第10話

 見てみると、短剣には装備補正が何もない。これだと……さすがに意味がないのではないだろうか?

 それとも、【短剣術】などがあれば違うのだろうか?


「できた?」

「ああ……とりあえずは。これからは新しい武器を手に入れた装備、と念じることを忘れないようにな」

「分かった。そういえば、私のステータスポイントが余ってるって言っていたけど、それも割り振る?」

「それはそうなだけど……澪奈はどんな風に自分を強化していきたい?」

「どんな風に?」

「ああ。今の澪奈は【氷魔法】を強化するか、【剣術】、【銃術】を強化するかの二択が選べるんだ。どっちがいいかと思ってな」

「……どっちがいいか」


 今後、澪奈がどのように成長したいのかで、話は大きく変わってくる。

 【氷魔法】を重視するか、【剣術】、【銃術】を重視していくのか。

 【剣術】と【氷魔法】は明らかに役割が違う。【剣術】を主軸にしたいのなら、筋力や速度、【氷魔法】を主軸にしたいのなら、魔法力に割り振る必要がある。

 俺の問いかけに、澪奈は顎に手をやり、しばらく考えてから、


「私は【剣術】と【銃術】をメインに戦っていきたい。これからソロでの行動のも増えてくると思うし、魔法主体はちょっと不安」


 確かに、澪奈の言う通りではあるな。

 ……動画外では俺もフォローするとはいえ、動画内で戦闘を行うのはあくまで澪奈一人だ。


「わかった。【剣術】は筋力と速度を上げればいいと思うけど……【銃術】はどうなんだろうな?」

「さっきの、メモしてくれたステータス見せてもらってもいい?」


 澪奈が体が触れるほどまで近づいてきて、俺のスマホを覗き込んでくる。

 近い。

 澪奈は、距離感がバグっているときがあるんだよな。

 装備後のステータス変化をメモ帳に反映させていると、澪奈が口を開いた。


「ゲームとかだと、銃は器用とか関係してきそうだけど……でも、確か一般的な対魔物用の銃って、魔力を込める魔銃じゃなかったっけ?」

「そうだな……。ちょっとショップで調べてみる」

「ショップ?」

「【商人】の能力の一つで、装備やアイテムの購入ができるんだ」

「え、それとっても便利。指輪とかもあるの?」

「ああ、あるな」

「装備枠まだ余ってるし、マネージャーからの婚約指輪とか欲しい」

「普通の指輪だぞ?」


 ひとまず俺は、メニュー画面のショップを開き、武器一覧から銃を検索する。

 高価なものからざっと見ていくと、銃は速度、器用の二つのステータス上昇をしてくれるようだ。


「澪奈。たぶんだけど銃は速度、器用に関係している武器みたいだ」


 一番安い5万ゴールドのハンドガンを購入し、澪奈に手渡す。

 ハンドガンを手に持った澪奈はまるで銃火器を普段から使っているかのように様になっている。

 これも、スキルのおかげなのかもしれない。


「そうなんだ……魔法力は関係ない感じ?」

「どうなんだろうな……。攻略本でもあればはっきりするんだけどなぁ」

「ほんとにそう……」


 二人で揃ってため息を吐く。


「それから、ステータスの一部は装備品で補うっていうやり方もありかもなぁ。基本は筋力速度優先で、相手によって切り替えるとか」

「なるほど……」


 澪奈は考えるように俺のスマホを覗き込んでいる。

 ステータスポイントが余っているとはいえ、無駄遣いはできない。

 考え込んでいた澪奈は、それから小さく息を吐いた。


「もう少し、悩んでいてもいい? まだこの階層のゴブリンなら苦戦しなそうだし」

「そうだな」


 ということで、まだゴブリンに苦戦していないため、しばらく保留ということになった。

 しばらくゴブリンと戦闘を行い、澪奈が問題なく動けることを確認してから俺はスマホを取り出した。


「とりあえず、迷宮攻略の動画でも撮ってみるか? テスト撮影みたいな感じで」

