第38話


 まあ、俺の家の洗濯機は乾燥付きなんだけど。

 澪奈のギャグを潰すつもりはないので、俺は口を閉ざしておく。


「今回迷宮で案内していくのは、この木々や岩などがある草原エリアです。……もうちょっと離れたところに荒野エリアと私たちが呼んでいる場所は、まだ行きません。このあたりの魔物が今の私たちにちょうどいいので」


〈了解です〉

〈Dランクの魔物だし、それなりに強いもんな……〉

〈ちょうどいいって……そもそも戦えるのか?〉


「戦えるものですよ、案外。というわけで……今回のゲストのワーウルフさんです」


 澪奈がそう言って指をさす。俺がカメラを向けると、ちょうどこちらに背中を向けているワーウルフがいた。

 レベルは25の個体か。これなら安全だ。


〈ワーウルフ、普通に歩いているのか?〉

〈野生の魔物みたい?〉

〈迷宮が暴走したときみたいな感じなのか?〉

〈この時点で普通の迷宮じゃないな……〉

〈同じような迷宮に遭遇したときは気をつけないとな……〉


「そうなんですよね。ワーウルフたち、普通に歩き回っているので結構警戒してます」


 そういった澪奈が俺を見てきたので、すかさず【鼓舞】を使用する。

 【鼓舞】を受けると、澪奈もなんとなく分かるようで、それを合図に澪奈がハンドガンを両手に構える。


 太ももから取り出すのはもうすっかり慣れている。

 その瞬間のコメント欄も、〈見えた!〉とか〈みえッ!〉で溢れるため、いいお約束を作れたかもしれない。

 澪奈がすかさず拳銃を乱射する。

 初めは魔法で先制攻撃していたが、澪奈の魔法力だとほとんどダメージはなさそうだったので、今は使用していない。


 澪奈の弾丸がワーウルフにあたるが、ワーウルフもさすがに耐える。

 弾丸をかわすように最後に動いていくが、澪奈の弾丸が吸い寄せられるように当たっていく。

 これにはコメント欄も驚きの声で溢れていた。


〈マジでDランクの魔物と互角?〉

〈銃捌きうますぎん……?〉

〈これソロだし、パーティー組めばもっと上の迷宮にも挑めるぞ……〉


 そう考えると、俺もそこそこ戦える冒険者になっているのだろう。

 ……とりあえず、この仕事がなくなっても食っていけるか?

 そんなことを考えていると、澪奈とワーウルフが交戦する。


 ワーウルフの蹴りをかわし、隙を見せたところに澪奈が銃弾をぶちこむ。

 ワーウルフの顔を的確に狙い、ワーウルフもそれをわかっているからこそ顔を腕で守る。

 だが、そうすればワーウルフの視界が遮られることになる。澪奈が右手のハンドガンを放り投げ、剣を振りぬく。

 居合のように振りぬかれた一閃が、ワーウルフの足を斬り裂く。


「ガ!?」


 さすがに切断まではいかないが、それでも致命傷だ。膝をついたワーウルフに澪奈が剣を振り下ろして仕留めた。


「ふぅ……と、まあこんな感じで結構ぎりぎり。苦労する相手だから、戦闘中にしゃべる余裕もないです」


〈……すげぇ〉

〈拳銃の精度やばすぎない?〉

〈ほとんど百発百中やん〉

〈これDランクの魔物?〉

〈ワーウルフはDランク以上の迷宮でしか確認されてないからマジ〉

〈澪奈ちゃん、やばつよかわいい〉

〈パンチラを期待している間に戦闘が終わってた……〉


 コメント欄は澪奈を褒めるものが増えていた。

 パンチラは……気にしないとな。

 一応澪奈は見られてもいいスパッツを履いているそうだけど。


「このあたりの草原エリアはワーウルフしか出ないって感じです。迷宮でいえば一階層にあたると思う? 次はこっち」


 澪奈が案内していくのは、俺たちが発見した魔法陣だ。

 魔法陣の前に立ち、俺がそれを映す。


「これが見つけた魔法陣」


 澪奈が魔法陣を指さすと、コメント欄も増えていく。

 皆疑問が多いようだ。罠を疑う声も多いが、澪奈は首を横に振る。

 それから俺を手招きし、近くの茂みに隠れ、俺はその隙間からスマホのカメラを向ける。


「ちょっと、小声で話すけど……見てもらったほうが早い」

〈澪奈ちゃんの小声いい〉

〈ASMR配信待ってます ¥1000〉


 そんなコメント欄を見て時間を潰しているときだった。

 魔法陣が光を上げ、そこからワーウルフが現れた。




―――――――――

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