第144話






 ここ数日。

 異世界の魔物たちを倒せるようになるために、俺はレベル上げを行っていた。

 同時に、考えていたこともある。


 それは俺の能力――対象のステータスを見る力を公開するかについてだ。

 現状、異世界の魔物は強いことはわかるようだが、明確にどのくらい強いのかについては伝わっていないようだ。


 それは仕方ないと思う。迷宮のランクを測るうえで、出現する魔物は一つの判断材料として使われるからだ。

 にもかかわらず、異世界の森に出現しているのはただのゴブリン。これでは、俺たちがわざと苦戦しているように思われる可能性もある。

 だからこそ、俺が他人のステータスや自分のステータスを見られるようになった、と伝えるのはいいことなのではないかと思う。


 問題は二つある。

 一つは、あくまで俺しか見えない情報という点だ。だから、俺がいくら相手が強いといっても、まるで意味がない可能性もある。

 もう一つは……間違いなく、冒険者たちの常識を覆すことになるということだ。

 ステータスという概念が分かれば、確実に冒険者全体の底上げにはつながるだろう。一番分かりやすいところに影響があるとすれば、装備品の値段とかだろうか。


 現状、アクセサリー類があまり高値でないのは、武器や防具としての使い道がないと判断されているからだ。

 ……だが、今後アクセサリーでもステータスが強化されるとなれば、前よりも高値になるのは間違いないだろう。


 それでも、武器や防具と比較すると確かにできることは少ないので、値段は落ち着いていたものになるはずだが、これまでよりは上がるはずだ。

 そういった細かい方面への変化を与えることもある。……まあ、装備が与えるステータスへの影響については秘匿してもいいのだが、俺は冒険者全体が強くなってほしいと考えている。

 理由は簡単だ。


 ……異世界人の存在だ。

 カトレアとここ数日ともに魔物と戦っているが、彼女の能力はやはりずば抜けたものがある。

 カトレアは俺たちに敵意を持っていないが、もしも彼女が俺たちを敵として見ていたらと考えると……恐ろしいものがある。


 今後、異世界の探索を進めていけば、異世界人と出会う機会も増えていくだろう。カトレアが異世界と地球を行き来できるようになっているのだから、異世界の他の人たちだってその手段を持っている可能性はある。


 今後どのようになるかわからないが、もしも地球と異世界とが当たり前に行き来できるようになったとしたら……そのときに考えられるのが、お互いの世界の衝突だ。

 地球でさえ、国同士で争っているのだ。違う世界同士、すべて仲良くいくとも限らない。

 そこには、思想や考えの違いもあり、必ず何かしらの衝突が発生するはずだ。


 最悪の結末としては――戦争。

 そうなったとき、地球人は……カトレアを基準として考えるならあまりにも無力だ。

 だから、今のうちの俺の知る情報を共有するというのはタイミング的にもありだと思う。


 ……まあ、異世界人がみなカトレアのように好意的に接してくれる可能性もあるので、すべて杞憂に終わる可能性もある。

 そんなことを考えていると、ともに魔物狩りをしていたカトレアがこちらを見てきた。

 今日はカトレアと二人きりである。平日の日中なので、澪奈は学校だ。


「ケースケ様。難しい顔をされて、どうされましたか?」


 ……どうやら考えていたことが顔に出ていたようだ。

 別に隠すようなことでもなかったし、一人では考えが煮詰まっていた部分もあるので、カトレアの意見を聞いてみよう。


「異世界人って……地球人に対してどんな風に考えるのかと思ってな」

「どんな風に……ですか。私の基準でお答えしてもよろしいのですか?」

「まあ、参考になるかなと思ってるんだけど……」


 そういうと、カトレアはこちらに顔を向け、ぎゅっと手を握り締めてくる。

 それから嬉しそうに微笑む。


「私はケースケ様をお慕え申していますよ」

「……いや、俺じゃなくて。じゃあ、例えば他の地球人はどう思うんだ?」

「レーナ様もとても仲良くさせていただいていますね。レーナ様のご両親とももちろん仲良いですし……近くのコンビニなどでも楽しく買い物させていただいています。特にそれ以上は何も考えていませんね」

「……そっか」


 まあ、カトレアはどちらかというと地球にお客様として来ているからな。

 ただ、別の世界でも楽しく暮らせる人もいるというのも確かだ。

 俺が考えすぎなのかもしれないな。


 軽く深呼吸をしてから、俺は自分のやりたいことを改めて思い出す。

 ……俺は澪奈を有名冒険者にしたい。

 そのためなら、ステータスの公開は確実に好転するはずだ。


 それならやろう。

 魔物狩りをしばらく行ったところで、俺はカトレアとともに部屋へと戻った。


「そういえばカトレア。家についてなんだけど……どうする?」


 さすがにこのまま澪奈のところにお世話になるのも悪いし、カトレアも一人でいられる時間が欲しいんじゃないかと考えていた。

 すでに日本国籍は与えられているし、秋雨会長に聞いたところいくらでも物件の紹介はしてもらえるということになっていた。

 ちょうど日本に戻ってメールを確認すると、いくつかの物件案内と、担当の連絡先があったので聞いてみたというわけだ。


 ただまあ、カトレア本人の意見もあるからな。

 ……一応、澪奈の両親はどちらもカトレアの面倒を見ることに不満はないそうだ。特に、澪奈の母は娘が一人増えたような感じで可愛がっているそうだ。


「そうですね。私もずっとお世話になってしまっているのはレーナ様のご両親にも悪いと思っていたんですよね」

「……そうだよな」

「それに、ケースケ様との同居も考える時期ですしね」

「それは別に考えてないからな?」


 メールに添付されていた資料をカトレアに見せるため、パソコンを立ち上げてカトレアに見せる。

 カトレアはじっとメールについていた資料を眺めていく。

 物件は俺と澪奈の家の近くのものばかりだ。様々な家があるが、どれも高額ではあるが……いっそのこと俺もこのタイミングでどこかに引っ越すのもありかもしれない。

 荷物だって、インベントリに入れておけば即日で済むしな。



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