときに守ることもできるしな」

「……ま、マネージャー」


 なぜか澪奈は照れた様子で頬を赤らめている。

 俺が首を傾げていると、澪奈はこほんと咳ばらいをしてから口を開く。


「うん、わかった。でもお金で困ったら言って。私、ほとんど貯金してるからお金は結構ある。とりあえず、装備品に関しては自分のお金で買うから」

「……了解」


 本当は俺が準備してやれればいいが、さすがに俺もかっこよく宣言できるほどの余裕はない。

 すでに自分の装備を購入して結構使っちゃってるしな。


 先ほどの会話はもちろん動画では使うことはない部分だ。

 それから澪奈とともに迷宮の五階層まで到着した。ここまで戦闘では全く問題がなかった。

 ……装備を整えただけでここまで変わるとはな。


「そろそろ一度戻って編集する?」


 ……確かにもうかなり撮れたし、一本の動画を制作するくらいはできるだろう。


―――――――――

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