第25話

 ……まあ、澪奈の力を見ればそれも払拭されるだろう。

 顔見せには二つの意味があって、まず澪奈が安全にボスモンスターと戦えることを見せることと、次回の視聴者を増やすのが目的だ。


 澪奈とともに十階層を進むと、何度目かというゴブリンリーダーとのご対面だ。


〈ゴブリンリーダー!〉

〈ゴブリンよりも一回り大きいな……〉

〈かなり怖い顔してる……っ。しかも召喚するのか!?〉


 驚いたように視聴者たちのコメントが流れていく。

 ……冒険者がわりと一般化したとはいえ、それでも中に入って活動する人はそこまで多くない。


 ボスモンスターとの対面となると、コメント欄に緊張感が走るが、澪奈は二丁拳銃に切り替え、乱射していく。

 ……初めの頃は一つあれば十分かと思っていたが、二丁拳銃という使い方もあるため、今は澪奈が二つ持っている。


 近づいてきたゴブリンを三体仕留め、近づいてきたゴブリンリーダーも銃で牽制して近づかせない。


 そうしながら、こちらに視線を向けて声を上げる。


「次回はアレを倒す予定です。皆、楽しみにしてて」


〈……あれ? 澪奈ちゃんめっちゃ強くない?〉

〈澪奈ちゃん! こっちいいからよそ見しないで!〉

〈ゴブリンリーダーまったく近づけてないやん…w…〉


「マネージャー、一旦逃げる」

「了解です」


 澪奈の声に合わせ、俺たちは背中を向けてダッシュで走る。

 ゴブリンリーダーたちが追いかけてきたが、九階層への階段に入れば自然と魔物たちは姿を消した。

 そこで一息をつくと、澪奈が僅かに垂れた汗を拭いながらこちらを見てくる。


「そういうわけで、もし良かったらまた見に来てください。それと、チャンネル登録よろしくお願いします」


 微笑ばかりだった澪奈が、そこで初めて満面の笑顔を浮かべた。

 ……その笑顔は、見慣れていた俺でさえ思わず見とれてしまうものだった。

 コメント欄も、澪奈を褒めるコメントで溢れていき、同時に登録者も増えていく。

 ……それまで、登録しないで見ていた人たちを一気に集めたようだ。


「マネージャー、それじゃあ今日はいったん切り上げよう。それじゃあ、ばいばい」


 澪奈がひらひらと手を振り、俺はそれを最後に十秒ほど映してから、配信を終了した。


 アプリを落とし、別の端末できちんと終了したのを確認したところで澪奈が疲れたように服の胸元をパタパタと掴む。

 彼女の平均以上の胸元がちらちらと見えてしまうが、俺はそちらに視線を向けないようにする。


「……さすがに、話しながらの戦闘だと結構疲れる」

「お疲れ様」


 俺はインベントリから取り出した飲み物を澪奈に渡す。

 途中で何度か渡していたが、澪奈はなるべく話すようにしていたからな。

 ごくごくと喉に流した澪奈はそれからスマホを取り出す。


「……あれ? 登録者7000人? 凄い増えた?」

「ちょこちょこ増えてったな。視聴者数も一番多いときで1500人くらいいたし」

「そんなに? 大成功?」

「大成功、だと思うな。おめでとう」


 澪奈が嬉しそうにぶいっとピースを作る。そんな澪奈に、俺もピースを返す。

 それからインベントリから取り出したダンジョンワープ玉を澪奈に向ける。


「今日の帰りはこれでいこうか」

「大丈夫?」

「配信の合間にもちゃんと素材は売却してたからな。大丈夫だ」


 コメント欄では、素材がもったいないと言っていたが、俺がこっそり拾っていたので問題ない。

 回収の仕方は簡単だ。素材を踏みつけ、インベントリにしまうだけだ。


 それにしても、さすがの澪奈にも疲れが見える。

 ……最初は毎日でも生放送をするくらいの気迫だったが、これは澪奈のことも考えて週に二、三回とかに絞ったほうがよさそうだな。


 MeiQubeでは活動頻度を多くしたほうが目立ちやすくなるが、澪奈の負担が半端ないことになってしまうからな。

 そんな無理を俺は別に望んでいない。

 事務所に所属しているわけでもないのだから、自由にやっていけばいい。


 澪奈が頷いて手を伸ばしてきたので、俺はダンジョンワープ玉を使用する。

 一階層に移動し、それからゲートをくぐって脱出した。


「一応、安全報告のためにゲート前で撮影しよう」


