第53話




 次の日。

 配信が始まるまではひたすらレベル上げを行っていたのだが。

 

「週刊誌、ねぇ」


 メールボックスにもそのメールが大量に来ていたものだから、困ってしまっていた。

 一応、俺たちの名前も出ていたらしいので、電子版の雑誌を購入してみたのだが、


『現在話題沸騰中の澪奈とマネージャーの迷宮攻略ちゃんねるの澪奈がかつて所属していたあのグループの子と夜のホテル街で……!?』 


 みたいな見出しでのみ俺たちの名前は使われていた。

 俺たちの名前を使っているのは、見出しに書かれている通り今まさに注目を集めているからだろう。


 雑誌を見てみたところ……モザイクのようにはなっていたが、恐らく花梨と麻美、また他の所属している子たちがそこには映っていた。

 それで、一応『スピードフォーク』の公式ホームページに行ってみたが、現在は調査中、ということになっていた。

 向こうの妨害工作などがあるかも、とかは考えていたが……まさか、こういった感じで飛び火するとはな。


「そういうわけで、澪奈。今回の不祥事に関しては最初に簡単に触れるだけで終了にしよう」

「うん……私たちの関係について明かすのはまだ早い……」

「何もないからな?」


 こういったセンシティブな話題に関しては、難しいところがある。

 まったく触れないと、変な噂が出回る可能性もあるが、徹底的に無視を決め込んだほうがいいときもある。


 俺がはっきりと、『スピードフォーク』で行われていたことについて話せればいいが……一応守秘義務というのもあるからな。


 個人的に思うところはあっても、俺は何も口にするつもりもない。

 なんだかんだ、面倒見てきた花梨と麻美を追い詰めるようなことはしたくないしな。 


 配信の時間となった。

 今日の配信では、事前に集めていた質問に答えていく形式なので、確実に週刊誌に関してのコメントも飛ぶことだろう。

 だからこそ、先に仕掛ける必要がある。

 ……もちろん、ワーウルフと戦闘は行いながら。

 

 準備を終えた俺がカメラを澪奈のほうへ向け、配信が始まった。

 視聴者は現在で10000人か。

 ……いきなりこれだけいるのは、週刊誌の内容について気になっている人もいるからかもしれないな。


「皆さん初めましての方は初めまして、澪奈です。それと、いつも来てる方はこんばんはー」


 澪奈がいつもの調子で手を振ると、一気にスパチャが流れていく。

 スパチャって開始と終わりのときによく見ることが多いな。

 ……今回は外国人からのコメントも多くある。ローマ字入力でわざわざ書いてくれている人もいるな。

 そんなコメントの中に、


〈週刊誌見ました。澪奈さんも枕してたんですか?〉


 そのコメントが流れてきた。

 澪奈もすぐに発見し、微笑とともに答える。


「週刊誌について。結構話題になっていたので私も確認しました。私に関しては、一度もしたことはありません。それ以外に関しては、私はもう事務所を辞めた身であるため詳細は分かりません」


 ……澪奈。

 澪奈にしては珍しく、わざとらしい表現をした。

 今のではまるで、他の人はあるような口ぶりだ。


 澪奈からは少し怒気のようなものを感じる。

 ……彼女なりに『スピードフォーク』に思うところがあったのだろう。


 もう少し、ちゃんと毒抜きしてやるべきだったなぁ。反省だ。

 コメントから様々な質問はあったが、澪奈は余裕の表情で当たり障りないことをこたえていく。

 結構どぎつい質問もあったのだが、それらも澪奈は冗談とともに捌いているので、やはり肝が据わっている。


「はいはい。週刊誌に関してはまた新しい情報が出てきたら私からも話せることがあるかもしれませんし、ここまでで。今日は事前に集めていた質問に回答していきたいと思います」


 そういってもまだ質問をしてくる人たちはいたが、それでもひとまずいつもの配信の雰囲気へと戻っていく。

 ……まあ、このくらいなら問題なさそうだな。


「というわけで、今日は草原エリアでワーウルフたちを倒しながら、質問に答えていきたいと思います」

〈迷宮内でやることじゃないんだよなぁ……〉

〈ほんと、この二人だからできることだよな〉

〈質問って何聞いてもいいのか? 色々聞きたいけど〉

〈答えられる範囲に仕分けてるだろそりゃ。変な質問多かっただろなー〉


 それは本当にな……。

 コメント欄を見ながら仕分け作業をしていたときを思い出す。

 澪奈はわりと下ネタとかも気にしないタイプなので笑っていたけど、俺としてはもう少し考えて質問してくれ、という思いだ。


「というわけで、移動しながら……早速一つめの質問です。最初は、色々差し入れしたいのですが、好きな食べ物はなんですか? ……うーん、好きな食べものはみかんなんだけど、差し入れは今は特に送り先とかはない。……さすがに二人で受け取り関係とかまで手を回すのは大変だから。気持ちは嬉しいけどね」

〈みかんかぁ。差し入れしてあげたいけど、さすがに二人だと大変だよな〉

〈差し入れ替わりです ¥1000〉


 ……これを入れたのは、差し入れ送りたいけど住所とかは? とよく問い合わせのメールが来ていたからだ。

 事務所があるわけではないので、送り先に関しては難しい。

 仲介業者にお願いするのもありだが、それはそれで金がかかる。

 まだMeiQubeの収益が入ってきているわけではないので、あまりお金はないしな。


―――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


楽しんでいただけた方は☆☆☆やブクマをしていただけると励みになりますので、よろしくお願いいたします!


※☆は目次やこのページ下部の「☆で称える」から行ってください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る