第87話



 生放送を終えたところで、澪奈がふっと息を吐いた。


「お疲れ様」

「マネージャーも。今日は結構戦ってもらっちゃった」


 相手が相手だしそうなるのも仕方ないだろう。

 生放送を終えた俺たちは、それぞれパソコンとスマホで生放送完了後の確認を行う。

 俺はメールボックスの処理を、澪奈はTwotterなどで情報を伝えていく。

 俺がメールを見ていると、澪奈がとんとんと肩を叩いてきた。


「今日の生放送、めちゃくちゃ注目されてたみたい」

「そうなのか?」

「ほら。Twotterのトレンドにも入ってる」

「……マジかよ」


 一個人の話題が注目されることはほぼない。

 ……それだけ、あの迷宮の特殊性が注目されているんだろうな。


「皆、色々な意見を話してる。……そういえば、マネージャーは不思議な声が聞こえるって言っていたけど、何か分かることはある?」

「いや……あの声はほとんど一方的に言われるだけなんだ」

「せめて、声の主が分かればもう少し意図も分かりそうだけど……どうしようもない」

「そう、だな」 


 澪奈のスマホにあった意見を見ていると、本当に世間から注目されているのが分かる。

 パソコンでWEBニュースを見てみると、この迷宮についてはわりと取り上げられている。

 ニュースのコメント欄には、俺たちのファンとは別に冒険者関連の記事を書いている人たちからも様々なコメントが寄せられている。


 専門家たちの意見もいくつかあり、本当に様々な意見があるのだと分かる。

 WEBニュースではきちんと俺たちの動画のURLなども貼られていて、今も様々な動画の再生数が伸びているのはこういったところからの流入が多いんだろうなぁと予想できた。


 ていうか、俺たちは登録者のわりにニュースに名前が載ることが多いんだよな。

 普通にお茶の間にも流れるような時間に迷宮関連の問題が出てくるし。

 ……そう考えるとこの自宅迷宮には感謝の気持ちもあるんだよな。


 って、いつまでもこうしているわけにはいかないな。


「ほら澪奈。そろそろ帰る時間だぞ」

「え? 何の話?」

「とぼけるな。まだ外に誰かの気配があるんだし、泊まられたら困る」

「はーい」


 澪奈を家に送り届けるために外へと出る。

 やはり、俺たちを伺うような視線がいくつか感じる。

 ここ最近は、その視線も増えている気がする。

 ファンだったらいいのだが、恐らくはどこかの雑誌の記者だろうな。


「もしもここで腕を絡ませたらどうなる?」

「たぶん炎上するんじゃないか?」

「私が涙ながらにマネージャーとは結婚をしている仲なので……とか言ったらどうなる?」

「俺が燃えるだろうな」

「うーん……チャンス?」


 澪奈はまだ高校生なので困る。

 例えば、車が向かいからきて俺がかばうように抱きしめてもアウトだ。

 パパラッチからすれば、どんな理由があろうともその瞬間を押さえられればいいからな。


 澪奈の家まで送り届けている間だって、下手な場所を歩けばその時点でアウトだ。

 わりと危ない橋を渡っている気がしないでもない。


「マネージャー。明日は朝から撮影だっけ?」

「そうだな。俺が澪奈の家に迎えに行って、そこから駅に乗って移動でいいよな?」

「明日の撮影って確か二人での?」

「……そうなんだよな」


 明日は冒険者関連雑誌の撮影で、俺と澪奈の二人に依頼が来ている。

 たびたび思うのは、本当に俺が必要なのだろうか、ということである。

 以前に比べ、澪奈のファンではなく俺のファンが増えているようではあったが、それでもやはり澪奈のほうが注目を集めてるしなぁ。


「午前中で撮影をして、午後は別の場所で雑誌のインタビュー」

「そうだな」

「夜はマネージャーの家で二人きりで――」

「生放送だな」

「ハードスケジュール。でも楽しみ」

「……まあ、無理な時は言ってくれよ」

「大丈夫。冒険者生活のおかげか、最近めちゃくちゃ体力ついたから」

「……そういえば、俺もそうだな」


 以前はこんなに仕事をしていたら疲れていたものだが、今は特に感じない。

 迷宮での戦闘もそうだ。

 それだけ、ステータスが上がっているということなのかもしれない。


 澪奈を家まで送り届けたところで、俺も帰宅する。

 ここ最近パパラッチが多いのは俺と澪奈の関係を疑う声が多いからだろうな。

 『スピードフォーク』が原因でな。


 まあ、俺も澪奈もそこでミスをするような人間ではない。

 そもそも、俺たちにはアイドルとマネージャー以上の関係はないので澪奈が暴走しなければ何も起こりはしないというわけだ。


―――――――――――

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