第26話

 次の生放送の日。

 学校が終わりの澪奈がまっすぐうちに来て、夕食を作ってくれていた。

 スーパーで買い物をしてきたという澪奈は、やけに上機嫌だ。……買ってきたのもステーキって、大丈夫なのか?


「澪奈、いくらだったんだ?」


 俺がインベントリから財布を取り出すが、澪奈は首を横に振る。


「今回は私の奢り」

「いや、さすがに悪いだろ……?」

「収益化の申請も終わったから。今日から収入が入る」


 澪奈がいつものブイサインをしていた。


「もう収益化の申請通ったんだな」

「うん。全然問題なかった」

「それで、ステーキってわけか……」

「うん。これで、マネージャーに給料も支払えるから」

「まあ、俺のことは……まだ大丈夫だから気にするな。とりあえず、良かったな」

「ありがとう。お金に関しては私は実家暮らしだし、全額渡してもいいくらい」

「いやいや、澪奈が稼いだ金なんだから澪奈のものにしてくれ」

「気にしないでいい。将来同じ財布になるんだから」

「……まあ、とりあえず今日の生放送からはスーパーチャットもつけるか」

「うん。読み上げるのは最後にまとめて、でいい?」

「そうだな。生放送が始まってスーパーチャットがきたときにそれを伝えるって感じで」


 ……何もないのに、いきなり『スーパーチャットは――』と語りだすのは金の亡者と思われる可能性もあるからな。

 まあ、そこまで考えなくても大丈夫だとは思うが、燃える可能性のあることは極力避けないとだからな。


 スパチャに関しては花梨と麻美の反応が露骨すぎて視聴者に引かれたことがあったからな。

 来た瞬間目の色変えるものだから、困ったものだ……。


 澪奈とともに少し早めの夕食を頂く。

 先ほど澪奈が焼いてくれたステーキが……体に染み渡る。

 ……何か仕事を終えたあとみたいになっているが、これから、仕事なんだよな。


 現在時刻は十八時。

 家庭によって、早い遅いはあるが、このくらいに食べると寝るときには消化も終わっているから体に良いと聞いたことがある。

 健康に関する蘊蓄は、その年代で変わるからなんとも言えないが。


「……うまかった、ごちそうさま。俺は食器洗っておくから澪奈は配信の準備しておいて」


 といっても、食事の前にほとんど終わらせてある。

 こうでも言わないと澪奈が食器まで洗い出すので、その役目を奪うための言葉だ。

 俺が澪奈の食器を持っていくと、澪奈が残念がるようにこちらを見てぽつり。


「舐め回す予定だったのに……」

「いくらステーキの肉汁が皿についているからって、おまえそれはちょっとお行儀悪いぞ?」

「違うそっちじゃない」


 澪奈は否定していたが、他に何を舐め回すのだろうか?

 ……深くは考えないぞ。


 とりあえず、澪奈はスマホを取り出し、配信の最数確認を行ってくれる。

 ……まあ、Twotterとかで宣伝含めてやることはいくらでもあるからな。

 食器を洗い終えて戻ると、澪奈も準備を整えていた。


「マネージャーは、準備オッケー?」

「大丈夫だ。澪奈もいいか?」

「うん。いい感じ。それじゃあ、九階層目指していこうか」


 とりあえずは、配信開始前の九階層まで、徒歩で向かう予定だ。

 ここから一時間。

 ゴブリンを無視して進めば、問題ないだろう。

 最悪、間に合わないようならダンジョンワープ玉を使えばいい。


 道中の戦闘は俺が基本的に行う。澪奈には配信の間ずっと戦ってもらうからな。

 とはいえ、澪奈は時々拳銃で援護してくる。


「なんだか連携しているみたいでいい」

「……そうだな」


 一人で潜る時間が多い俺たちからすると、経験値稼ぎは飽きてくるときがある。

 澪奈と話しながらだとその飽きもなくなるし、遠距離攻撃を仕掛けてくるような奴に対して強く出られるからいい。


「ただ、あんまり魔力使わないようにな」

「うん、大丈夫。なんとなく、自分の残量は分かってるから」


 魔銃の弾は魔力なので、使いすぎるといざというときに使用できない可能性がある。

 これから配信なので、無駄遣いはしてもらいたくなかった。

 

