第24話
ていうか、わりと俺と澪奈への質問が半々くらいあるのだが……? あれ、このチャンネル澪奈のものだよな?
マネージャーの仕事に結構興味を持っている人がいるからだろうか。
俺が受け入れられていることに驚きながら、返事をするとまたコメントが増えていく。
〈休日ってことは、マネージャーの仕事って土日もあるんですか?〉
……思っていたよりも質問が多いよな。
マネージャーといっても事務所ごとにどこまで行うかは違うので、参考になるかどうかは少し不安だ。
「ありますね。ていうか、やっぱり土日のほうが多いので休みは……平日にとりますね」
〈月の休みってどのくらいですか?〉
「……まあ、片手で数えられるくらい……あったらいいですかね?」
〈マネージャーさん。強く生きてください〉
〈マネージャーさんはゆっくり休むといい〉
「ありがとうございます。ほら、澪奈さん。あまりこちらに集中してないで、魔物出てきましたよ!」
このままだと誰の配信か分からなくなりそうだったので、ちょうど出現してくれたゴブリンに感謝だ。
俺が澪奈に声をかけると、澪奈がすっと視線を向ける。
「それじゃあ、ちょっと戦ってくる」
「はい、お願いします」
俺もカメラマンとして澪奈のベストショットを見せられるよう、彼女に付き添う。
コメント欄も緊張した様子で流れていく。
そして、澪奈は練習した太ももからの拳銃抜きを披露する。
〈おっ!?〉
〈みえ……!?〉
それから、ハンドガンを乱射して、ゴブリンを仕留めた。
……一階層くらいのゴブリンなら余裕だよな。
「ふう……あれ、もしかして見えちゃってた?」
コメント欄の様子を見て、澪奈が焦るようにこちらを見てくる。
コメント欄が嘘のコメントで溢れていたので、いつも冷静な澪奈が珍しく焦っていた。
……これは、澪奈の素顔を見せるチャンスでもあるな。
俺はさも見えていたかのような雰囲気を醸し出すと、澪奈が顔を赤くする。
「ま、マネージャー……? だ、大丈夫だったよね?」
「……いや、まあ……それは。ええ、大丈夫でした」
「じゃあ、そんな意味深な顔しないで……っ。焦った……」
澪奈がほっと息を吐くと、コメント欄が澪奈の様子にコメントしていく。
〈なんだか澪奈ちゃんが自然な気がする〉
〈こんな澪奈ちゃんの反応初めて見たかも〉
〈澪奈ちゃん、可愛い〉
「ほら、澪奈さん。コメントされてますよ」
俺がからかうように言うと、むすっと澪奈が頬を膨らませながら歩き出す。
「……ありがとうございます。次からは拳銃持ったままで戦うから」
むすーっと頬を膨らませて歩いていく澪奈は、しかし、その様子がまた可愛いとコメントされていっていた。
気づけば、視聴者は1000人ほどまで増えていた。
……予想以上の伸びだ。
俺としては、今までの経験から500人ほどまで行けばいいと思っていたんだけど。
基本は澪奈か俺がコメントの質問への回答を行い、移動しながら魔物が出れば、澪奈が捌いていくという感じだ。
俺はカメラマンとして、澪奈をとにかく映し続けていたのだが、
〈そういえば、二人で今は迷宮に入っているんですよね? 大丈夫ですか?〉
〈確かにマネージャーさんって特に護衛とかつけてないんですよね?〉
〈めっちゃ危なくない? 前よりブラックな環境になってない?〉
「それは大丈夫です。俺もそこそこ戦えるので」
ある程度進んでいったところで、そんなコメントが出てきた。
……俺は黒子に徹しようと思っているのだが、澪奈がちょこちょこ俺に話を振ってくるせいで、中々完全には消えられない。
今いる視聴者たちは気にしていないようだが、それでも俺はいつ炎上するのかとヒヤヒヤしている。
スマホを眺めていた澪奈がこちらにやってきて、手を差し出してきた。
「マネージャー、心配されてるし……皆に一度戦ってる姿見せたらどう?」
「……それは、確かにそうですね」
一瞬え? と思ったが、今後も俺と澪奈の二人きりでの撮影環境が続く。
俺がそれなりに戦えると分かれば、澪奈の心配をしているファンも減るだろう。
差し出された澪奈にスマホを差し出すと、彼女は自撮りのような感じでカメラを自分側に向けている。
「というわけで、ちょっとだけ私がカメラマンになります。ってこれだと、私のアップしか映ってない……こんな感じでどうですか?」
澪奈は自分のスマホと見比べながら、自分が映るように調整している。
……こういう場で顔を晒すのは初めてなんだよな。といっても、調べればいくらでも出てくるとは思うが。
コメント欄で一体どんな風に言われているのか……。
ちょっと気にしながら、俺は腰に下げていた剣に手をかける。
念のため、インベントリはうつさないようにしていた。
……自分の身を守れるくらいになるまでは、俺のスキルに関して公開する予定はない。
しばらく歩いていくと、ゴブリンが現れた。
ここは第九階層。数は四体で……奥に【石投げ】を持っているゴブリンがいる。
この編成は何度もやってきたからな。迫ってきた三体のゴブリンを剣で捌き、遠距離の【石投げ】をかわす。
隙を見つけて三体を仕留めたところで、【石投げ】のゴブリンへと近づいて斬り裂いた。
剣を鞘にしまいながら澪奈のほうへと戻り、カメラマンを交代すると、コメントが流れていく。
〈めっちゃ動けるじゃん!〉
〈ていうか、わりと顔整ってるやんけ……〉
〈あら、いい男……〉
〈ファンになりました! もっと戦ってるところみたいです!〉
〈若いですね! 何歳なんですか!?〉
冗談なのか本気なのか。
わりと好意的なコメントが多いが、俺はあくまで澪奈の補助だ。
「……まあ、こんな感じなので自分の心配はしなくても大丈夫です。何かあれば命に代えても澪奈さんを守りますしね」
そう言っておけば、ファンも安心だろう。
……まあ、本当に危険な場合に備えて、澪奈のポケットにはダンジョンワープ玉を持たせてある。
俺も個人で持っているので、アイテムの存在はバレるが命までは危険になることはそうないだろう。
そんなこんなで九階層を進んでいくと、そろそろいい時間になってきてしまった。
……予定ではゴブリンリーダーの顔見せまでいくつもりだった。
澪奈もそれを察したようで、少し早歩きになる。
目標まで、もう少しなんだよな。
道中現れたゴブリンを仕留めると、ようやく十階層に繋がる階段前に到着した。
「さて、そろそろ今回の生放送は終わりなんだけど……次回はこの迷宮のボスなのか中ボスなのか、十階層の中ボスに挑戦したいと思います」
〈中ボス!?〉
〈Gランクだっけ? 一人で大丈夫?〉
〈さすがにGランクとはいえ、中ボスともなると大変だよな……〉
「今回は、大丈夫だと思う。それで、次回の配信日は今週の金曜日、時間は二十時からなんだけど……先にボスの顔みせだけしておこうと思います」
〈www〉
〈ボスモンスターの扱いがゲストみたいで草〉
〈大丈夫? 無理しないでね〉
ボスモンスターが相手となるとさすがに心配するようだ。
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