第156話


「え?」


 蹴りは、何か格闘技でもしていたのか無駄のない動きだったが、所詮彼のステータスはオール30程度。

 俺のステータスなら問題なく処理できる。

 そして、警備員が追い付いてきて、男を拘束する。

 ……警備員も、ステータスはオール30程度はあるな。

 数人で羽交い絞めしたことで、男はまったくと動けなくなり、そのまま警備員に連れていかれる。

 驚いた様子だった高知さんに、俺はそっと声をかける。


「あの……大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫……です……ありがとうございます」

「高知さんくらいの有名人になると、変な人に絡まれますよね。気を付けてくださいね」

「……そう、ですね」


 俺も、今の立場になってからというもの、変な人に絡まれることが増えたからな。

 例えば、カトレアとかだな。

 いや、有名になる前から澪奈には絡まれていたか……。

 なんてことを考えていると、高知さんはぼーっとこちらを見ていた。


「……大丈夫ですか? もしかして、ケガとかされましたか!?」


 一応、高知さんに何かある前に割り込んではいたが、それでも男が何か変なスキルを放っていた可能性もある。

 最悪、ショップから何か治療できるアイテムでも取り出すかと考えていたが、高知さんはぶんぶんと首を横に振ってから、勢いよく頭を下げる。


「い、いえ! 大丈夫です! 助けていただいてありがとうございました! そ、それでは!」


 頬を赤らめながら、彼女はマネージャーとともに去っていった。

 ……まあ、問題ないならいいんだけどな。

 彼女の背中を見送りながらカトレアとともに撮影現場へと向かおうとすると、カトレアがぽつりと声を上げる。


「……マネージャー様」

「なんだ?」

「あまり、女性に優しすぎるというのも考え物ですよ」

「いやいや。さうがに目の前で襲われそうなら助けるだろ……?」

「助けたあとが問題です。もっと冷たくあしらうようにしたほうがいいです。そうでないと、浮気と認定しますよ?」

「そもそも俺は誰とも付き合ってないんだけど……」


 じろっと見てくるカトレアに呆れながら、俺は彼女とともに撮影現場へと向かった。





 カトレアの仕事が終われば次は澪奈なんだよな……放課後を利用してあちこちの仕事に参加してもらっている。

 テレビ出演なども来ているのだが、今は断っているものが多い。

 澪奈がもっと強くなりたいという意向があるため、あまり時間のかかるものには出ていない。番組撮影となると、関わる人数が増えるため、拘束時間が長くなんだよな……。


 比較的短く終わる、雑誌の撮影やインタビューなどだ。

 俺たちが現場に入っている間、カトレアはAランク迷宮でレベル上げを行っているため、今は一緒にはいない。


「そろそろ次の現場に行くか?」

「まだ時間に余裕があるなら、歩いて行かな? 二人きりのデートって久しぶりだし」

「ちょっと待て。二人きりじゃないデートはこなしたことあるような言い方じゃないか?」

「それはもうカトレアがいるときにしてる。忘れたの?」

「あれはただのお出かけだからな? ……とりあえず、少し風にでもあたるか」

「わかった。お互い、気配を消していこう」


 澪奈がそういったとたん、彼女の気配が希薄なものへとなっていく。

 俺にだけは意識できるようにしてくれているが、気を抜けば目の前から消えてしまうほどに薄い。

 俺も同じように気配を消し、街を歩いていく。


 外に出たところで、澪奈が腕を組んできた。不意打ちのような柔らかな感触に驚きながら視線を向ける。


「……澪奈、いきなり何するんだ」

「この前、カトレアとは腕を組んだ、と聞いている」

「いや、いきなりカトレアが組んできてな……すぐに離したぞ? ていうか、それまさかカトレアが言ったのか?」

「自慢げに話していた。ケースケ様は嬉しそうにしていました、って」

「なんて都合の良い変換をしているんだ……」


 カトレアの声をまねるように言ってきた澪奈に、俺は頭を抱える。


「だから、私も同じようにさせてもらった」

「……なるほどな。なら、もういいか?」


 カトレアとも少しの間しか腕は組んでいなかった。

 そもそも、俺たちは気配を消してはいるが、姿が消えているわけではない。

 あまり動きすぎれば周りに気づかれてしまう可能性はある。


―――――――――――

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