第167話
倒れたブラッディオーガの体が消えていくのを確認しながら、俺は今回の戦いを振り返る。
思っていた以上に、分身を使ってうまく戦うことができたな。
今回、分身のインベントリを使用し、澪奈とカトレアの攻撃を吐き出していた。
インベントリに魔法を入れておけば、あのような戦い方もできるというのが分かったのはよかったが、これでは澪奈の生放送としてはあまりよくないよな。
今の戦い方だと俺ばかり目立ってしまうので、こういった緊急事態以外はあまり使わないほうがいいだろう。
今回は強敵が相手だったからな……それは仕方ないとして、問題はリーンだ。
……異世界人との出会いはこれで二度目。
だが、どんな対応が正しいのかは分からない。
カトレアは彼女自身が少し変わっている部分もあったので、自然に受け入れてもらうことができたが……リーンまで同じようにいくとは思っていない。
できる限り、俺が異世界人であることは隠しておきたい。
「……えーと、怪我はありませんか?」
驚いたようにこちらを見ていた彼女に声をかける。
「え、ええ……大丈夫です。助けていただいてありがとうございます。あなたがいなければ、私はおそらく死んでいたでしょう」
丁寧に返してくれていたが、どこか緊張や警戒の様子が見える。
「たまたまですから、気にしないでください。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前は、ケースケ、と申します。……この森の賢者に拾われた子どもなんです」
自己紹介はこのほうがいいだろう。
カトレアも俺のことをそう呼んでいるしな。
この森の賢者に拾われた子ども、というのはもちろん嘘だ。
初対面の相手に嘘をつくのもどうかとは思うが、恐らくこのほうが受け入れてもらいやすいだろう。
真実を話すかどうかは、今後異世界の情報を手に入れてからでも遅くはない。
「け、賢者様に拾われた……ですか?」
「はい。たまたま自分と、あともう二人。この森近くに捨てられていたらしく、それを賢者に拾っていただいたんです」
「……そうだったのですか。賢者様が住まわれているのは、本当のことだったのですね」
驚いた様子ではあるが、リーンは納得してくれていた。
……とりあえず、整合性は取れているようだ。
「はい。ただ、住んでいた、というのが正しいです。賢者はもう亡くなってしまっているので……」
「そう、でしたか。もしかしたら、それで結界が弱まってしまっているのかもしれませんね」
「結界、ですか?」
「ええ。私は……聖女様の騎士を務めていまして、この森の結界が弱まっていると聞き、様子を伺いに来ていたんです。そうしたら、最悪にもこの森でも凶悪とされる魔物が外に出てきてしまい、交戦状態になってしまった、というわけです」
「なるほど……そうだったのですか。結界に関しては、私たちもどうすることもできないですね」
「いえ……それは改めて聖女様のほうで対応しますから、気にしないでください。とにかく、今回は助けて頂いてありがとうございました。……それで、また今度。聖女様とともにこの森の結界を張り直しに来る際に、お礼についての話もしたいのですが……もう一度、会うことは可能でしょうか?」
リーンの伏し目がちの問いかけに、俺は少し考える。
……きちんと予定を作れば、生放送の際にその様子を映すというのはありかもしれないな。
異世界人だし……肖像権とかは大丈夫、だよな?
「お礼は別に気にしなくてもいいですよ?」
「いえ……させてください。命を救っていただいたというのに何もしないというのは、私と聖女様の名前を汚してしまいます」
「……そうですか。分かりました。私たちは賢者が暮らしていた家で暮らしていますので、日付が分かればまたここに伺いますが。聖女様が次に来られるのはいつ頃になりそうですか?」
「そうですね……恐らくですが、十日ほど必要だとは思いますが」
「それでしたら、また十日後、この時間にここで待ち合わせ、というのはどうでしょうか?」
「畏まりました。……それでは、また十日後。こちらにて合流しましょう」
リーンは微笑とともにすっと頭を下げてきた。
俺も同じように頭を下げ、彼女が去っていくのを見送った。
俺は森へと入り、戦闘のときからずっとそばで俺たちの様子を映していた分身とともに澪奈とカトレアと合流し、生放送を切り上げて自宅へと戻った。
生放送を終えた後、澪奈が嬉しそうにこちらへスマホを見せてくる。
そのスマホの画面には、Twotterが開かれており、トレンドには俺たちのチャンネル名が入っていた。
……当たり前のようにトレンドに乗るくらいには注目されているんだよな。それは嬉しいけど、ますます下手なことはできないな。
「見て、トレンドに入ってるし、ちょっと調べるとさっそく今日の切り抜きがいくつもヒットしてる」
澪奈が調べてくれた動画には、俺とブラッディオーガとの戦闘シーンの切り抜きがいくつもあった。
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新作始めました。よければ読んでください。
神様特典(チート)で最強支援者ライフ ~異世界に追放された青年は、超安定の冒険者生活を送りたい~
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