第86話
たぶんそれって、装備できているかどうかの話なんだと思う。
装備、と強く思えばだれでも装備できるのだが、ステータス画面が見えない人からすればそれはわからないことらしい。
ただまあ、装備しなくとも【剣術】などのスキルは発動できるので、仮に装備してなくても自分にあった武器を使うほうがいい。
「そういうわけで。今のマネージャーはかなり強くなってる。というわけで、選手交代」
澪奈がそう言って、俺のほうにやってきてカメラを手にとった。
俺のほうへとカメラを向け、俺は苦笑とともに軽く会釈をしてから魔物を探し始める。
また澪奈を心配する声も増えてるんだし、ちゃんと戦えるところを見せないとだよな。
澪奈はスマホでコメント欄を確認しながらコメントとの会話を楽しんでいる。
実際、こっちのほうが澪奈が視聴者と絡む機会が増えるのも事実だ。
魔物はすぐに見つかった。
澪奈が先ほど戦ったウォーリアリザードマン。
レベルは48と高いが、ステータスはそこまで変わらない。
「それじゃあ、戦いますね」
「うん、ばっちり映しておく」
俺はさっそく、【雷迅】を発動する。そして、即座にウォーリアリザードマンとの距離を詰める。
ウォーリアリザードマンがカウンターを合わせるように剣を振り下ろしてきたが、それをかわす。
即座に肘鉄からの拳をかまし、頭を揺らす。
よろめいたウォーリアリザードマンへ足を振り上げて顎を蹴り上げる。
上体の浮いたウォーリアリザードマンが、魔法を放ってきた。
水の弾丸だ。……これまで、魔法を使われる前に仕留めてきていたので、生放送で見せるのは初めてだな。
俺の体を狙ってきた魔法を、俺は魔力を伴った拳ではじいた。
……魔法も、こうして狙って弾くことができる。【格闘術】のおかげか、どうすれば弾けるかが分かるのだ。
ウォーリアリザードマンは魔法で時間を稼いでいる間に地面に足をつける。
だが、俺はすぐに懐へと迫る。その心臓を拳を振りぬいた。
ウォーリアリザードマンの鎧を突き破り、吹き飛ばす。
壁へとたたきつけられたウォーリアリザードマンは素材だけを残して消滅した。
軽く深呼吸をしてから、澪奈のほうへと戻る。
コメント欄を少し遡るようにして確認すると、
〈速っ!?〉
〈雷纏ってるのめっちゃかっこいい!〉
〈え? は!? 魔法弾いた!?〉
〈魔法って弾けるの!?〉
〈いやいや! 澪奈ちゃんよりつよくなってないか!?〉
〈だからなんでこんな短期間でここまで強くなるんだ!?〉
〈あっさり倒しやがった……〉
〈どっちもソロでAランクの魔物倒すって……えー〉
〈……OH〉
〈……Why?〉
〈外国人ニキたちもドン引きコメントばっかりじゃん……〉
〈日本人もだよ……〉
……どうやら、物凄く驚かせてしまったようだ。
俺はカメラマンに戻らせてもらい、それからさらに魔物を探して歩いていく。
敵は一体ではなく、二体、三体、最大五体まで行動していることもあった。
これまでなるべく複数の相手とは戦わないようにしてきたが、それでもどうしても複数を相手する必要もでてくる。
三体同時に相手するときは、さすがに俺もカメラを三脚にセットしてから援護に向かう。
俺たちのステータスでは、火力面では負けている。
ただ、速度で圧倒的に上回っているため、俺たちが苦戦することはほぼなかった。
ぶっちゃけ、攻撃をするときに速度で得た運動エネルギーを攻撃に転換することもできるからな。
例えば、突きなどだ。こういった理由から、筋力と速度の相性は非常にいい。
そうして俺たちが無双状態でウォーリアリザードマンを仕留めていくと、
〈すげぇ……〉
〈Aランク迷宮の攻略ってこんな簡単なのか? Aランク迷宮の生放送なんて初めて見たからわからん〉
〈いや、もっと難しいぞ……〉
〈これって、四大クランのエースよりも強いんじゃね?〉
〈一騎打ちなら……たぶん上だと思う。チーム戦だとさすがに違うとは思うけど……〉
「あんまり他の冒険者の名前を挙げて比べないでね。強いかどうかはわからないし」
……他の人の名前を出されると、そのファンもやってきて荒れる可能性があるからな。
澪奈がやんわりと注意をして、俺たちは攻略を行っていく。
そうして、生放送の時間をかけて渋谷エリアでの戦闘を繰り返していき、生放送も終わりに近い時間となる。
俺たちが来ていたのは新宿エリアが見える位置だ。
「一応、探索したときに発見したのがあのエリア。どこかに似てない?」
〈新宿駅じゃん……〉
〈なんでまた現実をモデルにしてるんだろうな?〉
〈迷宮の製作者が何を考えているのかわからん〉
〈何も意味はないんじゃないか?〉
〈いやでも何かあるかもしれないだろ?〉
気づけば視聴者は十万人を超えている。
新宿エリアをカメラに移すと、それに対する意見がいくつも出てくる。
〈一体何があるんだろうな?〉
〈新迷宮でこう何度も現実のエリアを見せられると色々と思うところがあるよな……〉
〈もしかしたら、近い将来こうなるかもよってことなんじゃ……?〉
〈もしもそうだったらいやなんだけど……俺いつもここで乗り換えてるのに〉
〈俺だってそうだよ〉
本当に、どんな意味があるんだろうな。
何もなければいいのだが。
「私たちも、この迷宮の意味は分からない。とりあえず、前回のように急にボスモンスターが出る可能性もあるから、しばらくはこの渋谷エリアで魔物たちを狩ろうと思ってる。明日は息抜きがてら質問の対応とかしながらやろうと思うから、また何かあったら質問箱にお願い」
〈相変わらず、Aランク迷宮攻略するテンションじゃないんだよなぁ〉
〈ほんと、遊びに行くようなテンションなんだよなぁ〉
〈マネージャーさんにも質問いいんですか???〉
「マネージャーにも質問オッケー。ただ、NG質問は容赦なく省くから、そこだけご理解くださいね」
〈オッケー〉
〈りょ〉
「それでは、最後にスパチャについて読み上げていきますね」
澪奈が微笑とともにそう言って、読み上げていった。
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