第89話
澪奈に一度でも会ってみたいというファンとかだっているだろうし。
色々面倒だよな……。
クランを作るメリットとしては、個人事業主ではなくなるので税制面で多少優遇されることか。
あとは、冒険者を育てる場合に国から補助金をもらえるところか。
その補助金をもらうためだけに、冒険者を入れまくってろくに指導をしないとかで問題に上がったこともあったよなぁ、なんてことも思い出してしまったが。
クランとしては冒険者個人を、会社員のように雇うことができる。
冒険者たちの教育を行うには、教育者として専門の知識を持った人も必要になってくる。
冒険者の教育って、難しいからな……。
どんな隠れた才能があるかと見つけ出す必要があるのだが、俺の場合それは不要だ。
だから、俺の能力ってどちらかというとクランの管理をするほうがあってるんだよな。
【商人】のスキルも、素材いらずで装備を整えられるし、もしかしたら本気でそっちを目指したほうが冒険者業界的にはいいのかも。
他者のステータスポイントを割り振る能力と、他者のスキルを見極める能力は自分が前線に立つよりもいいだろうしな。
もっといえば、他の迷宮にも潜り、スキルなどを獲得していくことだってできるんだからな。
育成においては大手クランでも失敗、成功などはよくあることだ。
期待の新人の育成に失敗した、なんてのもよく聞くものだ。
俺はほぼ失敗はないと思われるし、うまくやれば稼げるとは思うが、別にお金に執着があるわけじゃなしなぁ。
幅広く手を回すってことはそれだけ人員を増やすことにもなる。
そうなればより管理が大変になるし、俺も澪奈のマネージャーをしているのも難しくなるだろう。
澪奈は……たぶんそれを望まないよな。
ひとまずは澪奈が一人でやっていきたい、となるまでは今のままでやっぱりいいよな。
俺もそんな会社の社長になりたいとか、冒険者業界をよくしたいとか大それた願いはない。
あくまで、自分と周囲の人たちの生活をよくできればそれでいい。
メールの処理を終えたところで、俺は澪奈と撮影現場に向かうため、彼女の家へと向かう。
家につくと、
「おはよう」
現れた澪奈は帽子とマスクを身に着けている。
自慢の銀髪は帽子の中に隠れていて、今はほとんど見えない。
おかげで澪奈を見ても気づかない人のほうが多いのではないかと思う。
俺も今はマスクとサングラスを身に着けているので、他人からすれば関わり合いになりたくないような風貌をしているはずだ。
澪奈とともに電車へと乗り込み、本日最初の予定であるスタジオへと向かった。
予定の時間に到着した俺たちは、さっそく中へと案内される。
……いつもなら俺は澪奈をヘアメイク用の部屋へと案内してから、スタッフの人たちに挨拶をして名刺交換をするのだが……今は俺も別室に案内される。
今日の撮影が、俺と澪奈を映すものだからだ。
スタッフに髪型を整えてもらいつつ、鏡に映る自分を眺めていた。
なんで俺まで……と顔に書かれているな。
スタッフの男性がちらと俺を見てきて、どこか興奮した様子で問いかけてくる。
「マネージャーさん、迷宮攻略の生配信見てますよ」
「……ありがとうございます」
「私、もともと迷宮攻略動画とか好きでよく見てるんですけど……個人でAランク迷宮の攻略とか初めてみましたよ。大手クランも動画撮影などはしていますが、すごい大人数使ったりしてるのに、すごいですよね。どうしてそこまで強いんですか?」
「自分たちが戦える魔物と戦っていたら……なんか今のようになったんですよね」
こう答えるしかないんだよな……。
「うらやましいです……私も昔は冒険者を目指していたんですけどね……あんまり結果が振るわなかったんですよね……いや、まあ今も潜ってはいますけどね?」
「……そうなんですね」
これでは俺が嫌味を言ってしまったように感じるよな……。
鏡越しに、スタッフのステータスを確認してみる。
……スキルはもっていないが、ステータスポイントが有り余っている。
それぞれが自分のステータスポイントを自由に割り振れないのって、バグだよな。
目の前の人はオール10くらいしかないのだが、ステータスポイントは200近く余ったままだ。
これが適正に割り振られていれば、まったく活躍できないなんてこともないとは思うが。
筋力、速度に100ずつ割り振って、装備を整えれば……たぶんDランク迷宮の雑魚くらいなら一人で相手できるようになるよな。
世間的に見れば、それはCランク冒険者くらいはあるという評価になるだろうし。
スキル自体は持っていないのが残念だが、冒険者の平均まで引き上げることはできる。
善意で彼の望むように割り振りたい気持ちはあるのだが……下手なことをすると俺の能力もバレてしまうからな……。
自分の保身を優先し、俺は何もできなかった。
ヘアメイクをしてもらったあとは、今回の衣装合わせとなる。
冒険者に人気の服装に袖を通してから、澪奈と合流して撮影となる。
澪奈はカウボーイのような服装で、俺は胴着風の服装だ。
俺は格闘での戦闘からだろうが、澪奈は銃を使っているからだろうか?
どちらも装備品を調べてみると、ちゃんと製作者がいるんだな。
試しに装備してみると、俺のステータスは二倍の上昇量を示している。
胴着だからだろうか? 今後、何かいい装備が手に入ったときはアクセサリーの代わりに装備するのもありかもな。
撮影はすぐに始まり、俺と澪奈がそれぞれ指示されたポーズをとっていくのだが、
「マネージャーさん! もうちょっと頬を緩めてください。自然な微笑くらいで」
「……は、はい」
といっても、こっちはこっちで大変なのだ。
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