第76話
「ガッ!?」
……重いな。
弾き上げるようにキングワーウルフの脇腹を殴ったのだが、よろめかせることしかできなかった。
キングワーウルフの視線がぎろりとこちらに向いたが、俺はすぐに距離を取り、気配を消しながら視界から出ていく。
俺に一瞬注目したことで、澪奈の剣がキングワーウルフの足を捉えた。
「グゥゥゥ!」
澪奈は一閃とともに斬撃を放ち、キングワーウルフの内部へと斬撃をぶつける。
……エグイ一撃だ。体内をかまいたちで傷つけるようなものだろう。
キングワーウルフは澪奈を払うように足を振り回し、澪奈は即座に後ろへと跳ぶ。
ダメージは与えているが、致命傷とまではいかない。
……やはり、ステータスによる耐久力が高いな。
「ガアアアア!」
キングワーウルフが叫ぶと、その体に電撃がまとわれる。そして、速度が一気に跳ね上がる。
その変化に澪奈は一瞬目測を誤っていたが、問題ない。
大きく跳んでかわし、次からはその速度に合わせて回避と射撃を繰り返している。
キングワーウルフは何度も踏み込んで澪奈を捉えようと動くが、攻撃は当たらない。
……俺も負けてはいられない。キングワーウルフの隙を見つけ、飛び込んだ。
キングワーウルフへと迫り、先ほどどうように殴りつける。
今度殴った場所は足だ。澪奈が先ほど斬りつけた太ももへ手を振りぬいた。
手刀を意識した一撃が、キングワーウルフの肉体を抉る。
「ガアアア!?」
……血は出ないが、肉を抉るような感覚はある。
悲鳴を上げたキングワーウルフから、すぐに俺は逃げる。
回し蹴りの風圧に肝を冷やしながら、俺は再び距離をとる。
キングワーウルフがこちらに意識を向けるより先に、澪奈の連撃が襲い掛かる。
「ハッ!」
澪奈が斬撃を放ちながらキングワーウルフを攻撃していく。
受け切れなかったキングワーウルフがよろめきながら、その鋭い眼光を澪奈へと向ける。
……俺は消え入るように気配を消し、キングワーウルフと澪奈の攻防を観察する。
澪奈の剣とハンドガンによる攻撃を受けながらキングワーウルフは迫る。
どうやら、キングワーウルフも自身と相手のステータスの差を理解したようだ。
速度では勝てないと踏んで、回避よりも攻撃に集中している。
溜め込んだ力を放出するようにキングワーウルフが張り手を放つ。
その衝撃は空気を震わせるほどのものであったが、すでにそこに澪奈はいない。
攻撃すればするだけ、澪奈のカウンターの餌食になる。
キングワーウルフが顔を顰めながら、後退し中腰にて澪奈を睨む。
「へぇ……いい度胸してる」
……カウンターを狙っているのは明らかだ。
澪奈もそれを理解したようで、舌なめずりと微笑を返す。
キングワーウルフは最初のように速度を活かした攻撃をしなくなっている。
足が原因か。
俺と澪奈の攻撃で確実に足にダメージが蓄積しているのだろう。
ステータス上に変化はなくとも、そうした部位を狙っての攻撃は非常に有効なのだろう。
立ったまま、澪奈の様子を伺っているキングワーウルフに、澪奈は近づかない。
拳銃を構え、そちらに銃を乱射していく。
……キングワーウルフは顔を守るように身を固める。防御に徹しているからか、銃弾もあまり食らっていないように感じる。
……澪奈は額に汗を浮かべ、視線をこちらに向けた。
澪奈も集中したままの戦闘を継続しているのだ。疲労が出てくるのは当然だ。
キングワーウルフは構えをとくと、澪奈へと再び走り出した。
……速い。
ただ、最初に比べて明らかに速度は遅くなっている。
……それは澪奈もだ。お互い、戦闘での疲労がある。
ステータスは大事だが、ステータスがすべてではない。
剣と拳の激しい戦いの中を、俺は割り込むように接近する。
最接近した瞬間、キングワーウルフの視線がこちらを向いた。だが、それとほぼ同時に地面を蹴りつけ、俺は拳を振りぬいた。
キングワーウルフの顎を狙った一撃。
キングワーウルフが人間と同じ肉体構造をしているなら、ここが一番効くはずだ。
事実、ワーウルフやパワーワーウルフは、ここが弱点だった。
「グ……っ!?」
顎から頭へと抜けるように拳を振りぬいたため、キングワーウルフの悲鳴をつぶした。
キングワーウルフがよろよろと後退して、こちらをきっと睨みつけてきたが、その足元が不安定だ。
まるで酩酊しているかのような酔いを感じているはずだ。
すぐに、追撃をするように拳を振りぬく。
キングワーウルフが受けるように身を固めたが、その力が集中している中でももっとも薄い部分へ蹴りを放つ。
「……っ!」
同じ【格闘術】を使っているからか、どのようにして力を入れ、攻撃、防御を使い分けるのかが手に取るようにわかる。
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