第12話


「そうだな」

「なんか、あんまり取れ高なかった気がする」

「まあ、今回はあくまで生存報告……じゃないけど、澪奈の元気な姿を見せるって意味でいいんじゃないか?」

「うん。でも、迷宮攻略者たち人たちに生放送が多い理由が分かったかも。動画だと、見どころ作るの大変」

「そうだな……」


 それこそ、やらせでもしない限りそうハプニングは起きない。

 ……ていうか、命のやり取りをする以上、ハプニングが起きたら大問題だしな。

 迷宮の配信自体は、良くてDランク迷宮くらいまでしかないのも、迷宮内が危険な場所だからだし。

 ……逆にいけば、それ以上の難易度の迷宮になれば、それだけで配信する需要も生まれるんだけどな。


「そういうわけで、次からは生放送をしていこう」

「それは同意だけど、澪奈。変な発言だけはするなよ」

「変な発言?」


 そこだけが気がかりなのだが、何をこの子はとぼけているんだ。


「俺との関係を示唆するようなことを言うだろ? いつもは冗談だからいいけど、生放送だとさすがに炎上だからな?」

「示唆は、ダメ。つまり、明言なら?」

「よりまずいだろうが。MeiQuberはネットアイドルなんだから異性の影を見せないほうがいいんだよ。ちょっとでも見えるとすぐ燃えるんだからな?」

「そこが難しいところ。私ももっと自由にやりたいんだけど……」

「なら、冒険者としての実力のほうで目立っていくしかないよな」

「でも、それでも炎上していた人いた気がする」


 澪奈が思い出すような口調でそういった。

 ……確かにな。

 実力のある女性冒険者が熱愛発覚とかで男性ファンが発狂したというのは聞いたことがある。


 ……まあ、その人の場合かっこいい女性ということで女性ファンもわりと発狂していたけど。

 目立つような立場の人って、少しでも異性の影がちらつくとファン離れを起こす傾向が強い。


「澪奈は可愛いからたぶん何やっても周りの人が炎上するんだ。生放送には同意だけど、その間はおふざけ禁止だからな」


 俺の忠告に澪奈は素直に聞いて……いらっしゃらない?

 なんか、感動したような顔でスマホを取り出し、それからこちらに詰め寄ってくる。


「可愛い……も、もう一回言ってマネージャー」

「ん? 澪奈は可愛い、って分かりきったことじゃないか?」

「もう一回」

「澪奈は可愛い。これでいいか?」

「うん、録音できた」

「おい、何してんだ」


 それからの澪奈は上機嫌で現れたゴブリンを狩っていく。

 ……笑顔で殺戮しているシーンというのはちょっと澪奈の新しい部分として見せるのとしてありかもしれない。

 それに……今の澪奈はいつもよりも明るい気がする。

 ……もしかしたら、澪奈はソロのほうが合っているのかもしれないな。





 澪奈とともに自室へと戻った俺は、さっそくスマホの動画をパソコンへと移動させる。

 念のためにバックアップ用に一つ保存してから編集作業を行う。


「マネージャーの上座っていい?」

「猫じゃないんだから……椅子必要ならもう一つ買おうか?」


 部屋は狭いが使い終わったら、インベントリに入れてしまえば問題ない。

 澪奈も一緒に見たいというのなら、あったほうがいいだろう。


「椅子……欲しいかも」

「とりあえず、あとで同じやつをネットで注文しておくから今日はここ座るか?」


 俺は膝たちでちょうどいい高さなので、作業する分には問題ない。

 立ち上がろうとした俺の肩をぐいっと押し込み、澪奈が俺の隣で膝たちになった。


「作業の邪魔したくないから、マネージャーが座ってて。私見てるから」

「了解。気になったところは言ってくれ」


 お互いにスピーカーで動画を確認しながら、編集を行っていく。

 といっても、ほとんどカットをする程度だ。

 

「BGM入れたほうがいいか?」


 少し静かすぎる気もする。

 俺たちの歩く音くらいしか環境音がないんだよな。

 『ライダーズ』で迷宮に入っていたときなどは、会話もあったから気にしていなかったんだけどな。


「……でも、この現地にいる、って感じの雰囲気いいかも」

「あー、なるほど」


 ソロキャンプの動画などを見たことあるが、確かにあの雰囲気を一緒に体験しているような自然な雰囲気というのも悪くはないんだよな。

 ……これは、他の迷宮攻略動画にはない澪奈の魅力かもしれない。


 まるで、自宅にでもいるかのような落ち着いた雰囲気。その雰囲気のまま、現れたゴブリンを仕留めていく。

 ひりひりとした戦闘を楽しみたい人のニーズには合っていないが、澪奈の魅力を引き出す迷宮攻略としては、合っている。


 色々と編集した結果。最初に澪奈が笑顔でゴブリンを倒しまくっているシーンをオープニング代わりに入れることに決まった。

 澪奈はそれを少し恥ずかしそうにしていたが。


「私、こんな笑顔で戦ってた……?」

「ああ。俺と会話した後とかはだいたいこんな感じだったぞ?」


 ……そうなんだよな。

 三人で撮影していた時と比べて、澪奈の笑顔が増えている。

 少なくとも、作り笑いはなくなったんだよな。撮影モードに入っても、澪奈の自然な笑顔が出ている気がする。


「なんか……今の澪奈めっちゃ可愛くなってないか?」

「ゅっ!?」


 思わず俺が呟くと澪奈が奇妙な悲鳴を上げた。

 ちらと見ると、見たことないほどに顔が赤くなっている。


―――――――――

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