第21話



「一応、迷宮のボスの可能性もあるから倒さないようにな」

「分かった」


 澪奈が近くにいたからか、ゴブリンリーダーの注目は澪奈に集まる。

 やがて、ゴブリンリーダーが咆哮を挙あげ、仲間のゴブリンを召喚、それらを【鼓舞】で強化し、戦闘が始まった。


 始めに話していた通り、澪奈がゴブリンリーダーの相手を務めるため、俺がゴブリンたちへと攻撃を仕掛ける。

 澪奈は近づいてきたゴブリンを新しく購入したロングソードで両断した。


 ……あっさりと、紙でもきるかのように両断した。

 ……え? マジで?

 思っていた以上にあっさりと澪奈が仕留めたことに驚きが隠せない。澪奈はさくっとゴブリンの首をはねてみせた。


 その的確な剣技は【剣術】によるものだろうが、ロングソードの切れ味も凄まじい。

 値段が上がればその分剣自体の性能も上がるのか……。


 俺の能力だと、そこは分からないんだよな。まあ、ランクの高い装備を使えば失敗はしないだろう。

 ゴブリンたちの注意を引くため、俺がゴブリンたちに攻撃を仕掛ける。


 澪奈が装備中のロングソードを、インベントリから取り出して振りぬく。

 数を減らすつもりで振りぬいた剣だが、ゴブリンを両断することはできないな。


 ……剣の技術的な問題もありそうだよな。

 そう考えると、俺は剣じゃなくて別の武器のほうがいいのだろうか?

 銃とかだったら、当てられるようにさえなれば細かい技術は必要ないのだろうか?


 ……まあでも、当てられるようになるまでかなり時間かかりそうだし……うーむ。


 単純に筋力が足りない可能性はあるが、先ほどの澪奈の一閃はそれでは語れないものがあったな。

 俺は剣で弱らせ、蹴りや拳でゴブリン四体を仕留めると、ゴブリンリーダーがおかわりをくれる。

 これこれ。

 これが稼ぎになるのだ。


 ゴブリン一体あたりで稼げるゴールドは10ゴールドほどだ。

 魔石、素材のドロップとそれぞれの質で多少前後するが、それでも多くても20ゴールドほどだ。

 だけど、短時間で四体召喚してくれるなら、かなり稼げるんだよな。


 慣れてくると、ゴブリンたちがお金に見えてきてしまう。

 ゴブリンリーダーの近くにゴブリンが現れるため、俺はすぐそちらへ向かって攻撃をする。


 ゴブリンリーダーは俺を見て煩わしそうにしていたが、澪奈が相手しているので俺にまで手が回らない状態だ。

 ……澪奈とゴブリンリーダーでは、澪奈のほうが圧倒的に強い。


 ゴブリンリーダーは筋力の数値こそ高いが、速度の数値は低い。

 その高い筋力の数値も、装備品で強化した澪奈と同じくらいだしな。

 ……あと、澪奈の射撃レベルが高い。ゴブリンリーダーが構えた棍棒を的確に射抜いて攻撃を逸らし、剣で追撃など、彼女は剣と銃での戦闘がうまい。


 澪奈ってそういえば両利きだったなぁ、なんてことを考えながら、俺はゴブリンを斬って、蹴って仕留めていく。

 一応、俺の剣でも体の柔らかい部位に剣を当てることができれば、両断できる。

 【剣術】が手に入る手段が見つかっていないため、俺は俺自身の技術を磨いていく必要がある。


 そんなこんなでしばらくゴブリンを倒していると、澪奈がじーと視線を向けてくる。


「そろそろ、私も経験値稼ぎしたい」

「了解。それなら、いったん交代」


 俺がゴブリンを蹴って倒したところで、ゴブリンリーダーへと斬りかかる。

 速度は俺のほうが上回っているので、気を付けるべきはゴブリンリーダーの筋力に任せた一撃だけだ。


 そんなこんなで、俺たちはゴブリンリーダーの相手をするという休憩を挟みながら、ゴブリン狩りで経験値を稼いでいった。




 ゴブリンリーダー道場で稼ぎを行っていると、二十時になってしまった。

 澪奈も明日は学校なので帰宅することにした。

 今日は行きも帰りもダンジョンワープ玉だ。


 ……これは便利だ。

 以前、仕事で遅刻しそうになったときタクシーを一度だけ使ったことがあるが、あの快適さを思い出してしまう。

 タクシーも便利ではあるが、金がかかるんだよな……。


 便利なものはなんでも金がかかる……か。

 本当にネックは金銭面だけだ。

 でも、ゴブリンを二人で狩り続けたからか、短時間とはいえ10000ゴールドほどは稼げた。

 わりと素材のドロップもあったからかもしれないが、それでも一回分のダンジョンワープ玉を稼げたというのは良いことだ。


 さすがに、短時間での連続戦闘だったので疲れはあったけど、二人がかりで本気で稼ごうとすれば、Gランク迷宮でも何とかなりそうだ。

 澪奈の家についたところで、俺は澪奈に声をかける。


「澪奈。明日からの着替えを持ってくるんだったよな?」

「そうだった。ちょっと待ってて」

「ああ。それと……一応俺からも両親にご挨拶をしたいから……少しだけいいか?」

「……うん、分かった」

「なんでそんな真剣な顔なんだ……?」

「だって、結婚のご挨拶……でしょ?」

「これからの活動についてだ」

「分かった」


 本当に分かったのか?

 澪奈から話してくれたとはいえ、それに任せきりでは失礼だ。

 俺が澪奈とともに玄関まで入れてもらい、それから両親を呼んでもらう。

 ちょうど、二人とも仕事から帰ってきていたので、改めての挨拶となる。

 ……ご両親は、どちらも美形なんだよな。澪奈が生まれてきた理由も納得がいくというものだ。


「それじゃあ、私は着替えとかの準備してくる」

「ああ」


 澪奈が階段を上っていったところで、俺が深く二人に頭を下げる。


「夜分遅くに申し訳ありません……」

「ああ、久しぶりだね、茅野くん」

「茅野くん、久しぶりー。夕飯食べていく?」


 父と母とは面識があったが、母のほうは相変わらずだ。


「い、いえ大丈夫です。挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。澪奈さんから聞いていると思いますが……」

「あら、結婚の挨拶かしら?」


 澪奈のからかい癖は恐らく母親の遺伝なのだろう。

 ふふふ、と母親は笑っていて、父親も苦笑を浮かべている。


「違いますって……事務所から脱退した件についてになります」

「ああ。澪奈さんから聞いている。色々と事情はあったようで、私からもひとまず感謝している。ありがとう、茅野くん」

「い、いえ……感謝されるようなことは何も……」

「……なかなか事務所が酷かったみたいじゃないか」


 父親の声が重くのしかかってくる。

 その隣にいた澪奈の母が、笑顔とともに問いかける。


「枕営業のことよね? 枕のことよね?」

「……母さん濁したのだから、口にしないでくれ。とにかく。茅野くんはそれから守ってくれていたそうじゃないか。だから、ありがとう」


 母親がからかうように声を出し、父親が頭を下げてくる。

 ……本当は、枕営業という言葉が出た時点で、怒られるようなことだと思うんだけど、今はこの人たちの優しさに感謝するしかない。



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