 道中特に大きな問題はなく、九階層の入口に到着した。

 配信開始まで、まだ三十分ほどある。


「念のため、ステータスポイントを振っておきたい」

「了解だ」


 安全第一で挑戦するほうがいいだろう。

 俺が澪奈に触れて、彼女の指示通りにステータスを割り振る。

 俺も道中の戦闘でレベルが上がっていたので、その分のステータスポイントを割り振り、メモ帳に転記する。


 茅野圭介 レベル20 筋力:50 体力:20 速度:61 魔法力:20 器用:20 精神:20 運:20

 ステータスポイント:0

 職業:【商人】

 装備:【ロングソード 筋力+3 速度+3】【速度のネックレス 速度+18】【筋力のネックレス 筋力+18】【速度のネックレス 速度+9】


 装備合計:筋力+21 速度+30

 ステータスポイント割り振り:筋力+9 速度+11


 神崎澪奈(かんざきれいな) レベル18 筋力:61 体力:9 速度:97 魔法力:18 器用:53 精神:10 運:10

 ステータスポイント:0

 スキル:【氷魔法:ランク3】【剣術:ランク2】【銃術:ランク2】

 装備:【ロングソード 筋力+9 速度+9】【ハンドガン 速度+9 器用+9】【ハンドガン 器用+3】【ハンドガン 器用+3】


 装備合計:筋力+9 速度+18 器用+15


 俺は昨日と今日の日中にゴブリンリーダーでの経験値稼ぎをしていたので、レベルはここまで上がった。

 澪奈はこの前の生放送中、ほとんど一人で戦っていたからかなり成長している。昨日も放課後にレベル上げをしていたからな。


 このステータスなら、まず負けることはないだろう。

 俺はインベントリに入っている椅子を取り出し、お互いに腰かけて軽く打ち合わせを行う。


「生放送は二十時から開始だ。始まってからの流れは大丈夫そうか?」

「うん。挨拶して、私たちの今の状況説明をして、ゴブリンリーダーに挑戦することを伝える。それで、マネージャーに道中の梅雨払いをお願いして、私がコメントとか見ながら返信していく。視聴者がある程度集まったところで、十階層に移動して戦闘開始でいい?」

「ああ、大体そんな感じだな。あとは、コメントを読みながらとか、流れに任せるって感じで」

「流れに任せる。マネージャーが私を押し倒したときみたいな感じ?」

「嘘をでっちあげるのはやめるように。生放送の話に戻すが、何か話したい内容とかあったら最初の三十分の間に話してくれ」

「私とマネージャーの今日のお泊り会についてとか?」

「それマジで口にするなよ? 洒落にならないからな?」


 ……澪奈は本気で泊まるつもりだ。

 俺はそれを止めるため、澪奈の両親にグループメッセージを送ったのだ。


『澪奈さん、本気で泊まろうとしているんですけど……いいんですか?』

『私は別に気にしていない。本人ももう子どもじゃないからな』

『子どもじゃないから、子どももできちゃうかも?』

『母さん、茅野くんが困っているだろう。安心しろ茅野くん。何があっても私は問い詰めるようなことはしない』

『断っておきますけど俺は何もしませんからね!』


 親御さんに止めもらうために送ったメッセージだったが、こんな感じだったのだ。

 俺の味方がいなくなったため、俺は昨日澪奈のためのマットレスも買ってきたからな。


 そこそこいいマットレスなので、澪奈が使わなくなったら俺のものにする予定だ。

 今はインベントリに入っている。

 あの狭い部屋に出しておくとカーペットのようになるからな……。


「ファンが増える前に私とマネージャーの関係に関してもきちんと説明しておいたほうがいいと思う」

「もう十分関係は話したと思うけど……」

「それはあくまで表の関係だけだから……裏のことも話さないと」

「これ以上の説明は必要ない。とにかく、まとめるとだいたい三十分くらいは準備運動と視聴者集めだな。たぶん、前回の感じだと1000人くらいはいくか?」


 なんだかんだ、二日経った今、登録者は6000人を超えている。

 今もじわじわと伸びているので、今後さらに増えていく可能性はある。

 澪奈は間違いなく才能がある。それを活かすも殺すも、俺次第な部分もあるな。


「とりあえず500人。500人集まったら進もう」

「そうだな。三十分と500人目途で進んでいって十階層で戦闘。終わったら、軽く感想を話しながら、迷宮から出るってことで」

「分かった」


 打ち合わせをしていると、目的の時間となる。

 生放送の画面を見てみると、すでに待機してる人たちも見えた。


「それじゃあ、始めるか」

「うん、お願い」


 澪奈が手鏡で自分の顔を確認してから、こちらに渡してくる。

 手鏡をインベントリにしまったところで、配信を開始した。



―――――――――

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