第155話


「そ、そうですか……ありがとうございます」

「あっ、今日このあとに入っている撮影ってマネージャーさんだったんですか?」

「いや、今回は私じゃなくてカトレアさんですね」

「あっ、例のエルフの女性の……。マネージャー……確認したいんですけど、マネージャーとカトレアさんの間に何もないですよね?」


 なんで声のトーンが下がっているんですか?


「もちろんです。カトレアさんが暴走してるだけですから」

「ですよね! マネージャーさんは屈強な男性との関係がお似合いですから! 良かったです! それでは、今後も頑張ってください!」


 良くない発言を残し、高知さんは去っていった。

 ……確か、そこそこ有名なモデルさんだったよな?

 俺は次の現場に向かっている間に調べてみると、雑誌の表紙を何度も飾るようなモデルさんだということも分かった。

 ……凄い人とすれ違ったものだ。

 そして、そんな人に認識されているなんて……澪奈のチャンネルも大きくなったものだ。


 今日関わる予定の現場すべてに俺の分身を配置したところで、俺はカトレアのもとへと戻る。

 まだインタビュー中ではあったので、邪魔にならないように見届け、その仕事が終わったところで、次の現場へと向かう。


 向かう、といってもすでに配置済みだ。

 一切時間の遅れなく、仕事を遂行していく。

 これは便利だな。


 移動というのは問題が発生する場合もあるからな。

 もっと言えば、俺やカトレアは人目を集めやすく、移動中というのも気が抜けないからな……。


 そういう事態を考えずに済むのだから、これほど便利なものはない。

 そんなことを考えながらスタジオに戻ってくると、ちょうど撮影を終えた高知さんとそのマネージャーさんと思われる人がいた。

 マネージャーの女性がこちらに気づくと、驚いたように顔を見開いたあと、頭を下げてきた。

 俺も立場的には彼女と同じなので、同じように頭を下げると、高知さんが熱のこもった視線とともに近づいてくる。


「あっ、また会えましたねマネージャーさん!」

「こんにちは。撮影終わったところですか?」

「はい。それで……そちらがカトレアさんですか」


 じとっとカトレアを見てくる高知さん。

 そんなに敵視した視線を向けなくてもいいのに……。

 でもまあ、長年芸能界で仕事をしてきた高知さんには、並々ならぬ努力でその地位を築いてきたはずだ。

 ……カトレアは特殊な立場であるおかげで、特に苦労することなく今の有名人としての立場を手に入れた。

 それが気に食わないという部分はあるのかもしれない。


 きっとそうだ。さっきの屈強な男性と俺がお似合いとか、そんな話はきっと冗談に違いない。

 カトレアは特に気にした様子もなく、ぺこりと頭を下げた。


「はい。カトレアと申します。……えーと、マネージャー様とはどのようなご関係で?」

「特にはありませんが……一ファン、ですね」

「そうなのですね。マネージャー様、あちこちで女性に声をかけられていたので……またかと思ってしまいました」


 そうなんだよな……移動する先々で女性問わず声をかけられるので、大変なものだ。

 一応、変装してはいるのだがすぐ気づかれるんだよな……。


「……いえ、私はそういうファンではありません。あくまで、私はマネージャーさんが別の方との関係を推す立場です」

「別の方、ですか?」

「ええ」


 ……そこ深堀りしなくていいから。

 俺が話を切り上げさせようとしたときだった。


「明智ちゃああああああん! 今日はここにいるんだねぇえええ!?」

「おい! 誰かそいつ止めろ!」


 何か、奇妙な雄たけびのあと、あわただしい怒号のような声が響いてきた。

 何か奇妙な声を挙げながらこちらへと走ってきていたのは、鼻息の荒らい男性だった。


 容姿は整っているのだが、どうにも気持ちの悪い表情を浮かべている。

 顔は不気味に赤く、鼻の下は伸びきっていて奇妙な呼吸が続いている。

 その後を警備員が追ってきていたのだが、彼はかなりの身体能力なのかぐんぐんとこちらへ迫ってきている。


「見ーっつけた! 明智ちゃん! 会いにきたよぉぉぉ!」


 ……せっかく整った容姿なのに、その声はねっとりとしていて不気味に歪んでいる。


「え!? だ、誰!?」


 高知さんが驚いたように声をあげたことから、知り合いではないようだ。

 男は笑顔とともに走ってきて、高知さんへの距離をぐんぐん詰めていく。

 明らかに不審者である。高知さんに伸ばした手を、俺は軽くつかんだ。


「あぎ!? だ、誰だ!? オレと明智ちゃんの関係を邪魔するんじゃねぇぞ!」

「……えーと、不審者ですよね?」

「不審者じゃない! オレは明智ちゃんのフィアンセだ! くらえ! こっちはEランク冒険者だぞ!」


 そういって、彼は思い切り足を振り回してきた。

 いい動きだ。

 顔面に跳んできた一撃を片手で受け止め、そのまま彼の体を持ち上げる。



―――――――――――

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