「うん。これから攻略する予定の迷宮として動画を上げるのもいいかも」

「そうだな……澪奈。見栄え的に剣と銃を使ってるのかっこいいから、同時に使うのはどうだ?」

「見栄えいい?」

「ああ。やっぱり男としては剣と銃の戦闘はいい。太ももに拳銃を装備して、戦闘のときにさっと抜いてパンチラになりかけるのが……いや、それはなんでもない。忘れてくれ」

「なるほど。こんな感じ?」


 さっと澪奈はとりあえず短剣を抜いた。その際スカートがめくれ上がったが、パンチラ寸前で止まる。

 それでも、澪奈の美しい太ももが見えた。


「おお……うまいな」

「練習した。短剣のときに使えそうだったし」

「MeiQuberとしてか?」

「そう。あと、以前マネージャーと歩いているときに風が吹いて、スカートを抑えたとき、マネージャーがこっち気にしてたから」

「それはあくまで澪奈を心配してだからな? 他意はないからな?」

「ちらり」


 澪奈がスカートの裾を持ち上げ、俺は思わずそちらを見てしまう。

 慌てて視線を澪奈の顔に向けると、にやりとからかうように口元を緩めている。


「男なら見られるものは見たくなるんだよ」

「ほかにもあるの? あと何に吸い寄せられるの?」

「……それ言わないとダメか?」

「うん。男性マネージャーの利点は、男性ファンの需要を伝えてくれる点だと思うから。はい、どうぞ」


 手をマイクに見立てて近づけてきて、俺は小さく息を吐く。


「……例えば胸元とか?」

「大きいからとか?」

「大きくなくても、服の間からちらって見えそうになったらつい視線が集まるな」

「なるほど。ほかには?」

「……いや、もういいだろ。逆に聞きたいけど、澪奈とか……女性はないのか?」

「人によるかも。私の場合、二の腕とか好きだからよくマネージャーの見てる」

「……え、マジで?」

「マジ。あと夏場とかマネージャーがシャツをパタパタして涼しくなってるけど、そのときにちらちら見える腹筋に興奮したりしてた」

「おまえって興奮してたって口癖だよな」


 実際、本当に興奮しているのではなく、過剰な表現のほうが人の意識をひきつけやすいからわざと言っている部分もあるのだろう。


「うん、素直だから」

「はいはい。とりあえず、練習がてら動画の撮影でもしてみるか?」

「やってみよう」


 澪奈がすっと何度か深呼吸をする、俺がスマホを構えて準備をしたときには、澪奈はすっかり撮影モードに入っていた。


「そういえばチャンネル名って、どうしよう」

「澪奈の迷宮攻略チャンネルとかでいいんじゃないか?」

「でも、それだとマネージャーの要素が何もない」

「俺の要素は必要ないだろ」

「ダメ。カップルチャンネルなんだし……」

「勝手にカップルにするな」

「でも、マネージャーも戦えるなら多少は意識したほうがいいかと思って。一緒にトップMeiQuberを目指すんだし」

「いや、俺は大丈夫だ」


 そもそも、澪奈は女性なので男の影がちらつくと、それだけで評価が下がる可能性もあるからな。

 もちろん、カップルチャンネルというのも需要はあるみたいだが、澪奈の場合はソロのほうが絶対いいに決まっている。

 俺はいないものとして扱ったほうが伸びるはずだ。

 カメラで撮影を開始すると、澪奈が咳払いのあと口を開いた。


「皆さんに、大事なお知らせがあります。これから私澪奈とマネージャーのカップルチャンネルで活動していきますので――」

「澪奈?」

「ラブラブチャンネルの間違い。ごめんなさい」

「カットだぞ?」


 そんなやり取りをしつつ、戦闘の風景などを撮影してみていった。


―――――――――――

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