第77話


 キングワーウルフが、攻撃しようと足に踏ん張りを入れたのを見て、即座に跳躍してかわす。

 キングワーウルフの渾身の一撃を、しかし俺はすでにかわしていた。


 ……先読みをしていけば、今のキングワーウルフは十分についていける。

 キングワーウルフは俺たちが傷つけた右足をかばうように動いているからな。

 側面に回り、蹴りを放つ。前は耐えられた俺の蹴りも、今ではさすがに無傷とはいかない。

 キングワーウルフが必死に呼吸をして、肉体の強度を高めていくが、俺も同じ【格闘術】の使い手だ。


 キングワーウルフにフェイントを放ち、防御の薄くなった部分へ蹴りを放つ。

 よろめいた。

 そこへ、俺は強く大地を踏みつけ、すべての力を乗せるように回し蹴りを放った。

 キングワーウルフが踏ん張ろうとしたが、耐えきれない。

 その体が吹き飛び、


「ガァっ!?」


 その側面へ、呼吸を整えた澪奈が近づく。

 俺は澪奈に【鼓舞】を使用する。

 キングワーウルフが防御するように腕を上げるが、そこではなく澪奈が腹へと剣を突き刺す。


「ギ!?」


 地面へと縫い付けるように振り落とし、剣を振り上げる。

 キングワーウルフの腹から右肩へかけてを抉る。


「ガアアアア!」


 キングワーウルフがすぐに体を起こして腕を振り回すが、澪奈はそこにはいない。

 側面から首を狙うように剣を振りぬき、深く斬りつける。

 よろめいたキングワーウルフの懐から、俺はアッパーのように顎を射抜いた。


「……!?」


 白目をむきながらも、キングワーウルフはまだ消えない。

 その背後から澪奈が剣を振りぬき、キングワーウルフの胸深くを貫いた。


 ……よくコメント欄ではソロや二人での攻略の厳しさを指摘する声がある。

 その理由がよくわかる。


 ソロであれば、常に相手の最高のステータスと戦う必要がある。スキルや技術、経験によって多少はその差を埋めることはできても、厳しい戦いを強いられるのは明らかだ。


 格上殺しは、なかなか起きない。


 だが、数が増えればそれだけ攻撃の手数が増える。前衛で抑え込めれば、相手の体力を削っていき、徐々に相手のステータスの全開が出せなくなっていく。


 そうして、相手よりも多い人数で魔物を倒していって、迷宮を攻略していく。

 ……一般人と同じような攻略をしたとたん、キングワーウルフとの戦いがここまで楽になってしまった。

 もちろん、俺たちのステータスを整えたからというのもあるだろうが、根本的な部分には二人での攻略の役割分担が響いているだろう。


 キングワーウルフを倒したことによってドロップしたアイテムは、魔石と素材をアクセサリーだ。

 また、アクセサリーか。

 そう思って回収したときだった。


【――ダンジョンの再設計を行います】


 その声が再び俺の頭に響いた。

 俺は急いでスマホのほうへとダッシュし、三脚をつかむ。

 近場にあった録画していた三脚をゲットし、そのまま一気に生放送中の三脚を獲得する。


 俺が飛びつくようにして獲得した瞬間、俺たちの体がはじかれた。


「あべ!?」


 叩きつけられるようにして部屋へと戻された。

 それでも、手元にはスマホと三脚のセットがあった。

 ……良かった、危ないところだった。


〈マネージャー、ナイス判断!〉

〈二人の戦闘凄かったです!!〉

〈めっちゃ感動しました! これ使ってください! ¥3000〉

〈マジで二人でキングワーウルフ倒すとかヤバすぎwww ¥10000〉

〈おめでとうございます! 手に汗握る戦いでまるでアニメでも見てるようでした!〉

〈あんな凄い戦い見られるなんて思ってなかったです!〉


 戦闘中見ることができなかった生放送を確認してみると、いつの間にか視聴者は十万人を超えていた。

 コメントには今も俺たちの戦いを称えるものが流れている。


 そして、そのカメラ越しではあるが……俺は迷宮を確認していた。


「……また、黒い渦」


 澪奈がぼそりと言って、俺たちはその迷宮へ視線を向けた。

 ……やっぱり、また再設計された迷宮。




―――――――――――

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