 そう言って俺をゲート近くに立たせ、澪奈がピースとともに自撮りしていた。

 ……確かに、ちゃんと迷宮から脱出したことをTwotterにあげないと、視聴者たちは心配するよな。


「時間にだけは気を付けてな? 澪奈が家に帰ってから投稿してくれ」

「分かった」


 ……移動時間を考えると、今すぐツイートしてしまうとつじつまが合わなくなるからな。

 ダンジョンを自由に移動するにはスキルしかない。

 今すぐにツイートすると、俺か澪奈がそのスキルをもっていると疑われる。


 それで、実際どちらもそのスキルを持ってないと、今度は別の手段が疑われ、最終的にはダンジョンワープ玉に至るだろう。

 できれば、ダンジョンワープ玉の存在もあまり表に出したいものではない。


 澪奈とともに家を出た俺は、彼女を家まで見送った。



 澪奈とマネージャーの迷宮攻略ちゃんねるについて語るスレ2


 541:名無しの冒険者

 この前の配信よかったな


 542:名無しの冒険者

 澪奈ちゃんファンだったけど、さらにファンになったわ


 543:名無しの冒険者

 ていうか、配信見てて思ったけど澪奈ちゃん、めっちゃ強くない?


 544:名無しの冒険者

 もともとEランク冒険者くらいはあったって聞いてたから、あのくらいじゃないのか?


 545:名無しの冒険者

 Eランク冒険者にしては動きのキレがよかったと思う

 だって俺Fランク冒険者だけど一人でGランク迷宮に挑めって言われたら吐く

 絶対あそこまで戦えないわ


 546:名無しの冒険者

 武器を変えたのがよかったのかもな

 あるいは、前のメンバーに合わせて多少実力を隠していたとか?


 547:名無しの冒険者

 実力隠してた説はあるよな

 ていうか、花梨と麻美も配信行ってたけど、やっぱりそっちが気になりすぎる

 歌の放送してたけど、明らかに……その、一般人レベルなんだよなぁ


 548:名無しの冒険者

 俺も『ライダーズ』のファンだったから一応見てたけど、もういいわ

 あのグループは澪奈ちゃんが支えていたんだと思うわ


 549:名無しの冒険者

 あっちはまったく雑談的なトークがないんだよ

 せっかくの生放送なんだから、ファンとの交流を大事にしていくべきだって


 550:名無しの冒険者

 確かに

 一応、台本を作ったのか、形にはなってたけど……コメントを拾うのとか不自然というかなんかへたくそだよな……

 思い返してみたら、だいたいいつも澪奈ちゃんが対応してた気がするわ


 551:名無しの冒険者

 確かに今までの生放送とか見てみると、澪奈ちゃんが全部拾ってたわ

 それに合わせて花梨と麻美が話を始める、みたいなことが多かったわ


 552:名無しの冒険者

 あと、やっぱり花梨たちは態度が気に食わないわ

 澪奈ちゃんが脱退したのを知らないファンのコメントに、過剰に反応して馬鹿にするような発言があって、一時的に生放送が凍り付いてたし


 553:名無しの冒険者

 コメント欄も草とか言っていたけど、あれは普通に引いたわ

 あのあと露骨に視聴者が減ってたよな


 554:名無しの冒険者

 花梨と麻美を見てると、マネージャーさんがよっぽど有能だったんだと思うよ

 今のマネージャーはあの二人をまったく制御できてないし


 555:名無しの冒険者

 ほんとな

 ていうか、澪奈ちゃんのマネージャーさんも普通に好印象な人だったしファンになったわ


 556:名無しの冒険者

 あれだけ戦闘能力があれば、安全だしな


 557:名無しの冒険者

 安全面は問題なさそうでよかったよ本当に……


 558:名無しの冒険者

 澪奈ちゃんのチャンネルの登録者数、かなり伸びてんな

 美少女で冒険者配信者だとここまで一気に伸びるんだな……


 559:名無しの冒険者

 『ライダーズ』が生放送するたびに評価下げるんだよなぁ

 そっちから澪奈ちゃんに流れてきてるし、女性冒険者の迷宮配信者が少ないしで、色々かみ合ってるんだと思うわ


 560:名無しの冒険者

 一ファンとしては澪奈ちゃんがほのぼの生放送をしてくれるだけでいいわ……







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